映像を用いた実践事例について
和井内良樹 Wainai Yoshiki
宇都宮大学大学院教育学研究科(教職大学院)教授
道徳授業に限りませんが、映像を流した瞬間、生徒の表情が急に変わるということはありませんか。映像には、生徒をひきつける魅力があると思われます。
道徳授業に映像を用いる場面として、まず、展開段階で中心教材として扱うことが挙げられます。メリットは、読み物教材では不可能な視覚的情報や臨場感などを伝えられることです。また、ほかの場面として、導入や終末段階で映像を提示することが挙げられます。導入では生徒に問題意識をもたせたり、教材への興味・関心を高めたりすることができます。終末では、本時で扱ったテーマについて発展させたり、まとめたりすることができます。これらのほかにも、適宜、補助教材として扱うことが挙げられます。中心教材だけでは理解が難しい事柄について、映像を用いて補足説明をしたり、映像で具体的に状況等を提示して考えさせるようにしたりすることができます。
さらに、ICT活用の工夫によって、映像を用いる方法も多様化してきています。電子黒板や教室のモニター、スクリーンなどに映像を映し出すほか、生徒一人一人の端末やタブレットに映像を送信したり、教科書などに掲載されている二次元バーコードから映像を読み取らせたりすることもできます。一人一台端末の普及により、必要なときに必要なだけ、映像を含むあらゆる情報を発信・共有することが可能となりました。
これまで、映像を用いるメリットについて場面ごとに述べてきましたが、ここからは、道徳授業で留意すべき点について触れたいと思います。映像教材は読み物教材よりも情報量が圧倒的に多く、生徒によってはかえって理解不能に陥る場合があると考えられます。また、感動映像などを授業の初期段階のうちに一気に流すと、感動の飽和状態になることがあります。そのため、映像を流す量やタイミングなどをある程度コントロールする必要が生じるケースがあるかと思います。さらに、流す映像そのものについて、特にノンフィクション映像は生徒にとって衝撃が強いものもあることが想定されます。「生命の尊さ」「自然愛護」「公正、公平、社会正義」「国際理解、国際貢献」などに関する映像について、教育的、人権的な面からの検討を十分に行う必要が生じることも考えられます。生徒一人一人の実態等に十分配慮して、用いる映像について最終的な判断をしていただければと思います。
※ 掲載しているURLは、外部サイトのものが含まれます。内容やサイトそのものが掲載時から変更になっている場合がございますので、ご注意ください。