トロコイドポンプの運動と形状

前ページではトロコイドポンプインナーロータの歯形計算法とツールについて紹介しました。本ページではトロコイド運動と形状について紹介します。

本ページのモデルは、3Dは「Fusion360」、2Dは「desmos」で作成しています。

計算仕様:アウターロータ歯数7、インナーロータ歯数6、偏心量6.6、アウター歯形半径17.4


1.トロコイドポンプ


左図は通常の運転状態で、インナーロータと1歯違いのアウターロータがそれぞれの軸で「自転運動」しています。アウターロータの歯は円弧であることに注意してください。

2.インナーロータ基準でみたとき

1.の相対運動はそのままでインナーロータの回転を止めたとき、アウターロータの各円弧中心は、左図のような曲線上を動きます。なお、左図はアウターロータを構成する円弧歯を取り出して円柱として表示しています。

この曲線は後から説明する「トロコイド曲線」です。アウターロータの中心軸が回転する「公転運動」とアウターロータ自体が回転する「自転運動」が組み合わさった運動になります。

トロコイド曲線はペリトロコイドとして書く方法とエピトロコイドとして書く方法があるので以下に紹介していきます。


この例ではアウターロータ
回転の間にアウター中心軸が回転するので、円弧歯形の中心が描く軌跡にも1周中に6個の凸部を生じています。


3.ペリトロコイド

2.の状態でアウターロータの一つの歯に注目して、その運動を解析します。

左図において、白小円(O1中心)はインナーロータのピッチ円、白大円(O2中心)はアウターロータのピッチ円です。固定した白小円の外周を白大円が滑らずに回る時、白大円から延びるアームの先端(O3)は「外トロコイド曲線」(またはペリトロコイド※)を描きます。

アームの先端O3には円弧歯があるため、アウターロータの描く軌跡はトロコイド曲線から円弧歯の半径分内側に入ったところになります(オレンジの曲線)。この曲線は「トロコイドの平行曲線」で、インナーロータの形状です。

※ペリトロコイド (peritrochoid) とは、トロコイドの一種であり、固定された円(基円)の外周に内接するもうひとつの円(転円)が滑ることなく転がるときに、転円に取り付けたアームの先端が描く軌跡である。(Wikipedia)

円弧中心O3の座標は、ベクトルO1O2+O2O3なので(e:偏心量、a:アーム長=O2O3、n:アウター歯数)
x = e*cos(nθ)+a*cos(θ) ・・・(1)
y = e*sin(nθ)+a*sin(θ) ・・・(2)
と表されます。

参考資料
折川技術士事務所「ペリトロコイド曲線とロータリエンジン

4. インナーロータの形状

左図は運転状態での円弧歯(青太線)とその軌跡(白細線)を示したものです。すべての軌跡に接する線のことを「包絡線」といいますが、内側包絡線がインナーロータになります。このことから「インナーロータの形状はトロコイド曲線に中心を持つ円群の内包絡線」と表現されます。

内包絡線を表す媒介方程式の求め方は、前ページに示した通りですが、CAD環境が利用できればトロコイド曲線だけをインポートして、オフセット機能でインナーロータ形状を作成したほうがよいでしょう。

仮にアウターロータの円弧が切り刃工具だった場合、円柱のワークを入れて運転すると、干渉部位が削られて最終的にインナーロータ形状が完成します。この加工は「創成加工」のひとつで、英語でトロコイドポンプを指す「gerotor」は「generated rotor(創成されたロータ)」からきています


5. 同等のエピトロコイド

外トロコイド曲線を描くには内接ではなく、外接円を用いる方法があります。左図において、白大円を基礎円として白小円が外接して滑らずに回っているとき、小円の内部にある点pが描く曲線はトロコイド(エピトロコイド)です。

このときのp点の軌跡はベクトルO1O2+O2pなので
x = a*cos(θ/n)+e*cos(θ) ・・・(3)
y =
a*sin(θ/n)+e*sin(θ) ・・・(4)
ここで
a:O1O2長さ、e:偏心量、n:アウター歯数です。

