春藤竜也(株式会社ジャパンデンタル大阪支店次長)
これから開業をお考えの先生方にとって、「成功」とはどうなることでしょうか?
1億円以上の売上? ユニット5台以上や勤務医のいる大規模診療所? 先進機器を導入した最新の治療? 複数の分院経営? 豪邸に住み高級車に乗る?――。
経済的な豊かさに加え、地域の口腔保健(歯科医療)への貢献や、自身が納得出来るレベルの治療を患者一人ひとりに行う、といった歯科医師としての満足度も「成功」の要素です。
この経済的成功と医療者としての成功は、自動車の両輪の関係にあります。経営者と医療者の比率がどちらかに大きく偏ってしまうと、金儲け主義と揶揄されたり、良い診療を追求するあまり金銭や時間、人員や労力といったものを採算度外視した診療を行えば、生活が困窮してしまうかも知れません。
経済的な成功によって初めて先生・スタッフの生活が成り立ち、その家族への責任も果たすことができ、そして患者の利益に資する設備投資が可能になります。
医療者としての成功は、経済的な成功なしに成し得ることはできないと言えます。ただ同時に、医療者としての志がないところには患者は来ず、経済的な成功もありえないということも言えることから、両者のバランスが大事になります。
ここから先を読み進める前に、どうして歯科医師になったのか、どうなることが先生自身の「成功」なのか(何を実現したいのか)ということを是非一度箇条書きにしてみてください。頭で考えるだけでなく文字にすることが大事です。
最初に売上面から考えてみたいと思います。
厚生労働省発表の第21回医療経済実態調査(平成29年)では、個人立の診療所平均売上は4千39万3千円で、その内訳は保険診療3千552万5千円(87・3%)、自費診療439万5千円(10・8%)です。
この数字を掘り下げて考えていきますと、下図の通りです。
1億円の保険診療売上を同様の計算式で考えると、1日の患者数は63人、1時間あたり8人になります。
1時間あたり8人の患者を診るにはユニットが何台必要か、またアポイント枠を何分刻みにするか、ということも考える必要があります(患者の入れ替わり含めて)。仮に先生の使用するユニット2台を30分枠、衛生士の使用するユニットを1時間枠とするなら衛生士用のユニットは4台の合計6台。衛生士枠も30分とするなら2台の合計4台が必要になります。
保険診療で1億円の売上を目指すのであれば、①候補地は(将来的に)1日に63人の来患数が見込める市場性・立地条件なのか、②候補物件は1日63人以上の患者を診ることが物理的に可能なのか、つまり当初から先生の考えるMAXユニット台数分の広さがあるか、または拡張性があるか、ということが必要になります。
また、1日に63人の来患数になると人の動きが非常に多くなります。待ち合いからの患者動線に加え、中で働く先生・スタッフ動線も機能的である必要がありますので、物件がそのような配置ができる形状なのか、ということも重要になります。
もし自費診療売上比率の高い診療所を目指すのであれば、先生方のカウンセリング力や診断診療技術、症例実績に加え、患者にとって分かりやすい診療所の外観や内装、診療機器といったハード面でのアピールが一般的です。患者に「この診療所でこの先生の診療を受けたい」と思わせる説得力が必要なのです。
これまでの経験上、自費診療売上は地域性も大切ですが、それ以上に先生の自費診療への考え方と患者への広告宣伝の戦略によって、多くも少なくもなるように思います。
売上から経費を差し引き、キャッシュアウトしない経費の減価償却費を戻した「可処分所得」は、売上の30%程度が目安となります。勤め人での年収1千500万円を目標とするなら、開業後の年間売上は5千万円で設定すると良いでしょう。
多様化した患者のニーズすべてに応えることは難しく、すべての患者に来院してもらうためにはどうすればよいかではなく、むしろターゲットを明確にし、院長となる先生の理念・診療コンセプトに共感する患者が来院するための診療所づくり、ブランディングという考え方が必要ではないかと考えます。
市場性も先生が開業した後に大規模開発が行われ人の流れが変わってしまうことや、近隣に新しい歯科医院が開業する、と言ったマイナスの可能性を考えればキリがありません。だからこそ、原点に立ち戻りなぜ歯科医師を目指したのか、どんな歯科医師となることが自分にとっての「成功」なのか、ということを考えていただきたいと思います。
この文章が先生にとって唯一無二の診療所をつくるための一助になれば幸いです。