トロコイドポンプの歯形計算

トロコイドポンプのアウターロータは円弧歯なのでモデル化は容易ですが、インナーロータはトロコイド曲線の平行曲線です。平行曲線はCADの「オフセット」を用いれば簡単ですが、CAD以外では数値計算で求めます。

本ページでは数値計算で求める方法についてグラフ計算機「desmos」版と「Excel」版の2つを紹介します。さらにFusion360のスクリプト例も示します。

今回はトロコイドポンプでしたが、同様にトロコイドの平行曲線と円弧の関係を用いる「サイクロ減速機」の曲線板とピンも、本ツールで対応可能です。

トロコイドポンプの考え方(再掲)

トロコイドポンプのアウターロータは円弧歯形です。回転しているポンプのインナーロータを基準に考えると、アウターの円弧中心はトロコイド運動します。このときの円弧の軌跡(包絡線)がインナーロータの歯形となります。

トロコイドとは、固定円の周りを動円がすべらずに回転する時の動円の円周上の内部または外部の一点の軌跡です

グラフ計算機「desmos」による歯形設計

desmos上で動作するアニメーション可能なトロコイドポンプモデルです。

オレンジ円がアウター円弧歯、グレー線がインナーロータ形状をあらわしています。
画面左の「インナー歯数」「偏心量」「円弧歯半径」のスライドバーを動かすとただちにグラフに反映します。

svg形式を経由してFusion360でモデル化可能です。

ご利用希望の方は、連絡フォームにてお知らせください。

実際にdesmos上で動くモデルを下図に示します。

赤〇印の偏心量、歯数、円弧半径がスライダーになっていて、偏心量はy軸方向、歯数、円弧半径はx軸方向に動かすと各入力値が連動して変化し、グラフに反映されます。

「Excel」による歯形設計

Excelの表計算で動作するトロコイドポンプのインナーロータモデルです。歯形の座標CSV経由で、Fusion360で3Dモデル化可能です。ご利用希望の方は、連絡フォームにてお知らせください。

「Fusion360スクリプト」による歯形設計

Fusion360で動作するトロコイドポンプのインナーロータモデルスクリプトです上記のExcelで求めた諸元入力値をPythonプログラムに直打ちして実行します。自前でトロコイド曲線を計算し、CADのオフセット機能でインナーロータの形状を求めます。ご利用希望の方は、連絡フォームにてお知らせください。

計算内容

トロコイド曲線は次式で求めます。(e:偏心量、rk:円弧歯の中心径、rd:円弧歯半径、zo:アウター歯数)
x=e*sin (θ)+rk*sin(θ/zo)
y=e*cos (θ)+rk*cos(θ/zo)
ここでθは媒介変数0
θ≤2πzo

desmos版とexcel版では、トロコイド曲線から距離rd離れた平行曲線は次式で求めます。
X=x+rd *y'/len
Y=y-rd *x'/len

ここで
x'=e*cos(θ)+rk/zo*cos(θ/zo)
y'=-e*sin (θ)-rk/zo*sin(θ/zo)
len = √(x'^2+y'^2)

e,rd,zoは諸元として設計者が与えます。rkは指定がない場合はrf2をアウターロータ小径,rp2をピッチ径として
rk=rf2+rd
rf2=rp2-e
で求められます。指定のrkがあればそれを使います。

なお今回の平行曲線式は一般的な媒介変数式の包絡線を求める式※ですが、ここでは円弧歯の円群の包絡線をもとめています。したがって曲率半径の小さい領域で円群の間隔が広いと、オフセット曲線側では計算点の間隔が拡大して、形状がくずれる場合があります。excel版ではトロコイド曲線を0.01°毎に計算させることで歯数20程度までは形状を維持できると思います。形状がくずれたら、その部分の計算間隔をさらに細かくする必要があります。

Fusion360スクリプト版では、トロコイド曲線はスクリプトで計算しますが、Fusion360に取り込む際に曲線近似され、そのオフセットはFusion360の機能で計算されるので、上記の不具合は出ません。さらにオフセットで求めたインナーロータ輪郭形状も曲線近似されているので最終出力にはこちらをお勧めします。

※:「トロコイドの包絡線を求めてください。 」https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1465990154