筑駒生物部は例年夏休みに遠方で合宿を行っている。コロナ禍による3年間の空白を経て再開した昨年の白神山地合宿に続く2回目の合宿を、7月28日~30日に尾瀬にて行った。険しい山々に囲まれ、自然保護活動によって守られてきた尾瀬の豊かな植物相とそれに育まれた多様な昆虫や鳥類などを観察した。今回、その調査結果の一部をここに記す。
一日目…大清水休憩所〜尾瀬沼ヒュッテ
二日目…尾瀬沼ヒュッテ〜竜宮小屋
三日目…竜宮小屋〜鳩待峠休憩所
を歩いた。
二日目を除き雨に見舞われてしまい、雨天決行の登山となった。
尾瀬には、湿地、山道、川など様々な環境があり、それぞれの場所で様々な植物を観察することができた。その中から一部を紹介する。
・オゼコウホネ Nuphar pumila var. ozeensis
スイレン目 スイレン科 コウホネ属
日本固有種で限られた場所にしか分布しておらず¹、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に分類されている希少な植物²。ハスのように葉が水面に浮かび、黄色い花を水面の上で咲かせる。
・ニッコウキスゲ
Hemerocallis middendorfii var. esculenta
キジカクシ目 ツルボラン科 ワスレグサ属
尾瀬では夏に大群落が見られるが、生物部が訪れたときには、多くが枯れてしまっていた。それでも数個体、綺麗なものが見られた。オレンジ色の、ユリに似た花が咲く。
・キンコウカ Narthecium asiaticum
ヤマノイモ目 キンコウカ科 キンコウカ属
花の色がわずかにオレンジがかった黄色の黄金色であるため、この名前が付いている。日本固有種で¹、高原に見られる湿原植物。今回は尾瀬の湿原の至る所で見られた。
・コタヌキモ Utricularia intermedia
シソ目 タヌキモ科 タヌキモ属
水中で生育する食虫植物の一種。ため池などで見かけるイヌタヌキモよりも華奢な見た目をしており、より特殊な環境に生育する。
・ギンリョウソウ Monotropastrum humile
ツツジ目 ツツジ科 ギンリョウソウ属
湿った山道の木の根本などに見られた。葉緑体をもたず、自ら光合成をしない腐生植物で全体が白い。隣の葉は別の植物。
・モウセンゴケ Drosera rotundifolia
・ナガバノモウセンゴケ Drosera rotundifolia
ナデシコ目 モウセンゴケ科 モウセンゴケ属
左及び真ん中がモウセンゴケ、右がナガバノモウセンゴケで、どちらも食虫植物。粘液のついた、赤みのかかった毛を多数持っており、引っかかった昆虫等を消化吸収する。左はモウセンゴケの花だが、どちらも似ており白く小さい。
・ハッチョウトンボ Nannophya koreana
トンボ目 トンボ科 ハッチョウトンボ属
尾瀬ヶ原の湿り気のある草原の近くで数個体が見られた。世界最小のトンボであり³、その大きさは一円玉と変わらないほどだ。
・ホオアカ Emberiza fucata
スズメ目 ホオジロ科 ホオジロ属
夏は主に標高の高い草原で見られる。尾瀬沼、尾瀬ヶ原両方において多くの個体を観察することができた。冬は平地の草原にも渡来する。
・ウラギンヒョウモン属の一種 Fabriciana sp.
チョウ目 タテハチョウ科 ウラギンヒョウモン属
写真のチョウはサトウラギンヒョウモンかヤマウラギンヒョウモンであると考えられるが、差異が殆ど無く同定が困難であるため、属までの表記とした。
・アサギマダラ Parantica sita
チョウ目 タテハチョウ科 アサギマダラ属
チョウの中では珍しく「渡り」をすることで知られるがまだ解明の予知があり、各所でマーキング調査が行われている。幼虫期に有毒なキュウチクトウ科の植物を食草とするため、体内に毒を持つ毒蝶としても知られている。
・ヒメオオクワガタ Dorcus montivagus montivagus
コウチュウ目 クワガタムシ科 クワガタ属
尾瀬沼から尾瀬ヶ原への移動中に林道を歩く個体を発見した。高山性のクワガタで、平地では見られない。ヤナギやカンバ類によく集まる。
・ニカワホウキタケ Calocera viscosa
アカキクラゲ目 アカキクラゲ科 ニカワホウキタケ属
尾瀬沼周辺や、尾瀬ヶ原へ向かう途中で発見した。特徴的な色と見た目をしており、強い毒性はないですが不可食。写真の個体は4cmほどで、成長すると10cmほどになる。
1. 北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック 2001.札幌,北海道.2. 環境省レッドリスト2020:https://www.env.go.jp/press/107905.html(2024年9月22日閲覧).3. 日本のトンボ 改訂版.文一総合出版,東京.
ちなみに…
2023年の合宿では青森県の白神山地周辺および岩木山麓へ赴きました。
こちらは採集をメインとしており、観察に徹した今年の合宿とは少し毛色の異なる合宿でした。宿にツキノワグマの剥製があったり、川でサンショウウオを観察するなど、こちらも充実した合宿でした。
←赤石川上流部の滝 水温の冷たい非常に綺麗な河川でした。