理科の授業では、火や薬品、電気などを扱うことがあります。安全には十分注意していますが、思いがけないけがや事故が起きる可能性もゼロではありません。 そうしたときに慌てず、適切な応急処置を行うことで、被害を最小限に抑えることができます。
ここでは、理科室で起こりやすいケガやトラブルと、その応急手当のポイントをまとめました。
いずれのケースでも、応急処置を行った後は速やかに保健室(養護教諭)に引き継ぐことが大切です。
安全・安心な学習環境づくりのために、日頃から備えておきましょう。
薬品による目の損傷の程度は、目の組織と接する物質の種類・量・濃度・接触時間などによって大きく左右されます。
特に注意が必要なのはアルカリ性の薬品です。アルカリは、たんぱく質をゲル化させて組織を軟化させるだけでなく、脂肪をけん化させながら細胞内に浸透し、より深い組織にまで損傷を及ぼします。
一方、酸性の薬品は細胞のたんぱく質を直ちに変性・凝固させ、不溶性の膜を形成するため、比較的浅い部分でとどまりやすいという特徴があります。
酸やアルカリだけでなく、金属イオンを含む薬品や、過酸化水素水など粘膜の酵素により分解される薬品も目に入ると危険です。
また、角膜の表面を覆う「角膜上皮細胞」は、一度損傷すると再生することができないため、迅速かつ適切な処置が必要です。
薬品が目に入ってしまった場合は、水道水で15分から30分かけて、十分に洗い流してください。
このとき、コンタクトレンズを着用していて、無理なく外せる場合は外してから洗浄しましょう。
学校現場において、中和液などで中和を試みることは絶対に避けてください。かえって反応が強まり、目の損傷が深刻化する恐れがあります。
一部の薬品は水と反応して熱を発することがありますが、流水による冷却効果があるため問題はありません。なによりも優先すべきは、目の中の薬品を取り除き、その濃度を下げることです。応急処置を行ったあとは、速やかに医療機関を受診してください。
砂粒やホコリなどの小さな異物が目に入ると、激しい痛み(疼痛)や涙が出ることがあります。多くの場合は重大な後遺症を残すことはありませんが、適切な対応を行うことが大切です。小さな異物が入ったときは、洗眼桶や洗眼ボトルを使って、流水で10分以上しっかりと洗い流してください。それでも異物感が残る場合や、痛みが続く場合は、無理にこすらず医療機関を受診しましょう。
特に注意が必要なのは、金属粉や金属片が目に入った場合です。これらは角膜に金属イオンが取り込まれることで色素沈着や組織の変性を引き起こし、さらに角膜内に「根を伸ばす」ように入り込み、症状が徐々に悪化することがあります。長期間放置すると、慢性的に金属イオンが溶け出して視力に重大な障害を与えるおそれがあります。
また、異物を取り除いたと思っても、目の奥に残っている可能性もあるため、自己判断は危険です。金属粉や金属片が入った場合は、必ず10分以上洗眼したうえで、速やかに医療機関を受診してください。
加えて、異物除去後は角膜に上皮の欠損(キズ)が残ることがあり、感染症のリスクも高くなります。そのため、医師の診察と経過観察が必要不可欠です。
鉄片・ガラス・銅線などの異物が角膜を突き破って眼内にとどまってしまうことがあります。このようなケースでは、軽くて小さな異物であっても突入速度が高ければ、角膜や強膜(眼球の外側の壁)を貫通して眼内に侵入する可能性があるため、非常に危険です。
異物が目に刺さっているのを確認した場合は、絶対に自分で無理に抜かないでください。抜こうとすると、かえって損傷が広がったり、感染のリスクが高まったりする恐れがあります。
また、まばたきによって異物がさらに深く刺さることを防ぐために、まばたきの回数を減らすように意識してください。その上で、清潔なガーゼやタオルなどを目の上にそっとあてて保護し、できれば両目を覆って安静な状態を保ちます(片目だけを開けていると目が自然に動いてしまうため、両目を覆うことが望ましいです)。
