映画版「銀河英雄伝説」
わが征くは星の大海 | 新たなる戦いの序曲
わが征くは星の大海 | 新たなる戦いの序曲
映画版「銀河英雄伝説」のBGMで使われたクラシック音楽のリストです。
リスト内にYouTubeのリンク先があり、作品内で使われていた箇所から音楽が聴けるようになっています。
具体的な聴き方は 「Über mich / 使い方」の OVA版 曲名・登場シーンリストの使い方をご覧ください。
⬜ あらすじと曲について
帝国暦486年、イゼルローン要塞へ向かうラインハルトに、ミュッケンベルガー元帥より同盟軍迎撃の命令が下る。上官らは彼を姉の威光を借りた若僧と侮り、捨て駒にしようと画策する。ガス状惑星レグニツァ上空での、ラインハルト艦隊と同盟軍第二艦隊の戦いは苛烈な環境下で乱戦状態になる。 1988年
1.マーラー/交響曲第3番 第1楽章
まずオープニングでは、ナレーションとともに、この曲が頭から流れます。
銀英伝の世界を表しているような重厚なファンファーレの響きです。本伝でも何度かオープニングで流れることがあり、いわば「銀英伝のテーマソング」のような存在でしょうか。
これを聴くと「銀英伝だ!」と反応するかたも多いと思います。実際、YouTubeのクラシック音楽動画のコメント欄に、銀英伝の曲と書き込まれているのを見かけます。
マーラーの交響曲は、OVA全編を通して何度も登場します。
銀英伝の音楽といえばまずはマーラー、と言って間違いないでしょう。
物語の開始3分ごろ、ラインハルトの旗艦ブリュンヒルト入港を予告するシーンから、ラインハルトに関わる場面で何度か流れます。
そのため、ラインハルトのテーマのようなものかなと私は思っているのですが、本伝で物語が進むとラインハルトとは関係のないシーンで流れますので、実際はそうではないのかもしれませんね…。でも雰囲気は彼にぴったりだと思うのです。
ショパンのノクターン有名度ランキングというものがあるとしたら、全20曲のうち、1位は断然2番でしょう。この9番は下位のほうになるのかもしれません。
ですが、他のノクターンと同様、静かで美しい主題からはじまり、その後、どこかとつとつと歩いている感じから突然立ち止まるようなところ、コーダ(この映画では流れませんが)がちょっと劇的なところが私は好きで、ノクターンの中ではいちばんのお気に入りなのです。なので、銀英伝でとりあげられてとてもうれしいです。
ちなみになぜ私がこの曲を知っているかというと、子どもの頃、ピアノの先生に「次はこの曲を弾きなさい」と言われたからです。譜面上では比較的簡単に弾ける曲なのです。ただ弾くだけ、であれば。
この交響曲は、第一楽章、第二楽章…と分かれておらず、ひとつの楽章の中に4つの部分があり、ここでは第4部が3つのシーンで使われています。
そのうちの1か所は、同盟軍のヤンと帝国軍のラインハルトが、惑星レグニツァ上空でお互いの戦艦を発見するところ。ガスで視界が遮られている中、至近距離で遭遇し、両陣営のオペレーターが「敵は目の前です!」とさけびます。
それに合わせるように、第4部冒頭、裏拍からフォルテではじまるメロディーが流れます。
この映画の重要シーン、戦闘の場面のひとつです。
残りの2か所では、第4部中間の静かなメロディーが流れます。
このように映画のキーになるような曲ですが、以降の本伝・外伝で使われるのは第1話と第15話のみです。
タイトルにある「悲愴」を表すような第一楽章とうってかわって、穏やかで優しく美しい第二楽章。このメロディーに歌詞がつけられて、ポップス音楽になったりもしています。私が知っているのはビリー・ジョエルの「This Night(邦題:今宵はフォーエヴァー)」です。
ここでは、ミッターマイヤーとロイエンタールが士官クラブでビリヤードに興じるシーンで流れます。
本伝でも双璧がクラブで過ごす場面で何度か流れ、それ以外では最終話である第110話で使われます……こちらがどのようなシーンなのかは、110話のリストをご覧ください……
5.ラヴェル/ボレロ
いよいよ映画のクライマックス、今回のメインの戦闘である第四次ティアマト会戦。ここで流れるのが、ラヴェルの代表作「ボレロ」です。
スネアドラムが冒頭から最後までずっと同じリズムを刻み続け、その上に同じ旋律が楽器を変えながら何度も繰り返されます。音が少しずつ厚みを増し、最後には全楽器総出のコーダへ。単純な繰り返しだけなのに、聴いている側のテンションが上がっていく曲です。ボレロとは舞踊曲ですので、そういった面での高揚感もあるのかもしれません。
