極北民族雑記（２）

極北民族雑記（２）（ARKTOS2号）

日本人と親戚同士のエスキモーについて

• 植村直己さんがグリーンランドのポーラ・エスキモーと最初に会った時、日本人だと信じてもらえず、ジャパニー・エスキモーといわれた。植村さんを養子にしたエスキモーの老夫婦も、顔があまりにもエスキモーに似ているのにびっくりしていたそうだ。
• 考えてみれば当然のことで、人類学上、日本人とエスキモー人が親戚同士だから、同じ顔していても不思議ではない。今から1万年以上前に、日本人とエスキモーの共通の祖先が北アジアでいくつかのグループに分かれて、日本人なるものが日本列島へ、エスキモーとなるものがシベリアのチュクチ一半島を経て、ベーリング海峡をわたってアラスカの北西に広がった。
• エスキモー民族の直接祖先と考えられるグループが約5千年前に、日本で言えば縄文時代の半ば頃、アラスカから人跡未踏のカナダ大陸の北辺と北極諸島を伝わって、5000㎞離れたグリーンランドまで到達した。
• その頃のエスキモーは植村さんが会ったポーラ・エスキモーとあまり変わらない生活をしていた。もちろん、金属利器や石油ストープはなくて、石製のナイフや骨で作った道具を使っていたが、やはり服装は毛皮だった。まだ雪の家を知らなかったので、冬でも動物の皮で作ったテントに住み、周辺の動物（カリブー、ジャコウウシ等〉が移動すると、エスキモーもテントをたたんで追っていくという具合の放浪生活だった。
• 約3千年前にエスキモー独特の雪の家が東部極北圏で考案されたが、19世紀にヨーロッパの捕鯨船がアラスカに進出するまで、アラスカ・エスキモーは雪の家を知らなかった。
• また、エスキモー人は最初から生肉を食べている。つまり、肉を焼くと、その栄養分が破壊されるが、生で食べれば、人間の体が必要とする全ての栄養素があり、植物食がなくとも壊血病などの心配はないということを、生活の知恵で知っていたというわけだ。

（早稲田大学文学部考古学資料室）