夏の雨は時に恵みを与え、時に被害を齎す。 数日前から続いていた記録的な豪雨がようやく上がり、からりと晴れた空から眩い陽光が降り注ぐある日のこと。 政府に次々と舞い込む各地の被害状況を受け、国内の地図を見比べながら緊急会議を開いていた王と歴神と呼ばれる臣下たちの元へ新たな報告が青天の霹靂の如く飛び込んできたのである。
「おぉい、星夜と朱雀、ちょっといいか?」
ほとんどの歴神が集まる会議室に現れたのは赤いジャージに身を包んだ二十代半ばの男性――10月の歴神の神無月大輔だ。 会議中、来訪者に気付いた別の歴神の連絡を受けて城門へと向かった彼は客の取り乱しように緊急性を感じ、当人の要望通りに星夜と朱雀の二人を呼びに来たのだと言う。
「用件は?」
部屋の入口に佇む青年へ一同が視線を向けるなか、短く声を発したのは国王補佐兼歴神総括の如月星夜。 災害救助により人手不足となった政府からの要請で歴神の何名かを派遣することになり、指揮を執っていた彼は各々への説明をしながら地図をなぞっていた指を止めて大輔へと尋ねる。
「昨日の大雨で池観村が大変なことになったとかで村長が来た」
簡潔にまとめられた報告を聞いた歴神最年長の男性――水無月朱雀は明らかに眉を顰めて問い返す。
「被災して大変なのはどこも同じだろう。政府や自治体に救援要請を出さなかったのか?」「一応は出してるみたいだぜ? よくわかんねぇけど、それ以外でオレたちに頼らなきゃなんねぇ理由があるらしいんだよな」
来訪者である池観村の村長と顔見知りの朱雀には〝理由〟とやらの見当がつかないらしい。怪訝な面持ちのまま今度は星夜へと視線を移す。
「二人とも抜けたら会議は中断せざるを得なくなってしまうな。――俺だけでも話を聞いてこようか」
わざわざ二人とも話を行く必要もないだろうと判断した朱雀は、星夜の同意を得て大輔と一緒に部屋を後にした。 静かに閉ざされた扉を見つめながら側近の隣で話を聞いていた少年国王――架軍祐が胸中の不安を吐露する。
「救援要請も出してそのうえ城にまで来るんだから、よっぽどの事情があるってことだよね……。俺も話を聞いておきたいけど、朱雀の報告を待つしかないか」
訳あって自らの身分を隠している祐は城の外では星夜の親戚であることを名乗っている。池観村の村長とも何度か顔を合わせたことがあるが、今回は朱雀と大輔が対応してくれると言うのだから、この場に残って先程の話の続きをした方が得策だと考える。
「さっきの話ってどこまでしたっけ? ――って、星夜?」
神妙な面持ちのまま思考を巡らせている側近に気付き、その名を呼ぶと。
「池観、か……」
何やら思い当たることがあるらしく、顎に手を当てる星夜。
「どうかしたの?」「……いえ、何でもありません」
主の問いかけにゆるゆると首を横に振った彼は、場に集うメンバーを一瞥し、各地の要請内容の確認と割り振りを再度行う。 ――わざわざ城に助けを求めるほど特別で深刻な用件がまさかトンデモな事態になっているとは。祐をはじめ、歴神の誰もが予想だにしない出来事が起こっていたのであった。
* * *
ほとんどの歴神が準備や打ち合わせのために出払ったあと。 池観村の村長と話を終えて戻ってきた朱雀が連れていたのは小さな子ども――の体躯になった水の精霊だった。
「えっっっ精霊(あきよし)?? 一体何があっ――でぅっ」「うわああああん祐~! こんな小さくなってしもた~!」
顔を合わせるなり祐の腹部をめがけてハグ――もといタックルをしてきた身体を抱き留めて、宥めるようにその背を撫でる。 形(なり)は小さいが、藍のなかに一際目立つ青の混ざる髪とこの口調、そして触れたときに感じる心地よい冷たさは紛うことなく自分たちの知る水の精霊本人だ。 泣き真似をしながら数分ほど甘えるように腰にがっしりとしがみついていた精霊は、しばらくしてから固い抱擁を解いて落胆の溜息を落とした。
