極北民族雑記（４）

極北民族雑記（４） （ARKTOS4号）

エスキモーの遊びについて

• 今年の夏、日本テレビで一風変った番組が放映された。
• イヌビックという町は、直ぐ北極海に注ぐマッケンジー川の河口の近くにあり、そこで北極オリンピックの名にふさわしい「アークティック・ゲームズ」と呼ばれるスポーツ大会が行われた。フェアバンクス、イエロナイフ、チャチヒール、アクティック・ベイというように、毎年極北圏の1つの町でこの大会が開催される。日本テレビの岩下莞爾プロデュサー、中村進カメラマンと五月女次男マネジャーが1979年のイヌビック大会を取材した結果、アークティック・ゲームズははじめて日本に紹介された。
• 約1週間つづく大会の参加者は主に極北に住むエスキモーとインディアンで、伝来のグームと技術に数百人が腕を競う。毛皮はぎ競争やバノック（パン）焼き競争など、18～19世紀のヨーロッパ人の進出とともに持ちこまれた技術が大会に登場するが、その他に先史時代から伝来するゲームも多い。例えば、こぶし大のボールを床よりl～2mの高さに吊して、選手がこのボールを両足で同時に蹴って、ころばずに着地するという競技はその一つである。
• ところで、考古学者の研究によって、エスキモー文化に昔から多種多様の遊びがあるということは明らかにされており、いくつかのゲームは千年以上さかのぼるものもある。古い例としては、白骨化したウサギの頭骨と先の尖がっている骨を紐で結んだものを挙玉の要領で頭骨を尖がった骨に受ける遊びを1800年前の子供が楽しんでいた。同じぐらい古いとされている「あやとり」の遊びは他の民族と比べものにならないほどエスキモー文化において複雑であり、高度に発達した。長老が語る昔話の内容に合わせて、オオカミに追われているカリブーやシロクマを倒すハンターの場面を演じて、両手に持ったあやとりの紐が生きもののように動く。あやとりは伝統的には大人の遊びで、子供、とくに男の子はあまりしなかったようだ。長い夜が続く冬には、男たちは力だめしゲームに現をぬかしていた。腕相撲や綱引の他に、長さ25センチの紐の輸を向きあって2人の耳にかけて、引っぱって先に耳から紐がとれた人が負けるというグームや、高さ2.5mに吊した骨の輸に選手が飛びついて1本の指でぶらさがる競争、正座した2～3人が手で両足を引っぱりあげて腰に押しつけてからヒザで立って競走するなどがあった。夏になると、老若男女が砂地や氷に出てサッカーに似たゲームに一晩中興じる風景は19世紀の探険家が書いたものの中に描かれている。カリブーの皮の中に草やコクをつめたボールを現代のサッカーと同じようなルールではあったが、違うところといえば、ゴールは何と2㎞から10㎞に離れていて、時間制限はなく、時には選手が交替しながら試合が3日もつづいた記録もある。その間、このサッカー遊びに参加できない、小さい子供たちは「鬼ごっこ」ならぬ「シロクマごっこ」や、片足かけっこ、コマ回しなどをしていた。
• このような激しい肉体グームを冬と夏に分けて楽しんでいたエスキモーはまた無類のギャンブル好きだったらしい。動物を象った骨やアイボリー（象牙質）駒の下面を平坦にして、上に投げた駒がまっすぐ立って降りた場合に点が与えられ、倒れたものは失点となった。ギャンブルにかけるものは狩猟道具、カミクと呼ばれる冬ブーツなどだった。
• エスキモーの遊びはただ無聊をいやすためではなく、体力作りや運動神経の発達を養うものだったので、狩猟を中心とした生活と切っても切れない密接があった。エスキモーは日一日失われてゆく伝説をアークティック・ゲームズを通じて少しでも保存し、次の世代に伝えようとする努力が真剣そのものだった。

（早稲田大学文学部考古学資料室）