(1)(2)式と(3)(4)式をくらべると、右辺第1項と第2項を入れ替えれば係数は一致します。sin,cosの中が(1)(2)式はθとnθ、(3)(4)式がθ/nとθになっていますが、θ/n=θ'とおけば同等なので、ペリトロコイドをエピトロコイドに置き換えられることが分かります。


6. サイクロ減速機

3.ではインナーロータを固定しましたが、左図ではその逆にアウターロータ側を固定させたものです。

この構造は「サイクロ減速機」と呼ばれている機構に使われています。中心の軸を入力として、ロータの自転運動だけを取り出して出力させると、インナー歯数をZPとしたとき、減速比-1/ZPとなります。

機構としては「K-H-V型遊星歯車」のリングギヤとピニオンギヤを、ピン(円柱)とトロコイド平行曲線に置き換えものです。リングギヤの歯数ZR、ピニオンの歯数ZPとしたとき、キャリヤに入力ピニオン出力としたときの減速比は、-(ZR/ZP-1)=-(ZR-ZP)/ZPとなってZPとZRの歯数差が小さいほど大減速比が得られます。

インボリュート歯車で歯数差を小さくすることは難しいのですが、ピンとトロコイド平行曲線を使えば、1歯差で構成できるので、減速比は-1/ZPとすることができます。

参考資料
住友重機械工業「サイクロ®減速機の機構」
両角「K-H-V型歯車機構の効率 および軸トルク計算式」

【補足】ペリトロコイドとエピトロコイドの互換性について

ペリトロコイドを表す(1)(2)式は次式から求めている。
xp=(Rm1-Rc1)sinθ+a*sin((Rm1-Rc1)/Rm1*θ)・・・(5)
yp=(Rm1-Rc1)cosθ+a*cos((Rm1-Rc1)/Rm1*θ)・・・(6)
Rm1:
円半径、Rc1:固定円半径、a:アーム長さ

エピトロコイドを表す(3)(4)式は次式から求めている。
xe=(Rm2
+Rc2)sinθ+e*sin((Rm2+Rc2)/Rm2*θ)・・・(7)
ye=(Rm2
+Rc2)cosθ+e*cos((Rm2+Rc2)/Rm2*θ)・・・(8)
Rm
2:転円半径、Rc2:固定円半径、e:偏心量

(5)(6)式は偏心量e=Rm1-Rc1,アウター歯数の逆数1/n=(Rm1-Rc1)/Rm1を代入して
xp=e*sinθ+a*sin(θ/n)・・・(9)
yp=
e*cosθ+a*cos(θ/n)・・・(10)

(7)(8)式は円弧歯中心径b=Rm2+Rc2,アウター歯数n=(Rm2+Rc2)/Rm2を代入して
x
e=b*sinθ+e*sin(nθ)・・・(11)
y
e=b*cosθ+e*cos(nθ)・・・(12)
右辺第1項と第2項を入れ替えると
xe=e*sin(nθ)+b*sinθ・・・(11')
ye=e*cos(nθ)+b*cosθ・・・(12')

(9)(10)式と(11')(12')式を見比べると、次のようにすれば等価である
・a=b
・nθ=θ'

よってe,b,nが既知のペリトロコイドからエピトロコイドの転円半径Rm1、固定円径Rc1を求めるには
a=bとして
Rm1-Rc1=e
(Rm1-Rc1)/Rm1=1/n
の連立方程式を解けばよい。

ペリトロコイドの転円半径Rm2、固定円径Rc2は次式で求める。
Rc2=e*(n-1)
Rm2=e*n

互換計算例

折川技術士事務所様「ペリトロコイド曲線とロータリエンジン」 に記載の「図C 基円、転円の半径比別ペリトロコイド曲線の例と同一トロコイド曲線(下段)を描くエピトロコイド曲線を上段に示す。

ただし左端は、ソフトの都合上上記URLのrc:rm=2:4ではなく2:3である。