2019年の夏ころに、土屋研究科長から連絡を頂きました。その趣旨は、環境科学研究科の玄関に、白石和紙と藍染を展示したい。ついては、白石和紙に研究科名「環境科学」を書いて欲しいとのことでした。
当方としても気安く考え、快諾の返事と、筆ペンにて文字のイメージの例をメールにて差し上げました。その後、間もなく、土屋先生から白石和紙のサンプルを見せたいので、現場で相談しましょうということになり、先生の部屋にて白石和紙のサンプルを拝見しました。また、展示したい場所と大きさについてもお教え頂きました。サイズは、玄関なので2m*2mくらい、和紙は手揉みあるいは手漉きのままのどちらかということでした。サイズ2m*2m、ちょっと大きいと感じました。私は、以前書道展などに近代詩文書を出品しておりましたが、書画仙紙は3*6尺が定尺で、それを2枚貼り合わせた1.8m四方が最大のものでした。その大きさに4文字となると手持ちの大きめの筆を2~3本を合わせて使えば何とかなるかなと思いました。白石和紙については、土屋先生も「大変丈夫である」と話されておりましたが、見るからに丈夫でしたが、そのときは環境科学=自然ということで、墨は淡墨にして滲みにて水の浸透性を表現できればよいかと感じました。
早速、小さめの白石和紙を頂き、予定していた淡墨にて試し書きをしてみたところ、いろいろと工夫しても全く滲みがでません。水は紙面の繊維に沿ってやや浸透するものの墨の微粒子を同伴することはありませんでした。つまり、ここで淡墨の選択はないと判断し、濃墨に切り替えました。この段階にて、「手揉み」の選択はないと考えました。手揉みの紙に濃墨で揮毫となると筆致(墨跡)が飛んでしまいますので・・・。次に、濃墨にて反古紙を使って、玄関ホールに掲げる「環境科学」としての文字のデフォルメを何度も行いました。書体としては可読性がある行書で縦書きが良いであろうこと、教科書体のようなものでなく4文字がそれぞれに自然と伸びやかに見えて一方で4文字が相互に関係しているようなフォルムと配置にしたいと考えました。思ったように書くのは容易ではありませんでしたが、縮小版としてのレイアウト候補を作り、それを参考として本番の白石和紙に書くことにしました。本番の白石和紙は土屋先生が小職の部屋まで持参されましたが、2m四方はやはり大きいと感じました。教授室の天井くらいまで届く1枚のロール状の紙でした。先生のよるとまずは1枚で、必要なら再度オーダーするとのことでした。通常、書道展などの作品制作の折には100枚単位で書いて、その中から出品作を選定するので、この1ロールは大きなプレッシャーでした。また、この1ロールの作品をどこで書くか・・、運ぶのも大変でしたので、この点も考慮点でした。結論としては。ロール紙を受領したのが暮のころでしたので、正月の書き初めとして作品制作をしようと決めました。そこで、正月に、実家にて実物大の画仙紙を準備して何度か練習を重ね、2枚程度の候補作を選定し、それを参考として、整理して広めの空間を作って床に新聞紙+作品用下敷を敷いて準備した教授室にて、誰もいない静かな時間帯で一気に書き上げました。当然ながら「あそこは・・・すればよかった、この線は・・・」という気持ちも出てきましたが、正月の空気がそれを一掃してくれ、「これでよかろう」と納得し、一晩乾かして作品制作終了となった次第です。
現場に展示されると周りとの関係もあり、当初の意図がどの程度反映されたかはわかりませんが、白黒のバランスは隣の萩マークと合わさって壁に合致しているかなぁというのが今の気持ちであります。
東北大学工学研究科
猪股 宏
猪股教授による制作サンプル