「――リトが言葉を選びながら話すのは、やっぱり言霊と祝詞が関係してるから?」
普段食事をするテーブルに愛用している歴史書と厚めのノートを広げ、難しそうな文章を書いていた『リト』と呼ばれる少年に、水色をベースにした青い髪の少年は尋ねる。作業に集中していたらしい彼は、突然の問いに手を止めてこちらを見た。
「…ごめん、集中してて最初の方聞いてなかった」
淡い茶色の髪を持つ彼は困惑した表情を浮かべながら、もう一度言うように促す。
「えと、リトが言葉を選んでから喋るのは言霊や祝詞と関係してる?って話だったんだけど…」「……そうだね。 僕(わたし)も一応調律師だし、 自分の発した言葉の影響力は他の人よりも遥かに大きい。 だからこそ、言葉を選ばなきゃいけないし、軽はずみな発言もできないんだ」
そんな発言はしないに越したことはないんだけどね、とリトは苦笑を交える。すると、キッチンの方から長い金髪の女性がトレーの上にいくつかのカップを乗せて現れた。
「お疲れでしょうから、アップルティーを滝れてみました」
よかったらどうぞ、と彼女はリトが広げているノートの傍らに置く。
「ああ、ありがとう」
感謝の言葉を述べ、彼は温かい紅茶を口に含む。更に彼女は青い髪の少年にも、滝れたての紅茶が入ったカップを手渡した。
「ありがとう。 えと――…」「私のことはウェヌスでも、女神でも、お好きなように呼んでください」
優しく微笑む彼女だが、好きなように呼べと言われても、困る。
「――リトは女神って呼んでるよね?」「うん、そうだね」「じゃあ、あの人は…?」
思い浮かべる黒髪の青年も、彼女のことをリトのように『女神』と呼んでいるのだろうか。自分が目にする精霊は、誰もがリトと繋がっているらしい。ただ、あの黒髪の青年と繋がっていると思われる精霊はまだ見たことがない。――その前に、彼も調律師なのかさえわからないが…。あの時以来、顔も合わせていないのだから知らなくても仕方がないとは思うけれど。リトから彼のことについてあまり話をされないことにも原因はあるだろう。青い少年の質問にリトは少し悩んだ表情を見せる。
「うーん、どうだったかなあ…。 女神、キミはなんて呼ばれているんだい?」「ええと…リヴから私の名前を呼ばれることがないのでなんとも……」
リトに問われた彼女の困った顔をしている姿も綺麗で『女神』と呼ばれる理由もわかるな、と少年が見取れているとガラス玉のような透き通った蒼い瞳がこちらを向いた。
「ゼノンさん」
名前を呼ばれて我に返れば、「やはりご自由にお呼びください」と微笑みかけられる。
「ボクのことは呼び捨てでいいよ。 それこそ『ゼノン』でも『ゼノス』でもどっちでもいいし」
そう笑うと彼女も「そうですか」と嬉しそうな顔をする。
「ホントに…女神様みたいだね、ウェヌスって。」「―――えっ!?」
ぽつりと呟いたゼノンの言葉に声を高く、短く発した『女神』は目を丸くしている。その後ろで小さく噴き出したリトの姿も少年は当然見逃さなかった。
「ゼノンもそう思うか…。 女神は愛や美を象徴する精霊であるのと同時に 僕(わたし)の運の全てを担ってくれている精霊なんだ」「それって本物の女神じゃん!」「わ、私はそんな大それた存在ではありません…! 『女神』と云う素敵な名前をくださったのは主(マスター)ではないですか…! ですからっ、元々の私の名前には『女神』というような意味は含まれてませんっ」
必死に両手を左右に振りながら否定する女神はやはり美しく感じる。そんな彼女に対して相変わらず笑い続けているリトは言う。
「『女神』や『炎』のような言語は個人的に響きが好きなんだ。 僕(わたし)たちが用いる言語にはない情緒を感じるからね。 …まあ良い意味ではない言葉もあるだろうけど、それでも奥が深くて好きだから 僕(わたし)はそれを広めたいし、精霊たちにもこの味を知ってほしい」
何より、本来の名前を呼ぶと使役の対象になってしまうからね…と苦笑を交えた。
「使役…」「そう、使役。 僕(わたし)は自分にできることなら自分でこなしたい。 本当の名前を呼ぶときは、自分にできず、且つ精霊が僕(わたし)を信じてくれるときと その精霊と真摯に向き合いたいときだ」