アニメでは、曲が終わり静寂が訪れるのと、帝国・同盟両軍が一時攻撃を止め、ここでどちらかが撃てば共倒れという一触即発の場面とで、タイミングがぴったりあい、緊張感を醸し出しています。
このアニメのBGMには、ドイツシャプラッテンレコードの音源が使われているそうです。それは、原作は徳間書店、映画は徳間ジャパンで、この徳間グループが、そのレーベルを所有しているからとのこと。
ただしこの「ボレロ」に限っては当時まだ著作権が切れておらず、著作権料がかかるのであればどうせならというのもあって、アニメの尺にあわせて新たに録音したと聞いています。井上道義指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団だそうです(これはすごい)。
6.モーツァルト/クラリネット協奏曲 第2楽章
戦闘が終わり帰還する戦艦の中、休息のひととき、ミッターマイヤーが妻のエヴァンゼリンに手紙を書くシーンです。クラリネットの柔らかく美しいモーツァルトらしい旋律は、まさに「休息」という言葉が似合います。
いや、休んでいるのは彼だけでなくて、将官も兵士もみんななんですけれど、はい、ここは「ミッターマイヤーが手紙を書くシーン」とさせていただきます。
それにしても…これで帰還すれば彼は帰宅してエヴァに会うのでしょうに、なぜ手紙を書いているのでしょうか。本伝後半でも彼は妻にあてて手紙を書きます。宇宙の彼方から誰がどうやって手紙を運ぶのか? 紙で書いているけれど、デジタル化して送られるのか?
それはさておき、アニメでの彼の手紙はドイツ語で、美しい筆記体で書かれています。素敵…。私もこれを見てクルンクルンの筆記体をいかに美しく書くかに余念がなく、英語の授業では先生に「字がきれい(文章は間違っているが)」と評されたこともありました。
7.マーラー/交響曲第3番 第6楽章
エンディングはオープニングと同じ交響曲第3番です。
前回お伝えしたように、オープニングは第一楽章頭。そしてエンディングは終楽章である第6楽章のコーダ、曲の終わりです。
つまりこの映画はマーラーの3番の頭で始まり、3番の終わりで幕を閉じています。曲はやはり壮大で重厚です。
とはいえ、この映画で描かれたのは、銀河英雄伝説という長大な物語のほんの序章、スタート地点です。原作ではまだ本伝1巻以前のできごとなのです。
このあとから110話分の旅がはじまるのですが、実際に描かれるのはわずか5年間分。ファンとしては、もっと読みたかった、そう思わずにはいられません。
8.その他
・チャイコフスキー/「白鳥の湖 第1幕 第2曲 ワルツ
ブリュンヒルト入港シーン
・ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」第4楽
ヤンが歴史のビデオを見るシーン
宇宙暦486年。第四次ティアマト会戦後、ヤンは友人ラップからジェシカへの求婚を告げられ、想いを胸に祝福する。一方ラインハルトは武勲により上級大将に昇進。アンネローゼは急速に出世する弟を心配する。帝国軍上層部は彼の勢いを警戒し、ミッターマイヤーやロイエンタールら有能な部下を外して、シュターデン、エルラッハなどを配属する。1993年
この映画では、オープニングとエンディングがいつものマーラー3番ではありません。マーラーは勇ましい感じですが、こちらはもうちょっとドラマチックな、そして不穏な雰囲気がします。
「オランダ人」とは、神を冒涜したために呪いを受け、死ぬこともできずに永遠に海をさまよっている、幽霊船の船長のこと。ただし呪いを解く方法はあり…というストーリーなのが、このオペラ「さまよえるオランダ人」です。
ワーグナーのオペラには、登場人物や事象を表現する「ライトモチーフ」というメロディーがあって、序曲にはそれがてんこもりに詰まっています。そうなると、呪われたオランダ人の話、序曲も不穏でドラマチックになりますよね。
■05分 オープニングタイトル
序曲の冒頭部分から流れます。いきなり耳をつんざくような弦楽器のトレモロからはじまり、次に出てくる管楽器のメロディーが、オランダ人のモチーフです。そして、下から弦楽器が半音階でせりあがり、そのあとに何度もうねります。これは荒れ狂う海にしか聴こえませんよね。かっこいいです。
■1時間01分 物語中盤、ラップがいる同盟軍第6艦隊が壊滅するシーン。
曲全体約11分のうちの3分すぎあたりの箇所から流れます。嵐がおさまったのか、静かなメロディーが流れ、ホルンとファゴットがそれぞれソロでオランダ人のモチーフを静かに吹いたあと、ティンパニーのロールが入って、また最初のような劇的な音楽に戻る、という部分です。
