硫化水素は、温泉地や火山帯などの自然環境でも発生することがあり、教育現場だけでなく日常生活においても注意が必要な化学物質です。今回は、その生体への影響と対処法について詳しく見ていきます。
化学式:H₂S
分子量:34.08
比重:1.192(空気よりやや重い)
色:無色
におい:刺激臭(低濃度では腐卵臭)
濃度による刺激と損傷
硫化水素は水に溶けやすく、湿った粘膜や眼、呼吸器に強く作用します。少量であれば体内で無害化されますが、多量に吸収されると急速に毒性が現れます。
体内での作用
呼吸を通して肺から吸収され、少量であれば酸素と反応して無害化(硫酸塩やチオ硫酸塩)されます。
大量に吸収されると、ミトコンドリア内の呼吸酵素を阻害し、細胞レベルで酸欠状態になります。
酸素の欠乏状態では、通常、炭酸ガス交換は妨げられないため、「息苦しさ」を自覚しないまま前駆症状なしに意識障害に陥ることがあります。
嗅覚麻痺に注意
硫化水素は濃度が高くなると嗅覚を麻痺させるため、「においが消えた=安全」ではありません。 気づかぬうちに重篤な症状を引き起こすことがあるため、においを頼りにせず常に換気を徹底する必要があります。低濃度でも、長く吸い続けると嗅覚中枢を麻痺させるので注意が必要です。
【濃度と症状】
濃度 症状・影響
0.025~0.3 ppm 腐卵臭を感じる(においで感知)
5~10 ppm 鼻・喉の刺激、においが強く感じられる
20~50 ppm 眼や呼吸器の粘膜に刺激症状が出る
50~150 ppm 頭痛、めまい、吐き気、角膜への障害
150~200 ppm 嗅覚が麻痺し、においを感じなくなる
300 ppm 以上 倦怠感・脱力・頭重感ののち意識障害があらわれる
400~800 ppm 急激な意識障害・呼吸困難。生命に危険
呼吸器に異常を感じた場合
直ちに新鮮な空気の場所へ移動させてください。
呼吸困難の症状が見られる場合は、医療機関での診察が必要です。
目に刺激を感じる場合
15分以上、流水で目を洗浄し、医療機関で診察を受けましょう。
安全めがねを着用し、目を守ることは必須です。
硫化水素は空気より重いため、低い位置に滞留しやすく、換気が不十分だと危険です。
必ず換気のよい環境で実験を行いましょう。
【参考】
荒木俊一(2002):『中毒学 -基礎・臨床・社会医学-』朝倉書店
環境省(2017):『温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止のためのガイドライン』