水稲に生息するシアノファージ及びミミウイルスの生態
水稲に生息するシアノファージ及びミミウイルスの生態
1.はじめに
シアノファージは、シアノバクテリアに感染して増殖するウイルスであり、今回の実験ではその中でも特にT4類縁ファージ型のものを研究対象とした。一方で、ミミウイルスは単細胞真核生物であるアメーバを宿主として増殖する巨大ウイルスであり、どちらもウイルスとしては最大級の複雑性をほこる。今回、私は顧問の指導のもと、本校生徒3人と共に両種の採水場所の環境の違いによる生息状況を実験を通して比較することにより、その生態について考察した。
2.実験方法
サンプルとなる水を採取し、濾過吸引瓶とフィルターを用いて濾過を行う。濾過を行ったフィルターを砕いてマイクロチューブに入れ、蒸留水を加えたものにDNAの抽出操作を行って、DNA鋳型とし、できたDNA鋳型にDNA複製に必要な化学物質と蒸留水を加え、PCR反応液をつくる。反応液はPCR法によって対象の遺伝子を増幅させたのち、電気泳動にかけ、その様子を観察・分析する。
今回は採水場所の流速と土壌の乾湿状況、土壌に優勢する植物種の3条件について調査を行った。まず、生息状況を確認する予備実験を、2024年7月8日にケルネル水田・水田下流の水たまり・バケツ稲A・バケツ稲Bの4地点で採取したサンプルに対して行った。2024年7月31日に流速条件について、水田内の流水域A・水田内の流水域B・水田内の止水域A・水田内の止水域Bの4地点で採取したサンプルに対して実験を行い、翌8月1日、流速条件の追加実験と、乾湿条件について、水田の土を入れた水の入った容器・一度乾燥させた水田の土に再度注水を行った容器から採取したサンプルに対して実験を行い、更に優勢植物種条件について、それぞれエノコログサ・センダングサ・メヒシバが優勢して生育している3地点で採取したサンプルに対しても実験を行った。
3.実験結果
上から順に、予備実験、7/31、8/1の実験の電気泳動写真。
いずれも左半分がシアノファージ、右半分がミミウイルスについて電気泳動したものとなっており、各々の最も左側の長いバンドがマーカーである。マーカーとは、試料と一緒に一緒に電気泳動される、バンドの位置の指標のこと。
写真に写っている白い線はバンドと呼ばれ、そこにDNAが存在することを示す。詳細な説明は省くが、電気泳動ではDNAの大きさによって移動距離が変わるため、その違いから種を特定できる。電気泳動させたサンプルの順番は以下である(マーカーは省く);
・予備実験…左から、ケルネル水田・水田下流の水たまり・バケツ稲A・バケツ稲B。
・7/31の実験…左から、流水域A・止水域A・流水域B・止水域B。
・8/1の実験…左から、追加実験・乾燥土・湿った土・エノコログサ・センダングサ・メヒシバ。ミミウイルスについては、後者三つのみ電気泳動。
4.考察
予備実験から、水田中・水たまり問わず、水田の土壌にはシアノファージ・ミミウイルス両者ともに生息することがいえ、一方でバケツ稲Aではシアノファージのみ、Bでは両者のバンドが見られるため、シアノファージは水稲に生息する、といえる一方でミミウイルスは必ずしも生息する訳ではないことが考えられる。
次に、7/31の実験結果を見てみると、まず、シアノファージについては、流水域Bでのみ観察されず、それ以外では特に有意差は見られなかった。翌日、流水域Bの採水地点の直前に大規模な藻の生育場所を見つけ、ここにシアノファージが留まっているのではないかと考えて、藻を採取し追加実験を行った。次に、ミミウイルスでは、流水域と止水域で有意な差がみられ、予備実験の水田中と止水域A、水たまりと止水域B、流水域AとB,それぞれでのバンドの出方が似ていることから、ミミウイルスは流速の細かな違いによって、生息する種が異なることが読み取れる。
そして、8/1の実験結果に注目すると、追加実験ではシアノファージのバンドが薄く観察されたことから、考えが否定しきれないことが分かった。乾湿条件について分析すると、湿った土にはバンドが薄く観察されるが、乾燥した土には全く観察されないことから、シアノファージは乾燥した土壌からいなくなることが分かった。優勢植物条件を見てみると、イネ科であるエノコログサ・メヒシバにおいて、シアノファージのバンドが薄い・見られない一方、キク科であるセンダングサでははっきりと見られ、ミミウイルスではエノコログサ・センダングサでははっきり見える一方、メヒシバでは全く見られないことから、両者ともに種単位で植物に生育しているか、他に条件がある可能性が高いと考えられる。
今後の展望として、温度変化など他の条件についても継続して実験を行っていきたい。