新規に医院を開設すると「個人事業の開廃業等の届出書」や「所得税の青色申告承認申請書兼青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に届け出ることが大切です。開業後2カ月以内に青色申告の届出を最寄の税務署に提出しなければ自動的に白色申告に見なされます。
新規開業の場合は、設備や諸経費が一時に投入されるために赤字申告や実額計算で節税を図るのが一般的です。個人事業者は原則が白色申告であり、届け出ることで青色申告が承認されます。白色申告では赤字を次年度に繰り越したり、特別償却などの有利な経費計算を採用できません。従って、青色申告を選択して各種の特典を活用することがポイントになります。
青色申告の要件としての正規簿記に基づく記帳保存が必要になりますので、ご注意下さい。参考として、白色申告にも記帳義務はありますが、罰則規定がありません。
青色申告を申請し各種特典を採用する手続きを済ませた後で、記帳が困難になった場合は白色の申告をすることができますが、逆に申告前に白色から青色への変更はできませんので必ず青色の申請をして下さい。
青色申告の特典を大まかに説明します。
①赤字が出ると次年度以降の所得金額に繰越し相殺をすることができます。
②収入金額は実際収入金で算定できます。保険点数の計算より窓口収入が少なくなることが一般的ですので、窓口の実際金額が有利です。
③当年度の経費を大きく算定する特典経費の活用が出来ます。具体的には㋐開業費償却を1年で償却するなど任意に償却 ㋑医療機器の特別償却㋒青色専従者給与 ㋓青色申告特別控除の最高65万円――などがあります。
一口に税理士といっても、それぞれ専門があります。歯科医療税制に詳しい税理士を選ぶことが医院経営を守るポイントです。税務署出身者は「顔がきく」などの誤った選択をしている納税者を見受けられます。税務署出身者は、一般的に税務調査などでは長年の職業観から脱却できず、納税者より税務当局の立場に立ってしまう場合が少なくありません。
顧問税理士を依頼するポイントは、肩書や地位などによるのではなく、医業税制をよく理解している人、何よりも納税者の立場に立って相談にのってくれる人を見つけることです。開業時はコンサルタント会社や親戚・同僚・先輩からの紹介で顧問契約を結ばれる先生が多いようです。無難なようで落とし穴もあるようです。医業税制は特殊な計算方式があり、税務調査や節税対策で大きな差が起こります。
顧問契約を結ぶ際は、税理士に何を期待して依頼するのかをはっきりとさせることが大切です。税理士業務としては大きく2つの分野(税務帳簿書類作成と税務相談のアドバイス・実務)があります。よく医業に詳しい税理士というふれ込みで多くの顧問先を獲得している税理士事務所がありますが、税務署の下請けのような状況もあります。つまり、院長が求める節税方式を十分に説明し、納税者の権利を守り、納税者の立場に立って相談にのってくれる税理士を見つける必要があります。
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医院の開業には課税はされませんが、税務署は開業時の自己資金の出所(過去の課税漏れ所得や贈与)や、開業準備の出費の会計処理が正しくされているかなどを問題にします。全国保険医団体連合会発行の書籍『保険医の経営と税務』(下図)を事前にお読み頂くことをお勧めします。
大阪府歯科保険医協会では、現在14人の税理士と2人の社労士と提携し、顧問税理士・社労士団を形成しています。定期的に会議を開いて歯科医業のことを勉強してもらっています。医業税務については税法を医業に生かしての節税研究や税務調査を、雇用管理では法改定やトラブル事例などで交流しています。納税者・経営者の立場に立つ力強い仲間たちです。