イガツブゲンゴロウ(以下:イガツブ)は、水の中に住む昆虫「水生昆虫」の一種で、世界でも三重県伊賀市のごく僅かな池にしか生息していない、4㎜ほどのゲンゴロウの仲間だ。私は高2の校外学習中に友人らと共に本種を採集したため、採集記を記述する。
新種記載されたのが2021年であり¹情報が皆無に等しいため、地図上で良さげな池を選定し、その中から三重県伊賀市及び滋賀県甲賀市の池8箇所²を訪れ、目の細かいたも網で水際の植物を掬い取り、本種を探しました。採集は5月21日~23日に行った。
結果、1箇所でイガツブ、2箇所でイガツブの可能性があるゲンゴロウを採集することが出来た(実はイガツブに非常によく似た別種が2種類存在する³。見分けるには約1㎜の雄交尾器をピンセットで抜き取り、形状を元論文¹の図と比較する必要がある)。
1.実際にはより多くの水域を回っているが、表と考察の煩雑化を防ぐ為に省略した。
2.ルイスツブゲンゴロウ、ニセルイスツブゲンゴロウの2種類。特に後者は非常に稀な水生昆虫。
3.Yanagi, T., Akita, K. 2021. A New Species of the Genus Laccophilus (Coleoptera: Dytiscidae: Laccophilinae) from Honshu, Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, 27(1): 31–34.
表から、タマガムシとヒシはイガツブの採集された3箇所すべての池で見られていることが分かる。このうちヒシは水面に葉を浮かべる水生植物の一種であり、直接的なイガツブの生息環境を提供している可能性がある。タマガムシはイガツブとほぼ同じ大きさの水生昆虫であり同様の環境を好むと考えられる、本種はイガツブの採れなかった池でも得られていることから、より生息しうる環境の幅は広いと考えられる。
また、一般的に水生昆虫は外来生物に弱く、アメリカザリガニやウシガエルの侵入で瞬く間に個体群が壊滅するような種類も多い。しかしながら今回の調査ではイガツブの確認された3箇所全てに外来種が侵入している状態であるにも関わらずイガツブの個体密度が非常に高い場所もあり、外来生物の影響を強く受けているわけではないと考えられる。この理由として、本種が小型であるために外来種の捕食圧を受けにくいのではないかと考えた。
そして、イガツブの可能性のあるゲンゴロウが採れた2箇所のうち1箇所は甲賀市の池であり、この場所はイガツブの従来の分布域から自治体としても水系としても離れている。そのため、この地点で得られた個体を精査し、イガツブなのかよく似た別種なのかを結論付ける必要がある。
6の池:イガツブ / 1の池:イガツブ疑惑 / 8の池:イガツブ疑惑
上:ヒシ タマガムシ オオミズスマシ
下:コガシラミズムシ マルミズムシ マツモムシ