声明

内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」(二〇二二年十二月六日)の撤回(再考)を求める声明

内閣府は、去る二〇二二年十二月六日、「日本学術会議の在り方についての方針」(以下、方針)を公表し、あわせて二〇二三年一月二十三日に召集される通常国会において日本学術会議の「改革」に関連する法案を提出する意向を示した。これに対し、私たち日本歴史学協会は、この方針に再考を求める日本学術会議の意向を強く支持し、内閣府に対してこの方針の見直しと日本学術会議の「改革」に関連する法案を通常国会に提出することのないよう強く求める緊急声明を発した。

この間、私たちのみならず、様々な学術団体が日本学術会議の意向を支持する見解や声明を続々と発出していることは、学問に携わる人々の多くが、今般の内閣府の方針に対して私たちと同様の危惧を強く抱いていることを示している。いま、私たちは改めて、このたびの日本学術会議に対する内閣府の方針に強い危惧を抱くことを表明するものである。

かつて、超国家主義や軍国主義によって学問・研究の自由やその学問としての存立を脅かされた痛恨の過去を有する歴史学の立場からは、内閣府の方針において、会員選考のルールや過程への第三者の関与(「選考諮問委員会」の新設)が提起されていること、ならびに、「政府等と問題意識や時間軸等を共有」することが執拗に求められていることを特に問題としたい。いずれもアカデミーとしての日本学術会議の独立性・自律性を否定するばかりでなく、学術そのものの独自の存在意義を否認し、政府や経済界の論理に従属させようとする政府の狙いを露骨に示したものに他ならない。私たちは、学術が政府や経済界との一定の連携・協力を行うことを否定する訳ではないが、その連携・協力は、学問の自由の堅持と相互に尊重しあう態度が前提になければ意味をなさないものである。このたびの内閣府の方針は、そうした望ましい連携・協力の在り方を自ら破壊しようとする不遜極まりないものである。

そもそも民主的国家においては、法に基づかない誤った政策による政府の暴走を抑制・監視し、民主主義を担保するさまざまな制度が導入されてきた。先に第二次安倍政権のもとで、森友・加計問題の追及を回避するために検事総長の任期特例を設ける検察庁法改正が企図されたが、世論の強い批判をうけて頓挫したことも、国民の多くがそのような制度の役割と重要性を認めていることを示したものである。学術会議は、科学の発展をめざし、行政・産業・国民生活に科学の成果を反映させることを目的として設立された組織であるが、「日本学術会議法」は、学術会議が科学に関する重要事項の審議や、政府の諮問に対する答申、あるいは政府への勧告等の職務を、「独立」して行うことを定めている。すなわち、学術会議も、国の機関であると同時に、その職務を、あくまで科学的・学問的知見に基き、「独立」して行うことで、その役割を果たすことができるのである。このような制度の意義は、権力の暴走への歯止めを失ったかつての日本がたどった道を想起すれば、明白であろう。

歴史に学ぶ限り、もし日本学術会議がその自律性を喪失させられて政府や経済界の論理に従属させられる事態が現実化すれば、予想される未来は決して明るいものではない。改めて、日本歴史学協会は、学術会議会員任命拒否以来の政府の姿勢と拙速な日本学術会議「改革」への深刻な懸念を表明し、強く再考を求めるものである。


二〇二三年三月十一日


日本歴史学協会         

秋田近代史研究会        

大阪大学西洋史学会       

大阪歴史科学協議会       

高大連携歴史教育研究会     

駒沢史学会           

ジェンダー史学会理事会     

信濃史学会           

首都圏形成史研究会       

上智大学史学会         

専修大学歴史学会        

総合女性史学会         

千葉歴史学会          

地方史研究協議会        

中央史学会           

中国四国歴史学地理学協会    

東海大学史学会         

東京歴史科学研究会       

東北史学会           

東洋史研究会          

内陸アジア史学会        

奈良歴史研究会         

日本アメリカ史学会運営委員会  

日本史研究会          

日本史攷究会理事会・委員会   

日本風俗史学会         

白山史学会           

広島史学研究会         

福島大学史学会常任委員会    

文化史学会           

宮城歴史科学研究会       

歴史科学協議会理事会・全国委員会

歴史学研究会          

歴史学会            

(賛同団体、2023年3月31日現在)