「な、なんでそんなことになっちゃったの?」「一言で言うなら豪雨のせいやな……」
近くの椅子によじ登って腰をかけ、浮いた足を揺らす幼子。 外見は五歳くらいに見えても、中身は三百年近く生きてきた精霊そのままのようだ。 いつも自信たっぷりの表情は誰の目から見ても明らかに落ち込んでいて、喧しく回る舌は普段の勢いを忘れたかのように大人しい。
「池観村の村長さんが来たのと関係があるんだよね?」「関係があるというより水蓮のことで相談に来た、と言った方がいいだろうな」
祐の問いに答えたのは事の顛末を聞いた朱雀だ。 水の能力の扱いに長けた6月の歴神へと視線を向けると、彼は同情の眼差しを己の守護精霊に向ける。
「どうやら村の内部を通る川が氾濫したらしい。発端は上流で大きく嵩を増した水が山の傾斜で広範囲に広がり、村に到達しそうになったところを水蓮が止めた――と聞いている」「精霊って水量のコントロールもできるんだっけ? 止めたってことは村を守ってくれたんだ」
精霊ならばどんな水も自由自在に操れることを知っている祐は村の惨事を回避してくれたことに感謝する。しかし、当の本人の表情は暗いままで。
「制御うんぬんは普段の話や。大規模な浸水は防げたけど今回は激しい雨が長く続いとったせいで対処するエリアが広範囲すぎて魔力がもたんかった」「対処すると言っても増水した分が消えるわけじゃないだろ。浸水しかけるほどの量をどこに逃がしたんだ」
水蓮の説明を受けて口を挟んだのは星夜だ。 確かに彼の指摘する通り、大自然と人々の信仰から生まれた精霊といえど物理的に存在するものを無にすることはできない。 村の広範囲を呑もうとするほどの水量を防いだというのなら、それは即ち、別のエネルギーに変換するか流れを変える必要があるわけで。 問い詰めるような青藍の瞳を向けられた水蓮は気まずそうに頬を掻いて薄ら笑いを浮かべた後、肩を丸めて視線を落とした。
「ホンマは海に投げ込めれば良かったんやけど、如何せん距離があるし現実的にムリやったからな……。一部は魔力として回収したけど効率が悪くて、溢れた流れを何本か纏めて村を避けるよう強引に曲げたんや。そしたら……」「『そしたら』?」
祐が尋ね返すと拗ねるように幼子の口元が尖る。
「その先から土砂が流れてきて、社が呑まれてもた……」
意気消沈した声音。ポツリと呟かれた言葉に祐は息を呑んだ。 村を救った代わりに自らの神殿が壊れるなんて、代償と言うにはあまりにも惨すぎる。
「水蓮の身体が小さくなった理由だが、俺も村長も魔力の枯渇と神殿の全壊が影響していると考えている。このままでは魔力の供給が得られないのと同時に、土地の加護ができない状況が続いてしまう」「だから精霊と関わりの深い俺たちに助けを求めた、と」「さっすが星夜、理解が早くて助かるわ! ほな、そういうことやからヨロシク頼むで!」
先のシリアスは何処へ行ったのか。 ここまでは芝居とでも言わんばかりの水蓮のテンションの切り替えの早さに祐は呆れる。 朱雀の説明から自分たちに求められた役割を察した星夜もまた、真面目な態度を一変させて内心感じているであろう面倒くささを前面に押し出し始めた。
「水の精霊なんだから魔力なんかそこらの氾濫した水を啜っとけば勝手に元に戻るんじゃないか」「なんてこと言うんや! ワイは泥水専用の掃除機とちゃうねんぞ!」「水蓮を称してるのに泥水が合わないとは聞いて呆れるな」「ンもー! ホンマ余計な知識ばっかり付けおって! ああ言えばこう言うんやから!」
ムッキー!と悔しげな声をあげて星夜に食ってかかる水蓮。 キャンキャンと喚く子犬とそれを軽くあしらう主人のような二人のやりとりはもはや見慣れた光景だ。普段と何ら変わらない雰囲気を感じ、祐は少し安堵した。 しかし、このくだらない問答の中に大きなヒントを得たような気がして、子犬と化した彼へと閃くままに問いかける。
