生物部では、駒場東邦中高と合同で本校の最寄り駅—駒場東大前駅の近くにある「駒場野公園」で生物調査を行っている。本項では、今年度に観察・採集された主な生物の調査結果を紹介していく。
・調査地点
大きく分けてケルネル水田と大池の2ヶ所で行われている。
・ケルネル水田
本校の行事として稲作があることを知っている方の中には、駒場野公園に水田があることをご存知の方もいるだろう。
全体で1700㎡ほどの8枚の棚田状の水田と、水田の上流側にある「足洗場」として知られる小さな池、足洗場から水田の脇を流れる小さい水路、そして水田の下流にある「環境モニタゾーン」と呼ばれる湿地帯と草地で構成されている。
水田には上流にある足洗場から水を引き入れており、8枚の水田と水路、足洗場が繋がっている。そのため冬季に水田の水が無くなっても、足洗場などには水が残っているため、魚類が避難することができる。また、水田脇の水路は、流れがあるものの比較的緩やかだ。
・大池
水田の西側にあり、水田に給水を行う水源地として使われている池。大池は昔からこの場所に存在し自然植生もとどめており、深場やエコトーンなどもあるれっきとした池だが、アメリカザリガニやミシシッピアカミミガメ、キショウブといった侵略的外来種の影響を受けている。
大池での調査風景
水田を上流(足洗い場)側から見た景色
2. 調査結果
・アメリカザリガニ Procambarus clarkii
十脚目 アメリカザリガニ科 アメリカザリガニ属
水田、大池両方でよく見られ、特に春季は大型個体が水田で多く見られる。身近な水生生物である一方、侵略的外来種で日本の淡水生態系を脅かしている¹。
・ミナミメダカ Oryzias latipes
ダツ目 メダカ科 メダカ属
水田脇の水路や水田で小群を成している。駒場野公園の個体は野生個体と逸出個体の交雑個体群であると言われているが定かではなく、系統を調べる必要がある。水田改修時に、水田付近にいた本種を保全目的で捕獲した。現在も本校生物部の管理下に置かれている。
・ヒバカリ Hebius vibakari vibakari
有鱗目 ナミヘビ科 ヒバカリ属
水田周辺の草地で見られる。宅地開発などが生息場所が失われる原因となり、近年都心部では個体数が減少している可能性がある²。東京都本土部のレッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている²。
・カワヂシャ Veronica undulata
シソ目 オオバコ科 クワガタソウ属
水田のあぜなどで見られ、薄紫色の小さい花を咲かせる。近年、オオカワヂシャをはじめとする外来種の繁茂により、各地で本種の生育が脅かされている。環境省レッドリストでは準絶滅危惧種³。
・クズクビボソハムシ Lema diversipes
コウチュウ目 ハムシ科 クビボソハムシ属
水田、大池などのクズの葉上に見られる橙色のハムシ。2018年に東京で初めて報告された外来種であり⁴、分布を広げているのではないかと危惧される。
もしかすると、あなたの家の近くにもいるかも?
・ツヤドロムシ属の一種 Zaitzevia sp.
コウチュウ目 ヒメドロムシ科 ツヤドロムシ属
今回、水田でのライトトラップにて飛来した。本種は本来、河川の中~下流域に生息し、水中や水際で石などの上で生活している種である。夏~秋に灯火に飛来する習性を持っており、どこから駒場野公園に飛来したのかは謎である。
・セリ Oenanthe javanica
セリ目 セリ科
春の七草として有名な植物で食用にされる。水田の畦道や湿地などに生え、白い小さな花がいくつかまとまって咲く。毒草のドクゼリは見た目がよく似ているので間違わないように注意する必要がある。
・アケビコノハ Eudocima tyrannus
節足動物門 昆虫綱 鱗翅目 Erebidae科
水田でライトトラップにて近くの樹上に飛来した。止まった時の姿が落ちた枯葉によく似ており、擬態の名人として知られる。表の枯葉模様とは裏腹に、後翅や翅裏は鮮やかな橙色に黒い線が入る派手な模様をしている。頭部の先が伸びており特殊な形をしている。この写真では右側が頭部。
以上のように駒場野公園では、都市部としてはかなり珍しい豊かな生態系が育まれている。一方で、外来種の影響も少なからず受けており、継続的な種の把握と早急な対応が求められる。
ところで、ケルネル水田では最後の水田改修から40年以上経っており、2024年4月中旬から水田の改修工事が行われた(理由は土の劣化や水もれ、水はけ不良など)。改修工事はすでに終わっているが、改修工事により外来種が持ち込まれたり、元からいる種でも遺伝的差異のある個体が移入している恐れもある。現状、大きな変化は見られないが、今後とも継続して動向を注視するとともに、懸念していることが実現しないことを強く願うばかりだ。