理科の実験で扱う素材の中には、身近でありながらも取り扱いに注意を要するものが少なくありません。今回は、そのひとつである「銅」、とくに銅粉の危険性について紹介します。
化学式:Cu
分子量:63.546
密度:8.96 g/cm³
銅は電気をよく通す性質を持ち、導線や回路実験などに使われる代表的な金属です。また、美しい金属光沢もあり、理科の授業や実験でもしばしば登場します。しかし、粉末状の銅(銅粉)や銅線の切りくずなどは、誤って吸い込んだり目に入ると、健康に重大な影響を及ぼすことがあります。
肺への影響:じん肺のリスク
鉄粉と同様に、銅粉も一度吸引されると肺に蓄積し、生涯にわたって体外に排出されません。その結果、肺の線維化が進行し、「じん肺」と呼ばれる慢性疾患を引き起こす可能性があります。ただし、これは年単位で大量の粉塵を吸引し続けた場合に発症するものであり、理科の授業レベルでの粉塵吸引によってただちに呼吸器に障害が生じるとは考えにくいとされています。それでも、粉塵が発生しやすい作業では、吸引を防ぐ意識と環境づくりが重要です。
目への影響:色素沈着と「眼球銅症」
銅による最大のリスクは、目に入ったときの障害です。特に、85%以上の純度を持つ銅が眼内に侵入した場合、次のような影響が生じる可能性があります。
角膜に銅イオンが取り込まれると、黄緑色の色素沈着が発生します。
水晶体に沈着すると、「ひまわり白内障」と呼ばれるヒトデのような模様の黄緑色の濁りが見られます。
そして、銅が体内から除去されず長期間にわたり眼内で銅が溶出し続けると、「眼球銅症(がんきゅうどうしょう)」が進行し、失明に至るケースも報告されています。目に異物が入った場合には、見た目に異常がなくても医療機関での確認が必要です。
目にの異物が入った場合、以下の対応をすぐに行いましょう。基本的に医療機関への受診が必要です:
流水または洗面器にためた水で洗い流す。
異物が完全に除去されたか確認するために、必ず医療機関を受診。
異物感が残る、または取り除けない場合は、まばたきを減らし、目を保護したうえで速やかに受診が必要です。
目を開けられない、または刺さったような場合は、触らず保護して受診。
銅を含む薬品を扱う際は、必ず安全めがねを着用しましょうさせてください。
目の高さより下で作業するように心がけ、粉塵が舞う環境は避けましょう。
保管時や廃棄時にも粉末が飛散しないよう注意しましょう。
【参考】
荒木俊一(2002):『中毒学 -基礎・臨床・社会医学-』朝倉書店
清水弘一・野寄喜美春(1987):『標準眼科科学』医学書院
八木橋朋之ほか(1996):「受傷後22年で判明した眼球銅症」『日本眼科会雑誌』100(12), pp.990-994
近畿中央呼吸器センターHP「じん肺」https://kcmc.hosp.go.jp/shinryo/jinhai.html(最終閲覧:2021年11月24日)