理科の授業では、酸素の発生実験などで「過酸化水素水(H₂O₂)」が使われることがあります。「オキシドール」として広く知られているこの薬品は、消毒薬として日常でも目にするため、危険物という意識が薄れがちです。
しかし、濃度が高くなると性質は一変します。皮膚への刺激や化学熱傷、目への障害など、濃度に応じた明確なリスクが存在します。今回は、身近でありながら注意が必要な過酸化水素水について、正しい知識と取り扱い方を整理してお伝えします。
化学式:H₂O₂
分子量:34.01
比重:1.113(30%水溶液)
色:無色
におい:無臭、またはオゾンのようなにおい
濃度による刺激と損傷
過酸化水素水は酸化力が非常に強く、濃度によって身体への影響が大きく異なります。下記は濃度別に報告されている主な症状です:
【濃度と症状(皮膚・眼)】
3%:眼に入ると炎症を起こす。
7%:皮膚につくと刺激を感じる。
10%:皮膚につくと強い痛みを感じる。
25%以上:皮膚に水疱が形成される。
※さらに、飲み込んでしまった場合は濃度に関係なく危険です。分解によって発生する酸素により、口腔・咽頭・食道・胃などに炎症を引き起こすことがあります。
過酸化水素水が皮膚に浸透すると、体内の酵素(カタラーゼやグルタチオンオキシターゼ)によって分解され、酸素が発生します。この酸素が皮下にたまることで「酸素泡(oxygen bubble)」が形成され、皮膚の内部に白い空胞が浮かぶような見た目になることがあり、酸化作用による刺すような痛みや白い斑点(白痕)が生じることがあります。そして、長時間皮膚と接触した場合は、細胞が破壊されて水疱・壊死・腫れを引き起こすことがあります。過酸化水素水自体に酸化以外の毒性は少ないものの、組織破壊のリスクは明確です。
そのため、10%以上の濃度のものを扱う際には、必ず保護手袋の着用が必要です。
皮膚や粘膜に付着した場合
1秒でも早く流水で10分以上洗い流す。
酵素反応による泡や刺激が起こっても、しっかり洗浄すれば多くは軽快します。
刺激が持続する場合、速やかに医療機関を受診してください。
目に入った場合
すぐに流水で15分以上洗浄。
コンタクトレンズをしている場合は可能であれば外す。
洗浄後は、必ず眼科で診察を受けること。
安全めがねの着用は必須です。眼は極めてデリケートで、わずかな量でも障害を受けやすいです。
濃度調整の際など、10%以上の濃度の過酸化水素水を扱う場合は、サイズの合った手袋を必ず着用してください。
容器を開けるときは顔を近づけないよう注意しましょう。
【参考】
内 藤裕史 (2001):中毒百科 -事例・病態・治療 -, 南江堂 .
戸倉新樹 , 森智子 (2003)「急性刺激性接触皮膚炎から化学熱傷まで」日本皮膚科学会雑誌 , 133(14), pp.2025-2031.