■1時間25分 エンドロール
曲全体の約11分のうち、6分台後半ぐらいあたりから流れ、曲の終わりと同時に映画も終わります。
銀英伝と全然関係ないのですが、以前SNSで、イギリスのイマーシブミュージアムの動画を見たことがありました。ターナーの「難破船」が動画になって壁一面に映し出され、まるで自分がその中に入っているような体験ができるのですが(イマーシブですからね)、そのときに流れていたのがこの序曲でした。
イマーシブミュージアムじたいにはあまり興味はないのですが、ワーグナーとターナーという好きなものの組み合わせなら、見てみたい気も。
「さまよえるオランダ人」の序曲が使われるのはこの映画だけです。
あとは第一幕のオランダ人のアリアが、2回出てきます。またそれがかっこいい曲なんですけれど、それはまたそのときに。
■40分 同盟軍の出発と作戦会議
ヤンやラップ、同盟軍の兵士たちがシャトルに乗り、宇宙で待機している戦艦に乗りこむシーンから、戦艦内で各艦隊の司令官が、今回の作戦について説明しているシーンにかけて。
そう、同盟軍は、帝国みたいに戦艦が地上にあってそれに乗り込んでから宇宙に出るのではないのですよね。おもしろい。
呪われたオランダ人と違って、こちらはキラキラの白鳥の王子様、円卓の騎士パルジファルを父にもつローエングリン。そのオペラから第3幕の前奏曲です。
明るく華やか、スピード感のある曲で「ドライブのときに聴くといいワーグナーは?」と聞かれたら私はこちらを挙げます…って、スピード出しちゃうからだめですね。でもそういえば、車のCMで使われていたような気もします。そのように、ふとしたところで流れていることもある曲です。単体で、コンサートでも演奏されます。
明るい未来を予感するような印象ですので、同盟軍の司令官が意気揚々と作戦を説明しているシーンによく似合います。
このオペラ「ローエングリン」の第3幕は結婚式から始まります。この前奏曲がそのまま結婚行進曲へとつながります。「パパパパーン パパパパーン」では"ない"ほうの結婚行進曲です。みなさん、きっとお聞きになったことがあるはず。
なんて縁起の良い…と思いますが、このオペラは喜劇か悲劇かというと悲劇なのです。つまり、幸せな結婚では終わらないというわけです。
むかーし見たドラマで、いいところのおうちに嫁ぐことになった一般家庭のお嬢さんが、結婚式の曲にワーグナーのほうを選び、お姑さんから「これは結婚破棄になる話の曲なのに、そんなことも知らなくて、なんて教養のない」と嘲笑われる…みたいな場面があった気がします。
この「ローエングリン」が銀英伝で使われるのはこのシーンだけなのですが、第一幕の前奏曲も素敵です、すんごいいいです、おすすめです!!
物語は、聖杯伝説の聖杯が天から降りてくるところからはじまります…よく考えたらおかしな状況ですけど、だからこそ神がかっているような、「聖」の意味がよく現れているように思います。さわやかで優しく美しく、そして和音の動きがちょっと切なく感じられるところもあり。
■15分 ラインハルトとキルヒアイスが、アンネローゼに会いに、宮廷内を馬車(!)で向かうシーン。
こちらは、「ワーグナーのオペラハイライト集」というものがあれば、たいていとりあげられるであろう有名な曲です。
タンホイザーは騎士なのですが、当時、中世ドイツでは騎士が吟遊詩人として歌う習慣があり、こちらはその大会、歌合戦が開かれるときの行進曲。(というか、正式なタイトルは「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」なのです)
「オランダ人」のような不穏さ、呪い、のような印象はありません。
曲はファンファーレからはじまりますが、この馬車のシーンで流れているのはほぼその部分。「宮廷」の雰囲気にあっています。
そういえば、外伝でミューゼル姓時代のラインハルトがタンホイザーという戦艦に乗っていました。特に意味はないのでしょうね(かな?)。
タンホイザーは愛欲に溺れてだらだらしていた人ですので…
あと、全然曲と関係ないのですが……タンホイザーのつづりは「Tannhäuser」です。ドイツ語はローマ字読みに近いのですが、äu は「アウ」ではなく「オイ」となります。私はタンホイザーのおかげで覚えられました。
■24分 キルヒアイスが、アンネローゼ、ラインハルトとのお茶会を回想するシーン