「そうだ。泥水じゃなくても真水なら効果があるんじゃ――」「まあ、それで何とかなったら自分で解決しとるわな」「……だよね」
言われてみればそうだ。 自分より水の性質をよく理解している精霊ならば、それで何とかなるならすでに試しているだろう。 ツッコまれてから納得した祐は他に手が無いかと思案する。 とにかく優先すべきは存在を維持するための魔力を得ること。 相性の良い誰かから貰うことができれば――と考えたとき、ふと朱雀の清涼感のある青い瞳と視線が重なる。
「そういえば朱雀って前に精霊から魔力を貰ってたよね? その逆で人間から精霊にあげるとなると、やっぱり純度が違ってだめなのかな」
ダメもとで提案してみるも、それが難しいことは祐も理解していた。混ざり気のない純水のような魔力と個性を含んだ魔力は似て非なるものだからだ。 二人を例えるならば、水蓮が溶媒(水)で朱雀が水溶液(食塩水)。 個性のある食塩水に水を足しても食塩水のままだが、逆のことをすると――つまり、水に食塩水を足すと溶媒は溶液と化してしまう。 この話を魔力に置き換えるなら、水蓮は朱雀の魔力を受け入れた段階で魔力の性質が異なる危険がある。属性同士の相性が良くても拒絶反応が出る可能性が少しでもある限り、慎重に進めたいところではあるのだが。 方法の一案として挙げた祐に朱雀も「確かに」と頷く。 同じくして水蓮の反応も概ね好感触に思えた――が。
「祐や星夜だったら試しにやっとったんやけどな。朱雀の魔力はほぼクセがないからできたら欲しいとこやけど……。もはや老いに突入したカッスカスの魔力ごときじゃ何の足しにもならんわ」「おい……!」(カッスカス……)
朱雀は三十代とはいえ、星夜と五つしか歳が離れていないのに酷い言われ様だ。魔力量だって人一倍多いはずなのにスカスカどころかもはやゼロと言わんばかりの表現に6月の歴神は不満げに声を荒げ、祐は内心で憐れむ(隣で星夜が「それな」と小さく同意を示していたことは内緒にしておこう)。
「魔力が枯渇して供給源もこれといってない。何もせず自然に任せて元に戻る見込みはあるのか?」「さぁな。そればかりはワイにもわからん」
話が長くなりそうなので座るよう星夜に促され、祐は自分の席に腰をかける。いつの間にか用意されていた冷茶が目の前に置かれると、何故か小さな精霊も場所を少年の膝の上に移した。
「うわ、本当にちっちゃい……」
立って並ぶと見上げるくらい大きな体躯が、今では小柄な祐の両腕に収まるほど小ぢんまりとしている。少し捻るだけで簡単に折れそうな細い四肢と衝撃に耐えられなさそうな軽さ。
(魔力が回収できなくて消費するだけになっちゃったら……)
彼はどうなってしまうのだろう。 精霊の身体を支えるように回した腕に力が籠る。
「どしたん?」
肩越しに振り返って不思議そうに見上げる大きな藍色の瞳。 このままでは消えかねない生命に焦燥を感じ、どうにか繋ぎ留めたいと願って抱きしめる祐の胸中を察したのだろう。不安を宿した少年の目を見るなり、水蓮はニカッと笑んだ。
「はは~ん、祐は何か勘違いしとんな~? 心配せんでもワイはそう簡単に消えたりせんで?」「しぶとさが取り柄みたいなところあるからな」「皮肉と思わせて褒めてくれるとは星夜も可愛いトコあるやん」
いつもの陽気さを見せる水蓮の性格を嫌というほど知る星夜はすかさず補足交じりの横槍を入れる――が、さすが旧知の仲と呼ぶべきか。シンプルな悪口さえもポジティブに捉えた見事な切り返しでニシシとしてやったりな笑みを零す。 まったく褒めたつもりがないのに斜め上の解釈をされた星夜は反論する気が失せたのか、うんざりした面持ちで視線をそらしてうんざりしたように息を吐いた。 会話のタイミングを見計らって脱線しかけた話を戻す。
