本事業では、母子医療・栄養分野にフォーカスしています。

そのために、以下の取り組みを実施しております。

1. 母子医療・栄養分野でランダム化臨床試験①　

ABC2：ABC試験(1)から派生した研究である。授乳中母の食品添加物除去による児の食物アレルギーおよび自閉症スペクトラム症(ASD)発症予防（ランダム化臨床試験）：江崎グリコ（以下、「グリコ」という）と共同臨床研究として2019年1月より開始した。腸内細菌叢のショットガン・メタゲノム解析、および母乳のリピドミクス研究をグリコで実施し、本学の臨床データとの関連を調査中。中間解析で期待以上の結果を得たため2023年12月で新規エントリーを終了し、2025〜6年に誌上発表する。

2. 母子医療・栄養分野でランダム化臨床試験②　

ABC3: 母子医療センターで新規に立ち上げるプロジェクトである。授乳中母に超加工食品を避けてもらった上で、昭和食群と令和食群にランダムに振り分け、言語発達や発達障害をアウトカムとして検証する。本研究も江崎グリコと共同研究する予定。

3.  母子医療・栄養分野での大規模コホート研究：妊娠バイオマーカー

私たちの実施したコホート研究で「妊婦の血中PD-L1レベルが同年齢女性のそれに比べて8倍以上高い」ことを発見したのがきっかけ(2)。血中PD-L1レベルの多寡が妊娠高血圧症候群及び妊娠合併症発症を予測し得るかを明らかにするための前向きコホート研究を2021年より開始し、1000人の妊婦から血漿5000検体弱を採取し、ELISAで測定を完了した。

さらにビタミンD投与で妊娠高血圧症候群リスクが減少することがメタ解析で示されている。しかし、そのメカニズムは不明である。私たちは癌患者の研究で、ビタミンDサプリ投与が血中PD-L1レベルが低い場合にはこれを上げ、逆に血中PD-L1レベルが高い場合にはこれを下げることを報告した（3)。これらを受け、ビタミンDが血中PD-L1レベルに影響することで妊娠高血圧症候群及び妊娠合併症発症を予防すると仮説を立てた。島津製作所の協力を得て血中ビタミンDレベルも測定し、血中PD-L1、 ビタミンDレベルと妊娠高血圧症候群及び妊娠合併症発症の関係を調査する。

母子医療・栄養分野だけではなく、以下の臨床試験にも取り組んでいます。

4. 癌分野でランダム化臨床試験　

アマテラス２試験：「初発癌で、癌死亡数が多い癌種：肺癌、消化器癌（大腸癌、肝臓癌、胃癌、食道癌、膵臓癌）、乳癌、頭頸部癌患者をビタミンＤサプリメント（2000 IU/day）群とプラセボ群にランダムに１：１の比率で振り分け、術後２か月以内に内服を開始し試験終了まで連日長期投与する。そして、ビタミンＤサプリの癌患者、その中でも特に予後不良が予想される p53 陽性癌患者に対する有効性（遅発性再発、あるいは全ての原因による死亡）と安全性（高カルシウム血症等）をプラセボ群と比較することで検証する」ことを目的とする試験である。先行研究であるアマテラス試験でビタミンDサプリメントは消化管癌の再発・死亡を8％減らすことを見出したが、有意差を検知することはできなかった(4)。一方、アマテラス試験の事後解析で p53 陽性癌患者の遅発性再発を３分の１程度に抑え得ることを見出した（5,6)。アマテラス２試験はこれらの私たちの実施した研究結果に基づき企画された。

論文リスト

1. Urashima M, Mezawa H, Okuyama M, Urashima T, Hirano D, Gocho N, Tachimoto H. Primary Prevention of Cow's Milk Sensitization and Food Allergy by Avoiding Supplementation With Cow's Milk Formula at Birth: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2019 Dec 1;173(12):1137-1145. 

2. Okuyama M, Mezawa H, Kawai T, Urashima M. Elevated Soluble PD-L1 in Pregnant Women's Serum Suppresses the Immune Reaction. Front Immunol. 2019 Feb 18;10:86.

3. Morita M, Okuyama M, Akutsu T, Ohdaira H, Suzuki Y, Urashima M. Vitamin D Supplementation Regulates Postoperative Serum Levels of PD-L1 in Patients with Digestive Tract Cancer and Improves Survivals in the Highest Quintile of PD-L1: A Post Hoc Analysis of the AMATERASU Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2021 Jun 9;13(6):1987.

4. Urashima M, Ohdaira H, Akutsu T, Okada S, Yoshida M, Kitajima M, Suzuki Y. Effect of Vitamin D Supplementation on Relapse-Free Survival Among Patients With Digestive Tract Cancers: The AMATERASU Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 Apr 9;321(14):1361-1369.

5. Akutsu T, Okada S, Hirooka S, Ikegami M, Ohdaira H, Suzuki Y, Urashima M. Effect of Vitamin D on Relapse-Free Survival in a Subgroup of Patients with p53 Protein-Positive Digestive Tract Cancer: A Post Hoc Analysis of the AMATERASU Trial. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2020 Feb;29(2):406-413.

6. Kanno K, Akutsu T, Ohdaira H, Suzuki Y, Urashima M. Effect of Vitamin D Supplements on Relapse or Death in a p53-Immunoreactive Subgroup With Digestive Tract Cancer: Post Hoc Analysis of the AMATERASU Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2023 Aug 1;6(8):e2328886.