2013年アメリカ研究集会報告
国際哲学研究センター第一ユニットは、2013年5月24日から3日間にわたり国際井上円了学会アメリカ研究集会をアイオワ州デコーラのルター大学にて開催した。企画にあたって大いに協力いただいた同大学のゲレオン・コプフ教授を含めアメリカとメキシコから5名の研究者、東洋大学からは三浦節夫、相楽勉、ライナ・シュルツァの3名が参加した。
初日24日(金)の午前中は、井上円了著作の欧米諸言語への翻訳計画についての集中的な討議に充てられた。南カリフォルニア大学のクリントン・ゴダール教授もこの会議にインターネットを通じて参加した。ゴダール教授は国際間文化研究所(IAIR)のメンバーであり、円了著作の翻訳経験もあることから、英訳計画に関する私たちのこの最初の協議にあたって多くの貴重な助言をいただいた。円了著作のスペイン語への翻訳についての具体案はハシント教授によって提案され、実現への道筋が話し合われた。
同日午後は、「間文化哲学とは何か?」というテーマで円卓会議が催された。この会議には、ルター大学の哲学科に所属する研究者7名も加わった。会議は二つの短いプレゼンテーションによって開始された。まずコプフ教授が理論的側面から間文化哲学について語り、シュルツァ客員研究員が倫理の領域における間文化哲学にかんするいくつかの所見をそれに付け加えた。シュルツァ氏は円了の四聖(ソクラテス、孔子、釈迦、カント)を哲学の比較研究の枠組みとして提案したが、これは参加者たちの大いなる関心を呼び覚ました。その後、活発で発見に満ちた意見交換が15人の参加者間で行われた。日本から参加したわれわれは、率直で端的な意見表明においても思いやりと礼儀を十分わきまえたディスカッションの仕方にアメリカの文化風土を見、強い印象を受けた。
25日(土)は「井上円了の哲学」をテーマとするシンポジウムが開催された。最初に相楽教授がこのシンポジウムに関する趣旨説明を行った。それに続いて、7名の研究発表が行われた。順に、三浦節夫(東洋大学)「井上円了の妖怪学」、ゲレオン・コプフ(ルター大学)「哲理門の中にいる幽霊」、ライナ・シュルツァ(東洋大学)「初期井上円了における良心の比較倫理学的考察」、アグスティン・ハシント・サバラ(ミコアカン高等学術院)「国家の再教育:井上円了と西田幾多郎における教育理念の素描」、遊佐道子(西ワシントン大学)「哲学、哲学会、哲学館-日本の精神的近代化における井上円了の貢献」、リーア・カルマンソン(ドレーク大学)「哲学の庭の中で-井上円了と実践不可能なものの実践」、スコット・ハーリー(ルター大学)「佛性:教義か哲学か-印順法師と井上円了との対話」である。いずれも興味深い発表内容をもち、それに対して多くの有意義なフィードバックがなされた。また参加者すべてから、井上円了研究を深めていくための様々なアイディアが示された。
26日(日)は研究集会参加者全員で、デコーラ近郊の文化遺産を見学するツァーに出かけた。午前中はこの地方の禅堂(龍門寺)における座禅会に参加し、昼食後は新緑のミシシッピ渓谷と、渓谷沿いに点在するアメリカ先住民の墳墓を訪ねた。 この研究集会は、アメリカとメキシコの研究者たちとの研究交流を深め、今後の円了研究や円了著作の翻訳プロジェクトの基礎を築き得た点で大きな意義があった。