軟化展翅について
軟化展翅について
軟化展翅とは、死後硬直が進み、乾燥して固くなってしまった昆虫(この場合は主にチョウ・ガ)の体を柔らかくして形を整え標本にすることである。例えば「とったチョウを冷凍庫に入れ忘れていて固まっていた」「標本商で買った未展翅のチョウがカチカチだった」…
こんな場面では軟化展翅が必要不可欠である。軟化展翅は、軟化と展翅の二工程に大きく分けられる。本来は軟化剤という薬があり、使えば数分で軟化できるが、管理が面倒で使い方も難しいため、今回はよりシンプルな方法を紹介する。この軟化の方法の原理は、簡単に言ってしまえば、蝶の体を水でふやかして柔らかくするだけと、非常に単純である。以下、使用する道具などを紹介する。
では、軟化を始めます。まずティシュペーパーを形が崩れないよう引き出す。これを四つに折るのですが、正確さは不要です。二つ折りまで行ったところでチョウをはさむ。挟んだセットをタッパーに入れて、霧吹きで多めに吹きかける。これが重要で、チョウの体が透けて見えるくらいまで思い切ってかける。チョウの鱗粉には撥水性があり、水をはじくため、鱗粉が取れる心配はない。霧吹きの作業が終わったら、後は同じことを繰り返すだけである。
チョウと紙の層を積み上げ終わったら、タッパーの蓋を閉じて一晩位を目安に置こう。蓋を閉めないと水気が飛んでしまうのであまり軟化できない。
軟化の全工程を並べると、以下のようになる:
軟化では、チョウの翅を動かそうとしても、「あまり動かない。軟化したはずなのに…。」といったことが起こりがちである。ここで無理やり開こうとするのはあまり得策ではない。翅が付け根から折れたり、途中で折れたりするリスクに怯えることになる。それを防ぐため、さらにもう少し軟化してみよう。
方法はいくつかあります。
①元の方法で時間を延長してみる(カビないので安心してほしい)。
②熱湯を注射する。
③筋肉を突き壊す。
①は文字通り。水を少し足すといいかもしれない。
②に関しては、多少注意が必要である。湯を沸かして器に注ぎ、それを注射器にとって胴体に注射する。この時火傷や針刺し事故に注意してほしい。胸部の翅の付け根あたりに打つイメージである。胴体から水滴が垂れてくるくらいまでしっかり注入して、筋肉が軟化されるのを待つ。
③は、マチ針で胸部の筋肉をドスドス刺しまくって、筋肉を破壊する。但し、②を③のあとにやっても体に穴がたくさん開いているので湯が漏れてしまい、あまり効果がない。
さて、これで軟化終了である。十分柔らかくなっていたら、展翅に進もう。
展翅は、最も一般的な方法を説明する。
チョウに虫ピンを刺す(前翅の基点と後翅の基点を結んだ線に対して垂直に刺すイメージ)。
展翅版に垂直に、溝の中央に針を刺したら高さを整え、開いた翅を展翅テープで仮止めする。 さらに、大まかな位置を揃えながらテープで硬めに押さえます。太い支脈に針をひっかけながら角度を調節し、マチ針でテープの上から固定したら、テープの余った部分を切って触角の固定に使う。今回は行わなかったが、場合に応じて腹部の位置も調整する。
今回用意した種は裏も綺麗なため、もう一個体を用いて、反対向きに展翅を行う、「裏展」も行った。表展に比べ、展翅板に刺す段階は難しいが、他は特に変わらない。
完成した状態↓
最後まで読んでいただいたことに感謝する。この解説が、生物探求の鍵となれば幸いである。是非一度、軟化展翅で標本を作ってみてほしい。