「えと……、消えないってどういうこと?」「ワイら精霊はいくつかの条件をクリアすることで存在を保つことができるんや」「条件?」
言葉を反芻した祐に水蓮は「せや」と頷いて、小さな背中を少年国王に預けながら人差し指を立てる。
「一つ目は祐も知ってのとおり人間からの信仰があることやな。池観村はそこそこ人口も多くてワイはほぼ全員と顔見知りやからその点はクリアしとるし、今回の氾濫と浸水を回避したことで村の守護精霊としての認識も強まっとるはずやから何かのアクシデントで村人が全滅せん限りワイが消える可能性はゼロや」「なるほど」「ただ……、魔力がすぐに回復せん原因の一つは村人の関心が別に向いてるからなんや」「――土砂の撤去や損壊部位の修繕か」
これまで静かに話を聞いていた朱雀が口を開く。 確かに彼の言う通り、長い雨が止んだなら次にやるべきことは復旧作業だ。神殿と同じく土砂に呑まれた家や道もあれば、川の氾濫とは別の理由で浸水の被害に遭った場所もある。 村の人が水蓮に感謝していることは言うまでもないだろうが、平穏な暮らしを奪った災害の痕跡に彼らが大きな疲労感やストレスを感じていることは想像に難くない。 人々の信仰心を魔力の源にしている精霊にとってもしばらくは芳しくない状況が続くというわけだ。
「こんな状況でもワイが姿をキープできとるのは神と祐や歴神が居るおかげなんやで」「俺?」「せや」
首を反らして見上げた幼子に顔面の両サイドを小さな手のひらで挟まれ、頬から鼻と口にかけた部位がむにゅりと変形する。
「精霊の具現化の基本は、認知、魔力、場所や。人間に信仰されることも大事やけど、国を統べる祐らがワイの存在を認めてくれとるのもかなり大きいんやで」「知ってるだけでいいの?」
どうやら桁違いの魔力を誇る土地神と、その神自身から魔力の一部を授かった祐が精霊に齎す影響は相当なものだと彼は言う。 水蓮とは十年近く前に星夜を通じて知り合い、それから今日まで歳の離れた昔なじみの友達として関係を築いてきた身だ。 彼のことを認知しているのは当然のことなのだから、それが大きな影響を与えると言われても今一つピンとこない。
「ワイの存在の九割は祐と神との繋がりで確立してると言っても過言ではな――あ、いや、すまん。盛りすぎたわ」
キッパリと断言しかけたものを撤回したのは物申したそうな気配を感じ取ったからなのだろう。 水蓮の視線を辿るように祐も星夜の方を見れば、側近は「残念」と苦笑した。
「俺の認知や記憶が残り一割のさらにごく少数な一部なら、脳の余計なリソースを別のものに割いたのに」「だな」
意外や意外。朱雀まで星夜の肩を持つとは。 祐以上に付き合いの長い二人は自分たちが蔑ろにされたのが気に入らなかったらしい。薄情な精霊のことなどさっさと忘れてしまおうとわざとらしく相談し合うなか、水蓮は顔の前で両手を合わせる。
「ごめんて! ワイの存在が保ててるのは二人が居てくれるからや! ホンマに、このとーり、感謝しとるんやで!」
お礼として祐に淹れられたはずの冷茶を差し出すも、いらんと突き返されるなり一気に飲み干す水蓮。かと思えば「そういうわけで」と脈略もなく話を続けた。
「村の人が全滅して、祐と神が同時に記憶喪失になったとしても、星夜や朱雀をはじめとした誰か一人でもワイのことを覚えとったら完全消滅はありえんのや」「そうなんだ。良かった……」
余程のことがなければそんな事態には陥らないだろうし、小さくなっても元気なままの水蓮で居てくれることは嬉しく思う。
「でも、知ってるだけじゃ元の姿には戻れないんでしょ?」「問題はそこなんよな……」
認知はあくまで存在を保つためのもので、現状は消滅を免れているだけなのだ。 大人の姿に戻るには消費した分の魔力を回復することが必要不可欠で、今のところ具体的な案は出ていない。
