Q1
食欲宣言は、どう宣言するの?(宣言する期間は?)
A1
それは、このシステムの実現可能性を考える上で、極めて重要なポイントです。すべての商品を同じ「一週間先」といった単一の時間軸で宣言することは、非効率であるばかりか、米のような年単位で生産される産品には対応不可能です。
この問題の解決策は、**「宣言の多層化(階層化)」**にあります。つまり、製品の生産・供給リードタイムに合わせて、複数の異なる時間軸の宣言を組み合わせるのです。
具体的には、以下のような3つの階層(レイヤー)で宣言を行うモデルが考えています。
宣言の3階層モデル
第1層:【長期・計画宣言】(年単位/半期単位)
目的: 米、麦、大豆のような大規模農作物、畜産・水産物の年間生産計画、あるいは海外からの原料調達計画を最適化するため。
宣言内容: 「来週何グラム食べるか」といった詳細ではなく、食生活の基本パターンや年間のおおよかな消費量を宣言します。
例:「我が家は、月に約5kgのコシヒカリを消費します」
例:「朝食は基本的にパン食です」
例:「牛肉よりは、鶏肉や豚肉を多く消費する傾向があります」
性質: これは厳密な「約束」ではなく、「意向表明」や「基本契約」に近いものです。しかし、このマクロなデータが国全体で集計されることで、政府や農業団体は極めて精度の高い年間生産・輸入計画を立てることが可能になります。
UX(ユーザー体験): 年に一度、あるいは最初に一度設定すれば、あとは自動継続。ユーザーの負担は最小限です。
第2層:【中期・確定宣言】(月単位)
目的: 加工、精米、国際輸送、国内の広域物流など、中規模のリードタイムを持つサプライチェーンを最適化するため。
宣言内容: 長期計画をより具体化します。
例:「来月分の米5kgを確定します。今回はあきたこまちを試してみたい」
例:「来月は、鶏もも肉を2kg、豚バラ肉を1kgほど使いたい」
性質: より「予約」に近い性質を持ちます。これにより、精米工場は精米計画を、大手卸売業者は地域物流センターへの配送計画を無駄なく立てられます。
UX: 月末などに、AIが「来月もいつものパターンでよろしいですか?」と提案し、ユーザーはワンタップで承認または変更するだけです。
第3層:【短期・詳細宣言】(週単位/日単位)
目的: 小売店の在庫管理、日々の配送、個人の献立といった「ラストワンマイル」を完全に最適化するため。
宣言内容: 日々の具体的な消費内容を宣言します。
例:「来週火曜の夕食に、豚肉を300g。金曜にサバの切り身を2枚」
例:「牛乳と食パンを、月曜と木曜に届けてほしい」
性質: これは**「確定注文」**です。この宣言に基づき、店舗への商品配送、個人宅への宅配準備が自動的に行われます。食品ロスは限りなくゼロに近づきます。
UX: 週末に、AIが過去のパターンや季節、栄養バランスを考慮した献立プランを提案。ユーザーはそれを修正・確定するだけで宣言が完了します。
【具体例】米の生産から消費までの整合性
ご指摘の「米」をこの3階層モデルに当てはめると、以下のようになります。
【長期】 全世帯が年間の大まかな米の消費量を宣言。これにより、国は作付面積や備蓄量、必要な輸入量を正確に決定できます。農家は安心して計画的に生産に取り組めます。
【中期】 各世帯が月単位で米の消費を確定。これにより、全農や卸売業者は、精米工場での精米スケジュールや、各地域の倉庫への配送ロットを最適化します。
【短期】 各世帯が週単位で「今週、米を2kg購入する」と宣言。これにより、スーパーや宅配業者は、店舗在庫や宅配トラックへの積み込みを完璧に管理し、欠品も余剰も発生しません。
このように、「食欲宣言」は単一のシステムではなく、製品の特性に応じて時間軸が柔軟に変動する、多層的なエコシステムとして機能します。これにより、年単位の農業計画から日々の食卓まで、サプライチェーン全体をシームレスに繋ぎ、矛盾なく最適化することが可能になるのです。
Q2
なぜ「食欲宣言」から始めるのか?
A2
下記の3点から、食欲宣言から始めるのが良いと考えています。
需要の「有限性」と「予測可能性」:食欲には**「生理的限界」**があります。一日10kgも食べられません。この自然な上限があるからこそ、需要の総量は予測可能であり、システムとして制御しやすい。欲望に制限がない「物欲」と比べ、圧倒的に扱いやすいテーマだからです。
データの「質」と「量」:食事は**「必須な行為」**であり、毎日繰り返されます。これにより、質の高い需要データが、安定的かつ大量に集まります。これは、AIが学習し、社会を最適化するための、最高の燃料となります。
インパクトの「多重性」:「食欲宣言」は、**「食品ロス」「健康」「環境問題」**という、現代社会が抱える複数の重大な課題を、同時に、かつ根本的に解決できる、極めてレバレッジの効く一手です。