主にこういった、3人の幸せなシーン、または昔の感傷に浸るようなシーンで、この曲は何度も出てきます。
タイトルを見ると、ジークフリートって…キルヒアイス?! と思っちゃいまいませんか? ドイツ語のDは濁らずTで発音します。なので、ジークフリードもジークフリートも同じです(たぶん!)。
この曲のジークフリートとはワーグナーのオペラ「ニーベルンゲンの指環」の登場人物のこと。三作目「ジークフリート」からのライトモチーフがたくさんつまっています。
ワーグナーはこの曲を、奥さんの誕生日であり、クリスマスでもある12月25日の早朝に、自宅の階段に演奏者を並ばせて演奏させたのでした。いわゆるサプライズです。
このときふたりの息子は1歳。そしてその子の名前は、ジークフリートです。
「牧歌」と題されているように、ホルンが角笛のようだったり効果的に使わているなどのんびりと素朴で優しく、ノスタルジックさもあわせもつ曲です。何より奥さんのお誕生日に流す曲ですからねえ…。
知名度から言えば彼のオペラよりも低いのですが、レアな曲というわけでもなく、オーケストラの演奏会ではときおり演目に入ることがあります。
おうちの階段で演奏したぐらいですので、本来は、少人数の室内楽曲です。劇中では大人数の編成でのオーケストラバージョンですが。
■44分 5人の提督がラインハルトに意見具申するシーン
このシーン、本伝第1話では、マーラーの交響曲第3番第1楽章の、緊張感あるメロディーが流れていました。
提督たちから作戦について問われ、ラインハルトが確信を持って説明する場面に、このワーグナーの交響曲の冒頭、きっぱり堂々と鳴る和音が、よく似合っています。
ワーグナーが作曲した交響曲は、この1曲のみです(実際は、一応2曲目もあるのですが未完…?? 録音もされてはいますが)。
よって一番とか二番とかはなく、よく「交響曲ハ長調」と書かれています。
彼がオペラで台頭する前、まだ若い頃、19才のときに(あっ、このころのラインハルトと同じぐらいでは?!)、敬愛するベートーヴェンに影響を受けて書いたものだったかと。冒頭で和音が鳴るところがベートーヴェンの「英雄」にそっくりだと言ったのは、シューマンの奥さんのクララだったか。
…えー、似てるかなあ。でも当時はこういうイントロが珍しかったのかもしれませんね。「英雄」は革新的な交響曲なのですからね(前回参照)。
この曲は他の楽章も含め、銀英伝では何度も出てきます。最後の110話でも…。
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さて、ワーグナーといえば、有名なのは先ほど書いた「結婚行進曲」や、「ワルキューレの騎行」(映画「地獄の黙示録」のあれ)です。しかしそれらではなく、オペラの曲でもない交響曲や「ジークフリート牧歌」を使うあたり、どのような意図で…?! 交響曲なんて、超マイナー曲とまでは言わないにしても、たぶん、世の交響曲好きの方々にもたいして重要視されていないと思います。「みんな知ってるー? ワーグナーは実は交響曲も書いてるんだよ~」「えーそうなんだー知らなかった~~」というレベル。
私は交響曲と「ジークフリート牧歌」とは、銀英伝のサントラで出会いました。当時、アニメは見たことがなかったけれど、本伝の最初のサントラは買ったのです。こちらで紹介しています。
交響曲の各楽章の始めのほうと、ジークフリート牧歌の始めほうが、メドレーのようにつながって収録されていて、子どもの私はそれまでに聴いてきた曲とは違う何かを感じとったようで、何度も聴きました。それを言ったら、マーラーなんかのほうが、よっぽど衝撃的な出会いのはずなんですけれどね、なんでしょうね、マーラーよりもこちらのワーグナーだったんです。
そういえば当時、そんな話を友人にしたら、ワーグナーの交響曲を聞いたときから君は変わったみたいな歌詞のさだまさしの曲がある、と教えてくれたことがありました。何かひきつけるものがあるんでしょうか。
その後、大学進学で上京したときに、大きなCDショップでアルバムを買いました(ネット通販とかなかったので)。これはまさに銀英伝で使われているのと同じ音源なのだと思います。ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送管弦楽団、ドイツシャルプラッテンレコード、発売元 株式会社徳間ジャパンです。CDを入手するとますます何度も聞きました。私の宝物です。で、おかげで私は自称ワグネリアンです。「ありがとう、あなた、わたしの人生を豊かにしてくださって」です。