新規開業をするに当たっては、多くの先生方が夢と希望を抱いて準備を進められると思います。しかしながら、医院を取り巻く環境は厳しく、患者にとっては給与が増えない、医療費の窓口負担や保険料が増えた――などで受診抑制が続き、開業しても果たして多くの患者が来てくれるのだろうか? といった先行きの不安を抱えながらの開業になります。本誌の最初に、開業にあたっての課題に立ち向かい、乗り越えられた3人の先生方に体験を聞かせてもらいました。
江原 開業にあたっての一番のポイントは、多くの患者に来院してもらうことと思います。始めに、①開業しようと至った経緯と目的②その際に誰に相談したのか③物件探し④診療圏調査(マーケティングリサーチ、図)――をお教えください。
田部 準備期間は結構短くて9カ月ほど前から真剣に考えるようになりました。開業するよりも勤務医としてそれなりにやっていければいいかなと思っていましたが、勤務先の院長が70歳を超えてきたあたりから、このままの状況は続かないと思いました。また、今後自分より年下の院長のもとで働くのもどうかなと考えました。結婚をして将来を考えたときに、このままだと未来がなくなるなという、ちょっと切羽詰まったものを感じて慌てて動き出しました。無料の「開業セミナー」などにとりあえず行きました。後は同級生で開業している友人や先輩から話を聞きました。
今までは普通に買い物などに出かけていたのが、ちょっと周りが気になりだして不動産屋とかを意識するようになりました。私が車を持っていないのと、スタッフが通勤しやすいように、駅近で1階を意識して歩きました。また、材料屋・チェアメーカーとかに声をかけました。家賃は坪単価1万ぐらいと聞いていたので、25~30坪の物件がないかというスタートです。患者層としてはファミリー層ありきで考えていました。勤務先も下町でしたから、保険中心で色んな年代の方を見ていたので、地域的にはそのような人を診るという前提で探していました。診療圏調査は自分で人口などを調べて、後はインターネットと足で調べました。
早田 元々は歯科ではない大学で別の勉強をしていましたが、歯科医院の経営者になろうと思って歯学部がある大学へかわりました。勤務医時代もずっと開業のことを考えながら仕事をし、自分が勤務している診療所に出入りしている業者や、展示会で知り合った業者でこの人は信頼できると思う人に「いずれ自分は開業するつもりである」ということを前提に付き合いました。開業はゴールではなく、自分の人生にとってはそこからがスタートだから、ずっとお付き合いできる人を勤務医時代に探していました。
私も勤務先には幅広い年齢層の患者が来ていましたので、開業するなら下町を考えていました。場所を決めるポイントとして、簡単に横断できる12㍍道路に面した1階、そういう場所というのを業者の方を通じてずっと探していました。目的である歯科医院の可能性を探るためにリサーチ業者も使い、やるべきことをしっかり調べました。医療サービスを地域の人に提供することが結果につながるわけですが、開業の前提として、第一に経営として成り立たないとダメ。第二に勤務医の時にできなかった自分が思う歯科医療を実現できる環境かを考えました。
マーケティングリサーチで注意したいのが、各医院の状況です。例えば、ものすごく患者を集めている医院があると、既にその場所はその医院が陣取ってしまっていることが現実にあります。開業地を地図上に表していくと、直ぐ近くに歯科医院が1軒ありました。しかし、その先生は80歳代でしたので競合しないと考えました。また、近くに中型のスーパーマーケットがあったのも決めた要因の一つです。ただ、このスーパーマーケットは5年後に親会社の都合で閉店しました。大きな計画の狂いでしたが、軌道に乗った後で助かりました。
安積 卒業後、大学の先輩が多く勤務する歯科医院へ勤めました。勤務先では3年目、4年目、5年目の先輩が3人いて、順番に開業していく。いよいよ自分の番になったけど勤務医時代の給料では貯金もしれているし、実家も金がない。ある先輩から「新卒はいらんけど、そこそこできるやつが欲しい」という声がかかり、卒後3年で別の医院の副院長として迎え入れてくれました。5年も経つと同級生も開業しだしているし、「開業したらこれだけ点数があがって、手取りこれだけで、やっぱり勤務医時代とは比べもんにならん」という話を聞いて、僕も開業しようかと思いました。
その後、他府県で雇われ院長になったものの、オーナーの言うことを聞かないといけない。それがストレスで辞めて、大阪に帰ってきました。そんな中、『大阪歯科保険医新聞』を見たら、物件案内が掲載されていました。これが今の私がやっている物件です。前の先生が開業して1年半しか経っていなく、チェア4台(うち2台は古い)、パノラマがあって、基本の小器具からオートクレーブまであり、明日からでも即開業できる状態でした。