応急的な処置を行ったあとは、できるだけ早く医療機関を受診し、専門的な治療を受ける必要があります。
酸性の薬品が皮膚や粘膜に付着すると、やけどのような症状が現れることがあります。これはまず、酸に含まれる水素イオンが組織のたんぱく質と結合し、凝固(Acid Albuminate)を起こすことで、組織が腐食されてしまうためです。さらに、酸には吸水性(脱水作用)もあるため、皮膚の水分が奪われ、乾いたカサブタ(乾性痂皮)が形成されます。皮膚に酸が浸透している間は化学反応が続き、痛み(疼痛)も持続します。一般に、強酸は腐食性が高く深いダメージを与え、弱酸は組織を収縮させるように作用します。また、大量の酸が皮膚に浸透した場合は、組織たんぱくの破壊が広がり、呼吸中枢や血管中枢に影響を及ぼして命に関わることもあります。
薬品によっては特徴的な変色が見られることもあり、たとえば、硝酸が皮膚に付着すると、キサントプロテイン反応により黄色っぽく変色します。硫酸が付着した場合は、強い吸湿・脱水作用により皮膚が黒っぽくなることがあります。
このような酸性薬品が皮膚に付いたときは、すぐに流水で10分以上しっかりと洗い流してください。学校現場においては、中和液を使って中和しようとするのは絶対に避けましょう。中和剤の使用によってかえって二次的な障害を招く可能性があるため、使用してはいけないとされています。一部の薬品は水と反応して熱を発することがありますが、流水による冷却効果により問題はありません。なによりも重要なのは、薬品をしっかり洗い流し、皮膚上の濃度を下げることです。
応急処置後は、必要に応じて保健室を経由し、医療機関を受診してください。
アルカリ性の薬品が皮膚や粘膜に付着すると、やけどのような症状が現れることがあります。アルカリの作用は、まず水酸化物イオンがたんぱく質から水素イオンを奪い、細胞内を脱水状態にすることから始まります。さらに、脂肪組織では「けん化作用」によりアルカリ金属塩(石けん成分)が生成され、組織の機能が失われてしまいます。この結果、組織から水分が漏れ出すことになります。また、アルカリ金属イオンがたんぱく質と結合し「アルカリたんぱく(alkaline proteinate)」が生成されると、水酸化物イオンの溶解性によって化学反応がより深部の組織にまで広がっていきます。アルカリ性薬品の特徴として、酸性薬品に比べて炎症や痛み(疼痛)が出にくいため、重症化しやすいという点があります。たとえば、高濃度(pH 11.5以上)の薬品では、数分で刺激を感じることがありますが、低濃度の場合は麻酔のような作用により、数時間経ってからでないと異常に気づかないこともあります。
このようなアルカリ性の薬品が皮膚や粘膜に付いた場合は、すぐに流水で10分以上洗い流してください。このとき、学校の現場では中和液を使って中和しようとすることは絶対に避けてください。中和剤の使用は、かえって二次的な障害を引き起こす可能性があるため、使用してはいけないとされています。
また、水と反応して熱を発する薬品もありますが、流水による冷却効果があるため問題ありません。最も重要なのは、薬品を確実に洗い流し、その濃度を下げることです。
応急処置を行った後は、速やかに保健室を経由し、必要に応じて医療機関を受診してください。
過酸化水素水が皮膚や粘膜に付着すると、体内の酵素(グルタチオンオキシターゼやカタラーゼ)によって分解され、酸素が発生します。このとき、発生した酸素により**皮下に小さな気泡(oxygen bubble)ができることがあります。過酸化水素水は主に酸化作用によって作用しますが、それ以外の毒性は比較的少ないため、多くの場合は刺激がすぐにおさまり、大きな損傷には至らず自然に回復します。しかし、化学反応が始まると刺すような痛みが生じ、皮膚に白い痕(白痕)が現れることがあります。また、長時間接触していると、その酸化作用によって細胞が破壊され、水ぶくれができたり、赤く腫れたり、表皮が壊死したりすることもあります。
