「―――…は?」
突然キッパリと放たれた言葉に、黒髪の青年は思わず聞き返す。一方、そう告げた淡い茶髪の少年はやや目を伏せながらもう一度同じ言葉を繰り返した。
「だから――キミはかわいそうだなって」
テーブルに厚めのノートとそれの8倍はあるであろう歴史書を広げ、忙しなくペンを走らせている少年はその手を止めることなく言う。その向かいで頬杖をついていた青年は何に関してそう言われているのか、全く見当もつかず姿勢を少し直して少年を見た。
「……なにが?」
下を向き、歴史書の内容をまとめながら次の講義の準備をしている少年。そんな彼に尋ねると、僅かな間があって返答がある。
「キミは以前、僕(わたし)に過去について語ってくれたね。 両親が不仲で、温かいはずの家にも居場所はなく、最終的には勘当されたと。 特待生として学院に入ったものの、唱術に興味など無く、 ただ学費免除を永続させるために僕(わたし)の講義に強制的に出された、と。」「まあ、それは――…言いました、けど…」「嫌々だっただろう? 別に知りたいとも思わない僕(わたし)の講義に出るのは不快だっただろう? なのにキミはそれを堪えてあの場所で僕(わたし)の話を聞いてくれた。 ――まだ自立するには少し早い年齢だ。 両親から見放され、嫌々ながらも学長から僕(わたし)の講義を受けさせられて…。 キミにとってはうんざりなことばかりだ。 なのに、どうしてキミは嘆かない? その身体だって、普通に生きている限りでは死ねないのに…。 何故キミは一言も不満をもらさないんだ」
少年はペンをノートの傍らに置いて顔を上げた。濃い茶色の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。青年もその双眸から目を逸らさずにただ簡潔に、素直に言葉を発する。
「それは、オレ個人への講義ですか」
そう尋ねれば大人びた受け答えをする少年はクスリと笑った。
「講義? いや、そんな奥の深いものではないよ。 これはただ僕(わたし)の個人的な疑問だ。 何故、キミは今まで、何一つ愚痴を零さないでいられるのか…。 人間の心は脆く、崩れやすいのに対して、キミはまるで精霊のように振る舞う。 僕(わたし)たちの時は止まれど中身まで左右されることはない。 だとしたら、何が原因でキミはこんなにも 事態を享受するようになってしまったのだろうとふと思ってね」「……別にそんな大それた話じゃない」
ふい、と黒髪の青年は目を逸らしながら呟くように告げた。
「そうかな?」「確かに、両親の仲が悪いせいで家の居心地は最悪だったけど。 でも、今は絶縁できたからこそ、先生と精霊を探しながら、好きなことができる。 この身体になったのだってオレが自分で望んだことだ。 先生一人が、こんな重労働強いられているのに、黙って見ていられるわけがない」「でも、単なる優しさだけではここまでこれないだろう?」 再びペンを持ち、歴史書をめくりながら言った『先生』と呼ばれる少年。
その向かいで青年は僅かに頷く。
「オレがそこにいられるっていう安心できる場所なんです、ここが。 この道はオレが決めたし、こうなってから嫌だと思ったことは生憎ない。 だから愚痴の一つもこぼさないんじゃなくて、こぼれないんだ」「―――リヴ。」
急に名前を呼ばれ、黒髪の青年はこちらを見た。すると、正面に座って作業している少年はクスリと笑いをこぼしている。
「思ったことを論じてくれるのはいいが、さっきも言った通り、これは講義ではない。 初めて会ったとき、互いの関係が先生と生徒だったとしても、 いまの僕(わたし)はキミのことを生徒だとは思っていないよ。 初めて同じ道を歩める親友(とも)だ。 ――まあ、なんだか巻き込んでしまったとは思ってるけどね」「別にそんなの先生が気にすることじゃ――」「リト。」「え?」「リトって呼んでくれて構わない。 学院で使われてるラザフォードという苗字ではない、僕(わたし)の名前だ」
にっこりと微笑むリトにリヴは気まずさを感じながらも、「わかった」と返した。机上を照らすオレンジ色のライトがやや暗くなっているような気がする。それにリトも気付いたらしく、歴史書に栞を挟んで閉じた。
「そろそろ寝ないと明日の講義が辛くなるな…。 しかし、リヴは剣技が得意だというのに、本当に頭の回転が速い。 唱術覚えてくれれば僕(わたし)の研究もラクになるのになあ」「オレが唱術苦手なの知ってて言ってるだろ…」
半眼になってリトを睨むと、返ってきたのは笑いだけで。少年の姿をした彼は椅子に掛けていた上着を羽織り、照明を消した。そして何かを唱えると彼の人差し指に光が灯る。二人で各々の部屋へと戻り、リヴはそのままベッドに倒れ込んだ。
(別に、親が仲悪いからってかわいそうってことには繋がらねーし、その定義は本人が決めるものだろ…)
隣の部屋で寝る支度をしているであろうリトのことを考える。二人の人生を比較したとき、本当に辛いのは自分じゃなくて彼なのではないかと思いながら暗闇に融けるようにして静かに目を閉じた。
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オチが行方不明で困りました(汗)書きたかった内容から大幅に逸れた・・・!!NaturalWordsよりリトとリヴが一緒に行動し始めたあたりのことを書きたかったはずなのになんかよくわからない小難しい話に・・・orz
(2011.09.19 初投稿)