ロシアのウクライナ侵攻に強く抗議する

 2022224日、ロシアのプーチン政権はウクライナへの侵略戦争を開始した。武力による主権国家への侵略は、国際的平和安全の維持を規定した国連憲章違反であり、ウクライナの人々の生命や安全を侵害するものであって、強く抗議する。

 ロシア・プーチン大統領は、対外的には軍事拠点のみの攻撃と宣伝し、国内に情報統制を行いながら、実際は民間人の住居、学校や病院、歴史的遺跡などにも攻撃を行い、多くの死傷者を出している。さらに、プーチン大統領は核兵器使用さえ言及している。侵略開始から二週間ほどで国外へ避難するウクライナの人々はすでに200万人以上にものぼる。38日の国際女性デーに合わせて女性と安全保障をテーマに開かれた国連安全保障理事会の会合では、女性に対する性暴力の危険性の高まりや、性と妊娠・出産に関する権利が損なわれることに対して警鐘が鳴らされた。

 女性史・ジェンダー史を研究し、歴史教育に携わる総合女性史学会は、歴史上のさまざまな戦争において、しばしば女性が性暴力や人身売買、人質の対象とされることを明らかにしてきた。一方で、人々がそのような理不尽に対して座視せず声をあげ続けることで、社会を変えてきたことも歴史的事実である。情報統制や弾圧のもとでも戦争反対の声をあげ続けるロシア国民や世界中の人々との連帯を強く表明する。

 ロシア軍の侵攻の即時停止と、対話と交渉および調停による平和的な解決を強く望むものである。

 

2022310
総合女性史学会役員会 

歴史学関係学会ハラスメント防止宣言

 一般に、ハラスメントは、性別、社会的身分、人種、民族、国籍、信条、年齢、職業、学歴・職歴、身体的特徴など個人の人格にかかわる言動によって、あるいは力関係や優越的地位を利用して個人に不利益・不快感を与え、その尊厳を損なうすべての行為を指します。セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、レイシャル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、モラル・ハラスメント、アルコール・ハラスメントなど様々なハラスメントはようやく社会的に認知されるようになっています。また、近年ではソーシャルメディアの発達とともに、インターネット上での誹謗中傷も大きな社会問題になっています。ハラスメントを防止することは、個人の人格と人権を尊重することであり、その重要性は学問の世界でも例外ではありません。

 すでに数多くの大学・研究機関では、ハラスメントを防止するためのガイドラインが作成され、改善のための取り組みと、また残念ながらなお数多く発生する様々な事件への対処が行われています。しかし、学問・研究活動は大学・研究機関だけではなく、それらの組織を超えて連携・協同する学会によっても成り立っています。歴史学関係の学会も、大会・例会・シンポジウム・学会誌編集発行などの様々な組織運営活動を通じて、歴史研究者がその研究成果を発表し、互いに議論する場を提供しています。その活動は、大学・研究機関に所属しない歴史研究者によっても、あるいは教育・出版関係など広く社会一般に及ぶ様々な立場の関係者によっても担われています。ハラスメントは被害者の自由な意見表明や研究活動・組織運営活動を萎縮させます。それは民主的で自由・平等を基本とする学会活動の健全な発展を阻害するものです。

 歴史学関係学会は学問の発展のために、ハラスメント防止の取り組みに積極的に協力することが求められるでしょう。本ハラスメント防止宣言に賛同する歴史学関係学会は、歴史学の発展と歴史学関係学会に携わる関係者の人格と人権の尊重のために、各学会会員にハラスメントの防止をよびかけ、啓発活動に取り組み、ハラスメントのない自由闊達で平等な歴史研究活動の実現に努めることをここに宣言します。


2020年7月15日制定

2020年10月16日改定


日本歴史学協会       

岩手史学会         

大阪歴史学会        

九州西洋史学会       

京都民科歴史部会      

芸備地方史研究会      

ジェンダー史学会      

上智大学史学会       

駿台史学会         

西洋近現代史研究会     

総合女性史学会       

地方史研究協議会      

朝鮮史研究会幹事会     

東欧史研究会        

東京歴史科学研究会     

同時代史学会        

奈良歴史研究会       

日本史研究会        

日本風俗史学会       

パブリックヒストリー研究会 

東アジア近代史学会     

別府大学史学研究会     

法政大学史学会       

立教大学史学会       

歴史学研究会        

歴史学会          

(賛同団体、2020年11月19日現在)