特に、10%以上の高濃度の過酸化水素水を扱う場合には、必ず保護用の手袋を着用することが重要です。素手で触れると皮膚障害が起こる可能性が高まります。
万が一、過酸化水素水が皮膚や粘膜に付いた場合は、他の薬品と同様に、すぐに流水で10分以上洗い流してください。十分に洗い流すことで、薬品の濃度を下げ、被害の拡大を防ぐことができます。
応急処置のあとは、症状の程度に応じて保健室での確認や医療機関の受診を行うようにしてください。
有機溶剤が皮膚や粘膜に直接触れると、その強い脱脂作用によって皮膚のバリア機能が損なわれることがあります。このため、炎症や皮膚の角化(硬くなること)、亀裂などの皮膚障害が起こる可能性があります。特に溶剤が粘膜に触れた場合は、強い刺激を感じたり、ただれなどの症状が出ることもあるため注意が必要です。
有機溶剤が皮膚や粘膜に付着したときは、他の薬品と同様に、すぐに流水で10分以上しっかりと洗い流してください。このとき、フェノール(石炭酸)のように水に溶けにくい有機溶剤の場合は、まずアルコール(エタノール)でふき取ってから流水で洗い流すのが適切な対応です。
応急処置のあとは、皮膚に異常がないか観察を続け、必要に応じて保健室や医療機関を受診してください。
塩素や硫化水素などの有害な気体を吸い込んで気分が悪くなったときは、すぐに気体の発生源から離れ、新鮮な外の空気を吸うことが必要です。ベランダや廊下など、風通しの良い場所へ避難するようにしましょう。
意識障害や呼吸困難といった症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。また、目に刺激を感じるような場合には、流水で15分以上しっかりと洗い流すことが大切です。特に注意が必要なのは、発生源に顔を近づけて直接においを確認するような行為です。そのような場合、たとえ気体の発生量が少なくても、局所的に高濃度の有害気体にさらされる可能性があり、重大な健康被害を引き起こす危険があります。
有害気体が発生した際には、周囲の人にも注意を呼びかけ、複数人での安全確認を行うことが重要です。
熱いものに触れてやけどをしたときは、1秒でも早く冷やすことが重要です。やけどは時間が経つにつれて皮膚の組織破壊が進行するため、早期かつ十分な冷却が必要になります。基本的には、痛みが軽くなるまでを目安に流水で5分以上、できれば15〜20分程度冷やすことが推奨されています。冷却することで、痛みの軽減だけでなく、炎症や損傷の拡大を防ぐ効果があります。やけどした部位が衣服の下にある場合は、無理に衣服を脱がず、そのまま衣服の上から流水で冷やすようにしてください。衣類を脱がすことで皮膚がはがれてしまう危険があるためです。次のような場合は、必ず医療機関を受診してください:
やけどの範囲が手のひらよりも大きい
水ぶくれができている
皮膚が白くなっている、または黒く変色している
44℃以下の比較的低い温度でも長時間触れてやけどをした
痛みがなかなか引かない場合
いずれのケースでも、応急処置を行ったあとは保健室へ引き継ぎ、必要に応じて医師の診察を受けましょう。
感電すると、筋肉が硬直して自分の意思で体を動かせなくなることがあります。このようなときは、速やかに電源を切るか、感電している人の体を電極(導電体)から離すことが重要です。ただし、介助者が直接手で触れると二次的に感電するおそれがあるため、木の棒など電気を通さないものを使って対応しましょう。使用している電圧や電流の大きさ、直流か交流かによって感電の危険度は異なりますが、20Vを超える電圧を扱う際は特に注意が必要です。
感電によるけがは、外見では軽く見えても、内部の損傷が深刻なことが多いと言われています。そのため、見た目の状態だけで判断せず、感電した場合は必ず医療機関を受診するようにしましょう。