「社が全壊したと言っても二割は残っとるから、辛うじて魔力は使える状態なんやけど……。回復の手段がないからなー……」(二割って今の姿と同じくらいじゃん……)
実年齢はともかくとして普段の外見は星夜と同じか少し上の印象があるから、三十歳の二割とすると六歳前後で今の姿とほぼ等しくなる。
「無暗な浪費は事態を悪化させるだけだ。何があっても魔力は使うんじゃないぞ」「はぁーい」
朱雀に釘を刺され、つまらなそうにしつつも大人しく聞き分けの良い返事をした精霊は、自身の腰に回された祐の腕に小さな手をピタリと重ねる。 解放してほしいのだろうかとその手を緩めると、今度はしっかりと支えるように位置をずらされた。
「神殿が魔力の貯蓄庫の役割を果たしているなら俺たちがまずやるべきことはその再建だな。何百年も経っているから完全に元通りとはいかないだろうが、できる限りのことはする――でいいだろうか?」
最後の確認は祐と星夜に向けられたものだ。 神事や精霊に関することは政府ではなく国王の管轄であるから、各地の救助支援は自治体や派遣した歴神たちに任せて、自分たちは水の精霊の保護活動に注力することに決める。 そうだね、と力強く頷いた少年国王に合わせて承諾の一礼をした星夜と朱雀。方針が固まり、本格的な話が挙がりはじめたなか、小さな精霊は目をキラキラと輝かせていた。
「ホンマに!? ホンマにまた社建ててくれんの!?」「さすがに国を守護する四大精霊の神殿を壊れたままにしておくわけにはいかないからな。建て直しには俺も賛成だ」
つれない態度で何かと茶々を入れて揶揄っていた星夜も、本心では水蓮のことを心配しているのだ。 早く元の姿に戻ってほしいと思う気持ちはみんな同じに違いない。
「となると肝心の魔力をどうするかやな……。何もせんでも少しずつ回復はしてくけど、しばらく村には居れんと思うしそもそも戻る手段もないからな」「? なんで?」
水の精霊を祀っている村人たちにとっては生まれた頃からの身近な存在のはずだ。村長とて小さくなった姿を心配して城に駆け込んで来るほど心配していたのだから、険悪な仲というわけでもないだろう。 村にいられないという発言の意図が汲めず首を傾げた少年に、精霊は気まずそうに頬を掻く。
「みんな自分家の片付けや復旧作業でいっぱいいっぱいやねん。ワイが居るだけでプレッシャーになるし、供物の用意もせなあかんやろからな。余計な気遣いさせたないねん」
心優しい人たちだからこそ、水蓮のことを優先して自分たちの生活が後回しになってしまうことを懸念しているらしい。 彼の気持ちも分からなくはないが、村から離れる以上はいくつか問題が出てくるわけで。 最も重要なことに気付いた星夜は腕を組みながら問いかける。
「精霊の不在が続くと村の加護は弱まるはずだ。新しい神殿ができるまで何ヶ月も離れるとなると逆に村人が不安になるだろ」「パパッと好きに移動すらできない魔力やで? そんなん居ったところで加護どころか何の役にも立たん」
社もないからせいぜい野ざらしの地蔵役やわ、と一人でツッコむ小さな精霊は、もはや人間の子どもと大差なくなってしまったようだ。
「村に戻れないんじゃあ、こっちで魔力を溜めるしかないね」「せやねん」「―――――」
水蓮がこくんと頷いた途端、見るからに星夜が嫌そうな顔をする。朱雀もこの後に続くであろう言葉を察したのか、苦笑交じりで頬を引き攣らせていた。
「他に頼れるとこもないし、しばらく厄介になってもええか?」「うん。大したことはできないけど、うちで良ければ」
祐としても保護対象が傍に居てくれる方が都合がいい。 自分が今の水蓮と同じくらいの年頃のときには彼に面倒を見てもらっていたこともあるし、その恩返しをするチャンスが巡ってきたと思って快諾するのだが。 判断を誤ったとばかりに大袈裟な溜息を吐いた二人の歴神は来る嵐に備えて各々動き始めたのであった。