2020 年度総合女性史学会総会決議

 東京五輪・パラリンピック組織委員会森喜朗前会長による「女性理事がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「女性は競争意識が強い。誰か一人が手をあげて言うと、自分もいわないといけないと思うのでしょうね。それでみんなが発言される」等々の女性蔑視・女性差別発言(2021 年2 月3 日)に対し、総合女性史学会は強く抗議する。謝罪での幕引きや密室の禅譲等、従来の常套手段は通用せず、橋本聖子新会長への交替にいたるプロセスは、森発言が男女平等や民主主義の根幹を侵害する行為と国内外からの批判を受けたためであり、ジェンダー・ギャップ指数が153 カ国中121 位という日本の男女格差の実態を日本国内のみならず世界中に知らしめる結果となった。

 しかし、この「騒動」は、日本の男女平等への道筋にとって大きな転換点となったと思われる。「森会長の処遇の検討を求める有志」によるオンライン署名活動は、数日で13万を突破し、男性を中心としたグループからも「女性蔑視発言をした森喜朗氏の辞任と、男性社会の見直しを求めます」との署名活動も展開されていた。組織委員会も女性の理事を増やす事を決定している。この機会をチャンスに、政府・自治体・社会・教育等々、あらゆる場で、男女平等、ジェンダーギャップの解消にむけて取り組むことを要望する。

 菅首相は、日本学術会議第25期に学術会議が推薦した会員候補105 名のうち、日本近代史を専攻する歴史学者1 名を含む6 名の候補の任命を拒否した。総合女性史学会は、日本歴史学協会が中心になり2020 年10 月18 日に提出した「菅首相による日本学術会議会員の任命拒否に強く抗議する」声明に賛同し、「思想と良心の自由、学問の自由および言論の自由」がないがしろにされ侵害されている現状を深く憂い、任命拒否された6 名の研究者をただちに会員に任命するよう強く求めた。また、11 月6 日には、人文・社会科学分野の310 学協会とともに、「日本学術会議第25 期推薦会員任命拒否に関する人文・社会科学系学協会共同声明」を出し、「1.日本学術会議が推薦した会員候補者が任命されない理由を説明すること。2.日本学術会議が推薦した会員候補者のうち、任命されていない方を任命すること」を要求した。ところが、菅首相は、6 名の任命拒否理由を「総合的、俯瞰的」観点という観念的で空疎な発言を繰り返すのみで、正当な理由を挙げることもなく、6 名の任命もされていない。ただちに要求を受け入れるように強く要請する。

 2020 年12 月に閣議決定された第5 次男女共同参画基本計画では、選択的夫婦別姓制度について菅首相が前向きな姿勢を示していたのにもかかわらず、自民党内の反対派により「選択的夫婦別姓」という文言も削除され、内容的にも大きく後退した。夫婦同姓の強制は明治民法で導入されたものであり、伝統でも文化でもないことは、歴史学、とりわけ女性史研究が解明し定着したよく知られた通説で、以前にも(2017 年総会)強く要請している。また、自民党内でもすくなからぬ賛成意見が出されており、2020 年1 月の朝日新聞社の全国世論調査では、選択的夫婦別姓に賛成69 ㌫、反対24 ㌫であり、特に若い世代は賛成が多数を占めている。男女共同参画や女性の活躍推進に対する取り組みの象徴とも言える選択的夫婦別姓制度を早急に制定し、多様性や個人を尊重する社会の実現を要望する。

 以上を本会は強く要望し、決議する。


2021 年3 月21 日 総合女性史学会2020 年度総会

「選択的夫婦別姓(氏)」の実現をめざして

 2015年12月16日、最高裁判所大法廷において、長年の懸案であった「夫婦別姓(氏)訴訟」の判決があり、現行民法750条(夫婦同氏)を合憲とする判決が下され、原告側の敗訴が確定した。