また、感電の際に通電経路に心臓が含まれていた場合は、心室細動を起こす可能性があります。感電後に意識がなく、脈がない場合は、すぐに救急車とAEDを手配し、1分間に100回以上のテンポで胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始してください。AEDが到着したら、音声ガイドに従って使用しましょう。
氷点下以下のもの(ドライアイスや冷却剤など)に触れると、皮膚や組織が凍ってしまい、凍傷を起こすことがあります。軽度の場合は、しびれや痛みといった症状が現れますが、長時間にわたって接触したり、何の対応もしないで放置した場合は、重症化するおそれがあります。重症化すると、水ぶくれができたり、皮膚や組織が壊死してしまうこともあり、最悪の場合は患部を切断しなければならないこともあります。
凍傷の応急処置としては、まず40℃程度のぬるま湯に20分ほど患部を浸けて温めることが推奨されています。ただし、感覚がないほど重度の凍傷の場合は、まず水でやさしく温めて感覚が戻ってから、ぬるま湯での加温を開始してください。
以下のような場合には、速やかに医療機関を受診してください:
水ぶくれができている
皮膚が通常と異なる紫色や黒っぽい色に変化している
感覚が戻らない・痛みが強い
凍傷も放置すると症状が悪化する可能性がありますので、早めの対応と医療機関での確認が大切です。
剃刀や破損したガラスなどの鋭利なものによって皮膚を傷つけ、出血した場合には、まず傷口に異物(ガラス片など)が残っていないか確認しながら、流水で洗い流します。その後、清潔なガーゼやタオルを傷口にあて、しっかり圧迫して止血します。圧迫止血は目安として5分程度行いましょう。血が止まったあとは、傷口を清潔に保つためにガーゼや絆創膏で保護します。
ただし、次のような場合には、自己処置だけでは不十分な可能性があるため、必ず医療機関を受診してください:
5分以上圧迫しても出血が止まらない
傷口から黄色い脂肪や赤い筋肉、白い腱などが見える
動物にかまれた場合
異物が混入している疑いがある場合
顔をケガした場合(傷が残る可能性や感染リスクが高いため)
けがをしたときは、落ち着いて応急処置を行い、必要に応じて速やかに保健室や医療機関へ相談することが大切です。
万が一、指などが切断されてしまった場合は、まず受傷者が倒れて頭を打たないよう、しゃがませるか座らせて安全を確保してください。次に、出血している部分を心臓より高い位置に上げ、清潔なタオルやガーゼをあてて強く圧迫し、止血を行います。切断された指や肉片は、どんなに小さなものであっても必ず集めて保管します。このとき、水で洗ったりせず、清潔なガーゼなどで包み、ビニール袋に入れましょう。その袋をさらに氷水の入った別のビニール袋に入れて冷やしながら保管します(※切断部分が水に直接触れないように注意してください)。切断された部分は、受傷者本人と一緒に救急車で医療機関へ搬送します。速やかな処置と冷却によって、接合の成功率が高くなる可能性があります。また、指や肉片が一部だけつながっていて完全に切断されていない場合には、無理に切り離さず、そのまま止血を行い、すぐに救急車を要請して医療機関を受診してください。
理科室ではさまざまな道具や薬品を扱うため、万が一の事故に備えた知識と心構えがとても重要です。
今回ご紹介した応急処置は、事故直後に対応するための最初の手順です。
慌てず、落ち着いて行動すること
無理をせず、自分で対応できない場合はすぐに周囲に助けを求めること
応急処置のあとは、必ず保健室(養護教諭)に引き継ぐこと
こうした基本をしっかり守ることで、被害が大きくなることを防ぐことができます。
先生も生徒も、お互いに声をかけあい、協力して安全な環境を作っていきましょう。
【参考】
化学同人編集部 編 (2018):バイオ実験を安全に行うために , 化学同人 .
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