江原 あの時こうしておけば良かったなど、反省点・失敗談などがあれば聞かせてください。
田部 開業するまでは、治療のことだけを考えていたら良かったのですが、開業医になりますと、経営やスタッフ管理のことも考えなくてはいけません。勤務医時代に経営や税金諸々について勉強しておけばよかったと思っています。もっと患者に来てもらわないといけないと考え、看板を目立つようにしようかなとか、今も日々ずっと何かしら考えている状態です。ホームページを工夫したり、照明を増やして明るくしたり、外に向けてのアピールや自分たちでポスティングなど、毎日スタッフと相談しながら進めています。
安積 オープニングスタッフって大事じゃないですか。最近はハローワークに出しても申し込み電話があまり掛かってきません。私が開業した時は、求人紙にスタッフ募集を掲載すると、衛生士も受付助手も毎日電話が鳴って面接の申し込みが入ってきました。トータルで40人ぐらい面接の申し込みを受け付けて、1日6~7人を面接しました。結果は即戦力を採用しました。即戦力は「印象」「バイト」「ヘーベル」と言っても分かってくれるのでいいんですが、「前の医院はこうやった。先生はこう言うけど前の方がやり易いと思うけど……」といった癖が付いていて、快く僕の指示通りに動きませんでした。今思えば、どうせ立ち上がりなんてそんなに忙しくないから、未経験者を採って、一緒に医院をつくっていけば良かったと反省しています。
僕がやりたい診療はこうなんやというのを教え込みながら、育てていく方が半年後のストレスは少なかったと振り返ります。採用して半年後に一人辞めてもらいました。それから1カ月後に「辞めます」「辞めます」で、1年経ったらオープニングスタッフ3人が誰もいなくなりました。即戦力(経験者)を採ってはだめではなくて、面接したときの感触として、自分に正直であってほしい。この人はええ人やな、素直そうやな、言葉づかいや人柄、人間性が良い未経験者。そこそこの容姿で経験も2~3年あって即戦力になりそう。でも、なんとなく話していて何かちょっとなぁ? という感覚を持ったら、自分の感覚に正直に採ることをお勧めします。第一印象が大事です。
田部 ネットで募集をかけました。助手が40人、衛生士15人から面接希望がありました。オープニング時のスタッフでは、衛生士・助手が1人ずつ辞めました。助手は全くの初めてで、思っていたのと違ったんでしょうね。衛生士は2週間ぐらいで「辞めます」と。「もっと楽をしたいと」。〝エエッ!〟みたいな。その時は開業直後で一番楽なんですけど。例えば、午後はポツポツとしか予約が入ってなくて、5時以降予約が入ってなかったら「何で私は帰ってはダメなんですか」と。
早田 私の医院は駅に近いわけではないので、助手2人と午前中だけ来てくれるパートの衛生士と僕でオープンしました。開業時は私の気合が入り過ぎているのもあってスタッフの定着が厳しかった。厳しいから必ずしも辞めたわけではないのですが、2年ぐらいでやっと落ちついたところで辞められて、自分がいけないのかと随分悩んだときもありました。そんな時、保険医協会役員の信頼する先生から「そんなもんやで、2年勤めてくれたらええと思わな」って言われて、肩の荷がおりた気持ちにしてくれました。辞めた衛生士が他医院へ行って、しばらくしたらその衛生士が「先生ところ空きがないか。うるさいけど、先生ところが良い」と戻ってきてくれました。僕の診療スタイルを知っていて、よそも見て、それでもう一度、うちで勤めようと言われたのはありがたかったです。ベストはずっと続くことですが、最近ようやくそういう感じになってきました。
採用時のテクニックで社労士から教わったのだが、採用を断る際に「欠員が出たらお電話させてもらってもいいですか」と一言付け加えるらしいです。そうしたら1カ月後、2カ月後でも欠員が出た際に、「もう決まりましたか?」と言って、面接時に断ったけど良いと思った人に電話ができます。とはいえ、私も開業の時はそんな知恵はありませんでした。
江原 スタッフの人数を決める基準はどうされましたか。
早田 基準は、開業時のマーケティングリサーチです。当初の患者は何人、1年後はこれぐらいじゃないかという数がでます。それに対応する採用計画を立てます。患者が来ない場合でも雇った人を辞めてくれとはいきません。一般的にオープニングスタッフが3人というのはよくあります。開業当初は10人ぐらいという予想であれば、2人採用というところでしょう。
安積 チェア4台で20人ぐらい受診したら、私と受付1人、衛生士2人の合計4人いたらまわせます。だから3人採用しました。すごい感じの良い患者が来られて、問診票に23歳でパートと書いてありました。治療終わりに、「ちょっと関係ない話ですが、正社員をお探しですか?」「探しています」と言われて、「うちも正社員探しているので」ということになって、面接して条件つめて採用しました。声をかけたけど「もう、決まっています」と言われたら、「残念でしたね。今の職場辞めることになったら電話ください」という感じでしたが上手くいき、もうその人は4年目です。
私の話ではありませんが、コンサルタントから言われるのです。〝差別化〟という魔法の言葉で。日曜日にやった方が立ち上りが早いですと。当然スタッフも配置しないといけません。面接のときに「日曜日もやりますけど」と納得してもらったはずが、「やっぱりイヤ」と辞めます。業界のイメージとして、病院とかクリニックというのは、基本は休みというイメージが強いですし、安定雇用という面から日曜日も開けるというのは難しそうです。
江原 商業施設内にある医院ですので、施設が営業している間は開院してくださいと言われます。当然ながら日・祝も、夜も8時までやってくださいと、私やスタッフにとっては厳しいです。