1週間ほどドイツに滞在し、今は業務の全て終え、ハンブルク空港のラウンジにてフランクフルト空港への搭乗を待っているところです。
今回は環境行動の国際比較研究の一環で、ドイツのハレ大学とハンブルク医療大学の計4つのクラスで説得納得ゲームを実施しました。2020-21年の塾派遣留学でのハンブルク滞在では、対面でのゲームを行うどころか、ロックダウンの厳しい規制があり、思うように活動できずにおりました。ドイツの大学の学生さんたちが、とてもアクティブにゲームに参加してくれて、そのパワーに圧倒されました。
今回の2年ぶりのドイツ訪問で強く感じたのは、本当に「普通のドイツ」だった、ということです。あるところでコロナ禍での滞在の思い出話をしたら、「そんなこともあったね」と、すっかり過去のこととなっていることに勇気づけられる思いもありました。
フランクフルトからドイツ鉄道でハレ、ハノーファー、ハンブルクと、短期間ではありましたが、ドイツ中部から北部まで旅することができました。いずれも私にとって関わりの深いこの3都市です。
ハレは2004-05年の在外研究で3週間滞在して以来今回が8回目の訪問でした。ハノーファーはわずかな時間でしたが化学が専門のフランツ・レンツ教授と研究打ち合わせを行いました(ハノーファー大学も先の留学で受け入れていただいておりました)。ハンブルクは、まさに生活していたところで、本当に感慨深いものがありました。ハーフェンにあるハンブルク医療大学をはじめ、帰国から2年経った今の様子を見てまわりもしました。
今回の滞在では、ハレ大学のグンドラ・ヒューブナーさん、奈良女子大学の安藤香織さんに大変お世話になりました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。
(2023.10.28, Facebook投稿記事を抜粋)
2024年1月、ライプニッツ大学ハノーファーで行った化学反応ゲームについて、認定NPO法人環境文明21の会報に記事を書かせていただきました。ここではその記事に加筆して紹介させていただきます。
http://www.kanbun.org/kaze/2402.html
認定NPO法人環境文明21の2023年の活動では、「未来世代の権利を考える会」や30周年シンポジウムに参加させていただきました。世代や利害を超えて共通の目的に向かうためのコミュニケーションをどのように進めたらいいのかとの思いを強くしました。そのための手法として私が取り組んでいるのが、問題解決手法としてのゲーミング・シミュレーションの開発と実践です。その一つとして今回は化学反応ゲームという発想を紹介します。
このゲームはプレーヤーが水素や酸素など、化学の元素の役となり、結びつく相手を探して化合物をつくるというものです。1人の酸素(O)が両方の手でそれぞれ水素(H)の人と手を繋げば水(H2O)ができます。化学反応をテーマとしたことには2つの理由があります。第1に、私自身、社会の分断と統合についての研究をしており、そのモデルとして分断した個々人がどうやったら統合できるのか、そのモデルを構想するのに化学反応が比喩として使えるだろうと着想したことです。私が専門とする社会心理学は、社会科学でありながら物理学の古典的理論を対人行動や社会関係にあてはめて検討されてきた歴史があます。第2に、ドイツの化学者フランツ・レンツさんとの研究交流があり、2020-21年のコロナ危機とも重なったドイツ留学の際に、社会心理学と化学とでコラボレーションの可能性を探索していたことです。実際にライプニッツ大学ハノーファー(LUH)で考案した化学反応ゲームの原型を実演しました。
化学の元素周期表をみれば多数の元素があります。当初は原子番号1の水素から20のカルシウムまで用いるなど、多くの種類を用いていました。しかし、意見の異なる人々が結びつくのが困難なのと同様、どうにも面白いものが作れなかったのです。
研究成果をまとめる時期も近づき、また日本とドイツとでゲームを実施するという研究計画もあり、思い切ってシンプルに、水素(H)と炭素(C)と酸素(O)だけに絞りました。いずれかを持つ人々がどのように化合物を作りうるのかをルールとして、本年1月11日に日本で私が担当している「社会心理学概論」の講義で実施しました。多くの人(元素)がグループを作り(化合)、結果として大きなグループ(分子量)に参加した人が勝利するというルールです。中学校や高校で学んだ化学の知識を活かし、3種類の元素それぞれが結びつく簡単な法則さえ理解すれば様々な化合物を作っていくことができます。このゲームから学生たちが対人関係や集団間関係を学んだことも感想から伝わってきました。たとえば、化合の法則は決まっているので「相手が見つからずに仲間はずれを作ってしまう」とか、「求められる人と求められない人がいるといる時にリーダーが登場して結びつく相手をうまくコーディネートできた」といったようなことです。
次はドイツのLUHでのワークショップ開催で、翌週1月19日に実施するため前日夜に現地入りしました。実はその数日前、環境文明21の代表である藤村コノヱさんより、「気候危機を心配している『良識ある』人々が多岐にわたり多数存在するが、バラバラの対応では大きな力になっていない。しかしいまの時宜をとらえ『小異を捨てて大同』で緩く共有し、一斉に社会に訴えかけるキャンペーンができないか」という趣旨の会合開催の案内が届きました。その会合はドイツ渡航と重なってしまったのですが、時差のため私にとってはドイツの早朝に、オンラインにて会合の最後の部分だけ参加者の皆さんとお目にかかることができました。藤村さんから議論の経過の報告を受けたのですが、その内容は丁度その時準備していた化学反応ゲームと重なって捉えられました。
ドイツでのゲームは化学を専攻する学生ほか8名の参加者、小規模でしたが、化学の専門家レンツ教授がどのような化合物がつくれるかアドバイスしながら3回戦目で全員が参加する化合物CO3H4が出来上がりました。この化合物は実は不安定なものなのだそうです。そうは言っても、制約がある中でも、化学のモデルでも手と手を結び合い、皆が結合に参加できたのです。人間の社会でも、個々の意見の異なる人たちを巻き込みながら大きくまとまっていくための方策を暗示しているかのようです。
以上のゲーム開発の経緯や実践を通じて私自身が実感できたことは、化学という学問自体が、元素がどのように化合したり分解したりするかのルールの体系であるということです。化学のルールと人間社会のルールはもちろん異なりますが、理解し得ないような法則で化合したり分解できたりすることを考え続ける必要性を感じました。
化学反応ゲームの翌日の1月20日、オペラハウス前で右翼反対の大規模なデモがあることをハノーファー在住で環境視察のコーディネートや通訳をしている田口理穂さんから教えてもらい、出かけることにしました。開始とされる14時前には多くの人が集まり、身動きが取れないほどでした。翌日の新聞報道によればハノーファーで35000人、ドイツ全国で35万人参加したそうです。化学反応に例えれば、多くの元素が集結し、運動が活発となって大きな力を生んでいるかのようでした。
私の中で色々なことが化学反応を起こし、一つに結びついて感じられた時間となりました。皆さんにおかれては、以上の話から何かを感じとっていただけたでしょうか。