■学校名
電気通信大学
■代表者名
山本祐貴(修士2)
■他メンバー
小山沙耶子(大4)
■担当教員(指導者)
なし
流鏑馬ソーシャルゲーム『祈リノ射手/YABUSAME OATH』の提案
■作品概要
本作品は、古代神事「流鏑馬」を題材としたソーシャルゲームの提案です。かつて人と神を結んだ『祈りの矢』が再び現代に蘇る世界を舞台に、プレイヤーは流鏑馬の射手として各地に眠る神々の試練に挑みます。物語の始まりは、今も春の「桜流鏑馬」など馬と祈りが一体となる文化が息づく十和田市。ここを拠点に、全国各地を巡り流鏑馬を通して人と神の絆を取り戻す旅が描かれます。ゲームは、かつての武士の修行を再現した『鍛錬パート』と、「神事としての流鏑馬」を行う『神事パート』で構成されます。鍛錬では地域の文化や神事を学ぶことでキャラクターが成長し、神事イベントでは三射を模したステージである「祓・祈・結」を通じて神々との契約を結ぶことを目標とします。さらに、実際の神社参拝で発生するボーナスにより、地域文化や観光への関心も高めます。伝統とデジタルを融合させ、遊びながら学ぶ形で流鏑馬の精神を次世代へとつなぐことを目指します。
■探究の動機や目的
私の住んでいる地域の近くには府中市があり、そこは昔から「馬」と深い関わりを持つ街です。府中競馬場や大國魂神社の流鏑馬など、現代と伝統の両面で『馬の文化』が息づいています。一方で、お祭りや競馬を除くと、その背景にある歴史や意味に触れる機会は、若い世代ほど少なくなっているように感じました。近年では、ソーシャルゲームを通して文化や歴史を学ぶ仕組みが広がっており、実際に『ウマ娘』のような作品では、競走馬の史実を知るきっかけになるなど、地域観光や経済にも良い影響を与えています。私はこの現象に注目し、流鏑馬に象徴される『馬を通じた神事や祈りの文化』を、ソーシャルゲームという現代的な形で伝えられないかと考えるようになりました。その中心として選んだのが、流鏑馬が盛んな十和田市です。ここを舞台に、伝統と祈りをテーマとしたキャラクターや物語を設計し、『ゲームを通して地域文化を継承する』という新しい形を探ることを目的として、本探究を始めました。
■探究の方法や内容
探究の中心に据えたのは、「学びとゲームとしての楽しさをどう両立させるか」という課題です。ソーシャルゲームにおいては、魅力的なキャラクターとその背景となる物語が、プレイヤーを引き込む最も重要な要素であると考えました。そこで、実際に十和田神社が祀る日本武尊(ヤマトタケル)をモチーフに、衣装や色彩、モチーフの意味づけを丁寧に設計し、「伝統の要素を現代的に再構成する」ことを意識してキャラクターデザインとキービジュアルを制作しました。その制作にあたっては、身近な府中市や、ゲームの舞台として設定した十和田市を中心に、流鏑馬の歴史や行事、そして流鏑馬を取り仕切る神社が祀る神々に関する神話などを調べました。そこで、流鏑馬が単なる馬上技術ではなく、「神に祈りを捧げ、人と神をつなぐ儀式」として受け継がれてきたことを整理し、現代の若者にも親しみやすい形で表現する方法を模索しました。ゲーム内では、「学びと体験」を一体化させる仕組みを構築しました。前半の「鍛錬パート」では、プレイヤーが流鏑馬や神社文化を学ぶことでキャラクターの能力が強化される仕組みとし、たとえば「府中の大國魂神社の流鏑馬を知ると、その地域特有の技が強化される」といった形で、学習がそのままゲームの成長につながるように設計しました。後半の「神試練イベント」では、流鏑馬の神事における三射「祓・祈・結」の流れを再現しました。一射目で穢れを祓い、二射目で祈りを捧げ、三射目で神と契約を結ぶという儀式の意味を、光や音の演出を通して体感できる構成にすることで、祈りの文化を感覚的に理解できるようにしました。こうした構成を通じて、伝統文化を『遊びながら学べる体験』として再構築し、流鏑馬という地域文化をより多くの人に伝えるための新たな可能性を探りました。
■感想と今後の課題
今回の探究を通して、流鏑馬という一つの文化が地域によって異なる形で息づいていることを実感しました。府中では都市の中に馬文化が溶け込み、大國魂神社の流鏑馬が人々の生活に近い行事として続いています。一方で十和田では、自然と祈りが一体となった神事としての流鏑馬が受け継がれています。その違いを調べる過程で、どちらの形も大切にしながら次世代へ伝える方法を考えたいと思い、遊びを通して文化を体験できるゲームという形に辿り着きました。制作の過程では、伝統の神聖さを損なわずに娯楽として成立させる難しさも感じましたが、鍛錬や三射の仕組みを通して、プレイヤー自身が祈りの意味を体感的に理解できる構成にしたことにより、両立ができたと考えています。この探究を通じて、伝統を守るだけでなく、遊びの中で文化を再び息づかせる可能性を実感しました。今後は、各地域の流鏑馬の関係者の意見を取り入れながら、教育や観光とも連携できる形で発展させたいと考えています。