投稿日: Sep 29, 2015 1:31:9 AM
はじめに
菌学若手の会は2013年,珍奇な菌類(=珍菌)の日本一を決し,これを表彰する「日本珍菌賞」を創設しました.最初の試みとなる第一回珍菌賞の選考を,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のTwitterを利用して行い,100アカウントから300以上のツイートが寄せられ,大きな反響を得ました.昨年も前回に引き続き,2回目となる珍菌賞の選考を,日本菌学会第58回大会の開催にあわせて行い,二年目の心配を余所に大いに盛り上がりました.
そして三回目となる日本珍菌賞の選考を,日本菌学会第59回大会(2015年5月15日から17日)の開催に合わせて,その1ヶ月前の4月10日から5月8日の期間に行いました.今回は新たに公式ロゴが登場し,少しパワーアップしての開催です.日本珍菌賞の過去2回の選考では "トビムシの精子を食らう謎菌" や "スイーツきのこ" といった個性派菌が広く反響を呼びました. 今回は一体どんな菌類が「珍」な頂点に輝いたのでしょうか.
決定!第三回珍菌賞!
選考期間中は100以上の珍菌関連ツイートがあり,最終的に45種の珍菌賞候補がエントリーされました.珍菌ツイートの中には,形が奇抜なものやまだ名前のない珍菌などもありましたが,遊び心あふれる企画とはいえ学術的な土台あっての珍菌賞ですので, 選考対象とする菌は過去に学術論文や学会で発表されたものに限定しました.それでは, 上位3種の珍菌たちを紹介したいと思います.
第1位 "花に擬態する菌"「Monilinia vaccinii-corymbosi(和名なし)」
第2位 "アリをゾンビ化する菌"「Ophiocordyceps spp.(和名なし)」
第3位 "なんとも複雑な生活環"「Gymnosporangium asiaticum(ナシの赤星病菌・ビャクシンさび病菌)」
栄えある第三回日本珍菌賞は,最も反響の大きかった Monilinia vaccinii-corymbosiに決定しました.日本珍菌賞を主宰する菌学若手の会では, 選考期間内に最多票数を獲得した点, 擬態を駆使する生態が特徴的である点, そして本菌Monilinia vaccinii-corymbosiの不思議な生態は菌類学者と昆虫学者の夫婦によって解明された点を高く評価し, 今回の授賞対象として相応しいと判断しました.
今回も日本菌学会第59回大会(2015年5月16日, 那覇市)の懇親会の場をお借りして授賞式が行われました. 本来であれば,第三回日本珍菌賞に輝いたM. vaccinii-corymbosiに代わり, 本菌の記載者であるBatra夫妻に賞状が贈られるところですが,残念ながら夫のBatra LR氏はすでに故人でした. また,その妻であるBatra SWT氏の消息もつかむことが出来ませんでした.今回の授賞式では筆頭著者であるBatra氏の表彰こそ叶いませんでしたが, こうしてM. vaccinii-corymbosiが再び世間から注目を集めたことは,菌類学者であるBatra氏も喜んでくれるはずです. また今回も副賞として,元祖珍菌研究者,南方熊楠のデスマスク3Dクリスタルが用意されました.賞状(もちろん英語版!)と副賞の授与は,後日Batra氏の消息がつかめ次第の贈呈ということになりました(現在も消息を探しています.お心当たりがございましたらご一報ください!).
なお,今回も副賞の南方熊楠デスマスク3Dクリスタルは,昨年の菌学会大会会期中に設置した「募菌箱」に集まりました募金と,今年の会期中に集まった募金で購入させていただきました.多くの皆様のご援助に感謝申し上げます.
最後に
第三回珍菌賞を開催するにあたり,twitterで多くの方々にご協力をいただきました.参加して下さった方々にお礼申し上げます.エントリーされている菌類はどれも,見た目も生き方も実に多岐にわたっており,多様な菌類の世界が垣間みられました. 日常ではなかなか目にしないものも多いですが,中には少し意識していると目につくようなものもあります. 日本珍菌賞が,日常の中に潜む菌類たちの珍奇な一面に興味を持つきっかけとなれれば,主催者一同大変うれしく思います.
次回の日本珍菌賞の選考は,2016年9月に行われる日本菌学会第60回大会@京都の開催にあわせ,2016年8月頃を予定しております.みなさまの多くのご参加をお待ちしています.
(関連記事)
珍菌賞がハフィントンポスト紙のブログ記事に取り上げられました.
twitter上の珍菌および珍菌賞関連のつぶやきについては,togetterにまとめられています(twitterアカウントをお持ちでない方も閲覧できます).