 15人の裁判官(男性12人・女性3人)のうち、違憲と判断したのは女性裁判官全員を含む5人であった。夫婦同姓支持は、「家族の呼称を一つにする合理性がある」、「女性の不利益は通称使用で緩和できる」という理由であり、最高裁は司法としての人権問題への判断を避け、立法府の責務として国会に法整備を転嫁した。

 今回の訴訟は、憲法13条(個人の尊厳)・14条(法の下の平等)・24条(男女の本質的平等)の違反、また、1976年に国連で採択され、85年に日本も批准した女性差別撤廃条約(16条第1項:婚姻、家族関係に関わる全ての事項について女性に対する差別の撤廃。完全な合意のみによる婚姻の権利。夫および妻の同一の個人的権利〔姓および職業を選択する権利〕)にも抵触するという内容である。夫婦同姓の法的義務は、現在、世界でも日本ただ一国が施行しており、この件に関し、日本政府は国連女性差別撤廃委員会から再三の改正勧告を受けている。「家族の呼称を一つにする合理性」は、海外諸国の事例を含めて立証されなければならない。

 夫婦同姓は日本の伝統的慣習であるという見解に対し、歴史学研究の立場から述べれば、婚姻後の夫婦同氏(姓)制度は、家制度を法制化した1898年の明治民法によってはじめて施行されたものである。古代・中世の時代は夫婦別姓であり、近世は夫婦別姓を基本に、姓とは別に苗字については夫婦別苗字・同苗字の混在期であり、制度化はされていなかった。歴史的経緯を辿れば、我が国においては夫婦別姓の時代が圧倒的に長期間であった。

 敗戦後の1947年の民法改正によって家制度は廃止されたが、「夫婦同氏」の条項は依然として残された。男性優位が浸透する社会で、婚姻後に夫の姓を選択する妻は、現在全体の96パーセントに及んでいる。これを原告側は間接差別としている。また、改姓による社会的不合理や自己のアイデンティティの不一致など心情的な被害を受ける女性も多く、個人や夫婦の望まぬ改姓は、国民全般への大きな足枷となっている。また同時に、「夫婦同氏」の強制は男女双方に圧力をかけて「法律婚」の妨げを助長している。

 「選択的夫婦別姓(氏)」は家族の多様性を許容し、個人の尊重の上に立つ制度である。個々の人格権は決して侵害されてはならない。現行の民法750条を早急に改正し、「選択的夫婦別姓(氏)」の実現を国会に強く要請するものである。

2017年3月 総合女性史学会

安全保障関連法制成立に抗議する!!

 多くの国民の反対の声を無視した安倍政権および自民・公明の政権与党・次世代の党ほか協力野党による、立憲主義・民主主義を踏みにじる強引な安全保障関連法案強行採決により、日本は限りなく戦争への道へと舵を切りました。

 中国・朝鮮半島・東アジア地域への植民地侵略へ邁進し、アジア太平洋戦争へ至った時代の社会状況に、今の日本は酷似していると当時を知る人は語り、歴史学からも指摘されています。国内では戦闘員・非戦闘員を含め310万人以上、アジア・太平洋地域では2000万人を超える戦死者、そして3400万人以上の負傷者という途方もない犠牲を払った先の大戦への痛烈な反省の上に、二度と戦争を繰り返さないという国民の総意に支持され、日本国憲法は生まれました。世界に冠たる、誇るべき平和憲法です。

 今回の法制の集団的自衛権については、憲法学者の大多数や元最高裁判事らによる「違憲」の批判にも関わらず、安倍政権その他は「日米同盟」という勝手な同盟をでっち上げ、集団的自衛権の行使によりアメリカ軍と連携した戦闘態勢のとれる国家を作ろうとしています。主権在民の平和憲法を無視した安倍政権の独裁政治により、政治が国民の手から離され暴走しています。今こそ、国民的規模で反対運動を起こさなければなりません。

 女性史研究に携わる者は、こうした日本の現実に真摯に向き合い、その中で自己の研究を深化させ、教育に反映させる必要があります。私たち総合女性史学会は、明確に違憲である安全保障関連法制に断固反対し、今後廃止に向けたさまざまな運動に協力することを表明いたします。

2015年9月 総合女性史学会