環境科学研究科では、2019年、東北エリアの県産材料を使用し、本館3階大会議室内の整備を行いました。自然素材を取り込み、一つとして同じパタンのない、多様な表情のテーブルやウォールパネルに囲まれた会議の場が生まれました。空間を彩る生きた自然素材のモノやコトの背景にある循環に思いを巡らせながら、様々な議論が交わされる場となることが期待されます。
今回、ウォールパネルの一部には、東北県産材と共に宮城県白石市原産の白石和紙を使用しました。白石和紙は、伊達藩主家臣であった白石城主の片倉小十郎が農閑期の内職として始めたとされ、白石和紙は紙布を使った紙衣(和紙を使った衣類)などで独自の文化を発展させました。明治初期には工業化の影響から一時途絶えたものの、昭和初期に復興を目指して片倉家15代目の片倉信光、佐藤忠太郎、遠藤忠雄によって「奥州白石郷士工芸研究所」が創立されました。その後、遠藤忠雄の妻である遠藤麻志子氏によって引き継がれていましたが、平成27年には高齢化により白石和紙の製造を終え、現在では、遠藤麻志子氏より直接指導を受けた同市の有志による「蔵富人(くらふと)」が後継者となり、白石和紙伝統の材料や技術が守られています。「蔵富人」では、原材料となるトラフコウゾの栽培から材料の加工・紙の製作まですべての工程を本業の傍らで有志のメンバーが行っており、和紙製品の販売やワークショップを通してその歴史や技術が、有志らの自主努力により守り続けられています。
今回の整備では、「蔵富人」の協力の元、壁面ルーバーパネルの板部に使用する壁紙として、この白石和紙を使用することができました。2019年の夏は、例年以上に気温の高い日が続き、紙漉きの作業に不可欠なつなぎの役割を果たすトロロアオイの粘度が安定的に保てないことから、まとまった制作日の確保が難しい状況もありましたが、色合いを都度調整いただきながら数回に分けて製作が行われました。壁紙としての利用ということもあり、コウゾの皮を多めに配合するなど材料が混合した表情を強調することで、建築空間の大きさに負けない強い和紙の表情が生まれました。
東北県産の材料を活用した大会議室の整備では、このような生きた自然から紡ぎ出された素材によって表情の多様性が生まれました。生きた素材であるからこそ、経年による色合い等の変化が現れますが、変化を楽しむ中で、生きた素材の背景にある環境や生産者にも思いを馳せていただけたらと思います。これからの循環型社会を考えていく上では、消費者の参加を伴う理解、モノやコトの循環に対する実感の生産、つまり機能を供給するだけの直接的便益に留まらない、気づきや共感を伴った間接的便益が重要になるとされます。多くの人の手を介しながら紡がれたモノや空間に触れながら、その先に広がる生産や伝統に気付きが生まれることを期待します。
藤山 真美子
東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻都市・建築デザイン講座助教。九州芸術工科大学卒業。九州大学大学院博士前期課程修了。博士(工学)。専門は建築意匠。
1Fホールのマガジンラックに常備されている『環境科学研究科 NEWS LETTER No.21』で詳しくご紹介しています。
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