正面かみ合い率の計算方法

本ソフトにおいて、アンダーカット時の正面かみ合い率は、独自計算式を使用しています。その内容を紹介します。

正面かみ合い率εαは、「かみ合い長さ/法線ピッチ」として求めます。通常、分子の「かみ合い長さ」は、アンダーカットのない状態での幾何学関係から求めています。本ソフトでは、アンダーカットがある場合も考慮して幾何学関係から計算式を求めています。

具体的には、隅肉開始点をアンダーカット時のかみ合い開始点として計算します。隅肉開始点は、歯面インボリュート曲線と歯元トロコイド曲線の交点のことです。アンダーカット時以外では、二つの曲線は同じ角度で接続されるのですが、アンダーカット時は角度を付けて交わります。この交点直径のことを本Webでは隅肉開始点直径と呼んでいますが、JIS1702-1では「可用範囲開始直径」、JISB1201では「有用歯元円直径」と呼ばれるものと同じだと思います。

正面かみ合い圧力角計算式(従来式)

計算公式では、アンダーカットがないことを前提にc1がかみ合い開始点、C2がかみ合い終了点としている。

外歯車の実かみ合い長さ(アンダーカット考慮

アンダーカットがない場合としてZ25/Z50のケース、アンダーカットがある場合の代表例としてZ6/Z50について、かみ合いの開始点、終了点を比較する

Z25/50

アンダーカットがない場合、かみ合い開始はC1、終了はC2なので、かみ合い率は定義通りとなる

Z6/50

アンダーカットがあると、C1は基礎円以下なのでかみ合い開始点にならない。隅肉開始径D1がC1,T1より内側にあるので、D1がかみ合い開始点となる。実かみ合い長さがC1D1だけ短くなるので、かみ合い率が低下する

内歯車の実かみ合い長さ

内歯車も同様に、リング歯数50に対してピニオン歯数25と6で比較する

Z25/50

ピニオン歯数25では、定義通りのかみ合い開始C1点、終了C2点なので、計算公式がそのまま使える

Z6/50

ピニオン歯数6では、C1点がT1の外側(右側)にあるのでかみ合い開始点はD1となる。よって定義上のかみ合い長さC1C2よりD1C1だけ長さが短くなるので、実かみ合い率が低下する

C1点がT1の外側(右側)にある、つまり基礎円以下の部分なので、ピニオン歯元がリング歯先と干渉する「インボリュート干渉」の状態にある

実かみ合い率計算結果

考察に基づき、以下(1)(2)(3)の長さを求めて、もっとも短い長さを「かみ合い長さ」として「実かみ合い率」を算出する方法を「諸元計算ツール」に織り込みました。

(1)作用線を互いの歯先で切り取った長さ(C1C2)・・・前述の公式
(2)隅肉開始径から歯先までの作用線長さ(D1C2)
(3)基礎円接触点から歯先までの作用線長さ(T1C2)

このツールを用いて外歯車と内歯車の歯数を変化させて「実かみ合い率」と、従来の「公称かみ合い率」の違いを調べました

グラフ中では、(1)は一般的なかみ合い率の定義であるため、「定義式(c1c2)」としています。(2)は「隅肉考慮式(D1c2)」、(3)は「基礎円考慮式(T1C2)」としています。C1,C2,D1,D2,T1,T2は述の説明図参照ください。

他社ソフト※かみ合い率計算結果合わせて記載しました。
※「アンダーカットを考慮して 正確なかみ合い長さに基づき正面かみ合い率を求めています 」との記載あり

標準平歯車(圧力角20°)


他社計算ソフトの結果と、隅肉開始径考慮(D1C2)式の結果がほぼ一致している。

ピニオン歯数15以下で急激にかみ合い率が低下し、歯数10未満では「1」以下となるので、円滑な回転伝達ができなくなる。

標準平歯車ではピニオン歯数17以下はアンダーカットだが、歯数16,17はアンダーカットによるかみ合い率低下はない。理由はアンダーカットで切り取られる領域がかみ合い範囲外のためである。

標準内歯車(圧力角20°)


他社計算ソフトの結果と、隅肉開始径考慮(D1C2)式の結果がほぼ一致している。

ピニオン歯数21以下でかみ合い率の低下が始まり、歯数10未満では「1」以下となるので、円滑な回転伝達ができなくなる。

なお内歯車では、外歯車のアンダーカットに相当する「インボリュート干渉」が生じる場合があり、標準内歯車ではリング歯数50の時ピニオン歯数21以下で発生する。したがってかみ合い率の低下範囲は、「インボリュート干渉」範囲でもあるため、現実には使用しないか、転位によって回避する。

インボリュート干渉:C1点がT1C2線の外にきたとき、基礎円以下なので、リングギヤ歯先とピニオン歯元が干渉する。

諸元計算ツールへの織り込み

今回説明のかみ合い率計算は、諸元計算ツールVersion40に織り込み済みです。

メニュー「設定」「かみ合い率計算」のサブメニューで「アンダーカット考慮しない」「アンダーカット考慮する」の選択が可能になっており、デフォルトは「アンダーカット考慮する」です。

上記のC1,C2,D1,D2,T1,T2点の表示は、諸元計算ツールVersion42に織り込み済みです。

タブ「設定」で「かみ合い点」にチェックすると、表示オンになります。デフォルトは表示オフです。

(参考)内歯車の干渉曲線


両角「転位内歯車の干渉に関する図式解法」より引用

リング歯数50のとき、ピニオン歯数21以下でインボリュート干渉を生じる(A点)