そう言ってリトは一口紅茶を啜る。ゼノンは予想していた以上に意味のあることだと知り、深く納得した。精霊たちも繋がっている主の意図を察して、付けられた名を受け入れているのだろうか。青髪の少年が温かい紅茶を飲みながら、チラリと『女神』と呼ばれる愛を司る精霊を見た。少し頬を赤らめた彼女は「では…少し宜しいですか…?」とリトに向かい、そしてなにやら耳打ちをした。 それに対して彼は笑顔で頷く。
「ああ、もちろんいいとも」「ありがとうございます…!!」「いますぐにでも庭へ出よう。 ――ゼノンも来るかい?」
嬉しそうに両手を合わせて感謝の言葉を述べる彼女。程よい温かさの紅茶を飲み干して、リトは席から立ち上がる。突然尋ねられて頭の上に疑問符を浮かべたゼノンだったが、彼女が喜んだ理由を知りたくて「行く」と答えた。
「じゃあピースを取ってくるから先に行っててくれ」
言い残してリトは2階の自室へと上がっていく。私たちも行きましょう、と微笑みかけられて、少年も残りの紅茶を飲んだ。
――リトが、精霊たちの本当の名前を呼ばない理由がわかった気がした。…でも、彼は慎重すぎる程に言葉を選んでいる気がする。それも『使役』とやらが関係しているのだろうか。
「リトは――…優しいね」
庭に出て、一面に咲く植物をしゃがんで眺めながら、ゼノンは女神にそう言った。
「ええ、誰よりも私たちのことを考えてくださる本当に心優しい方です」「うん…それ、凄くわかる」
彼女の返した穏やかな声。それに頷いて立ち上がり、振り返れば、丁度リトが何かを持って姿を現した。
「待たせたね。 では奏でようか」
そう言って彼は近くの切り株の椅子に腰を下ろす。手にしていた細長い、筒状のものを横にすると、側面の一部を唇に充てた。
「あれ…何?」
僅かに息を吹き掛けただけで音が鳴る筒を指差してゼノンは隣にいる彼女に聞いた。
「あれは私の楽器――『ピース』です。 精霊にはそれぞれ専用の楽器があって、それを用いることで 私たちの音を奏でることができるんです」
一音ずつリトは音を高くしていく。なんだか不思議な音色だけど、音階は変わらないみたいだ。第一音から始まり、二音、三音…と音程を上げていく。第六音に差し掛かったとき、「あっ」と女神は短く声を発した。
「その音でお願いします」「ん、わかった」
リトは一度『ピース』と呼ばれる楽器を離して頷くと、ゆっくりと気持ちを落ち着かせるかのように深呼吸をする。その間に女神はリトとゼノンの丁度中間へと歩き、主と向かい合うように立った。その瞬間、辺りはしん…と静まり返り、穏やかな風が植物を撫でる。リトが、今一度――…より深く息を吸う。そうして楽器に唇を添えると、女神も同じく息を吸った。リトが奏で始めると、一緒に女神も唄い出す。―――開始と同時でも、僅かなズレのない見事な調律。一切の狂いもないリトの演奏と、女神の歌唱。彼女の唄っている歌詞は少なくともこの国の言葉ではないので、意味までは理解できないが、彼の奏でる穏やかな曲調と、美しく、心にまで響く彼女の歌声が見事に重なっていて恐ろしさを感じるほどで鳥肌が立つ。――…いや、唄う彼女の姿にさえ、畏怖を抱くのだ。穏やかな気分になるのに、この二人を前にすると微かに怖れの情が混じる。多くの精霊に認められた稀代の天才国家調律師と、愛と美を司る精霊――…。彼らは凄い組み合わせなのだと知らされた。それでもこの二人から伝わる温かさは本物であることは確かで。――誰よりも言葉の重みを理解している彼だからこそ、女神の力と釣り合えて、それでいてこの穏やかで温かい音色を奏でることができるのかもしれない。ゼノンは二人を眺めながら、彼らが紡ぎ出す美しい旋律を聞いた。
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結 局 自 己 満 足・・・!!NaturalWordsはまともに本編書いてないくせにこーゆー本編と密接した内容になる…!世界観も、用語も多分読者さまからすればわけのわからんことばっかだと思います――ということで、いずれまあ時間あったら紹介します(笑)
リト ⇒ 『言葉』の“重み”を知る調律師 リヴ ⇒ 『弱さ』の“意味”を知る騎士 ゼノン ⇒ 『差別』の“痛み”を知る魔術師
まあこのチート3人衆が、長期にわたって精霊集めをする話です精霊にもいろいろタイプがあって…女神とか炎とか一葉は前に出てました
長々しくてワケのわからない話を読んでくださってありがとうございました(^人^)しばらくはNaturalWords書かないと思ったけど、考えてみりゃ月末リヴ誕生日やん…
(2011.10.03 初投稿)