投稿日: Oct 04, 2016 11:37:50 PM
2016年菌学若手の小集会
日本菌学会第60回大会の開催に合わせ、菌学を専門に研究する若手研究者の交流を目的として、菌学若手の小集会を実施しました。集会には13名の学部生・大学院生が参加し、4名が研究紹介を行いました。昨年と同様に、幅広い分野からの研究が紹介されました。どの演題でも、質疑応答が時間枠に収まらないほど、議論は盛り上がりを見せました。集会後には恒例の懇親会も開催されました。
日時:9月16日 (金) 15:00-17:30
場所:京都大学農学部総合館 (W106)
発表者からのコメント
渡辺 舞 (神奈川県立生命の星・地球博物館)
動物の腸内に付着する菌類の一群として、水生昆虫幼虫の消化管内面に付着生活するハルペラ目菌が知られています。今回の集会では、神奈川県で採集したブユ幼虫を解剖し、その消化管内に付着していたハルペラ目菌の多様性について紹介しました。同一地点での継続的な調査により、短期間の調査では得られなかった種も発見されました。本集会では様々なご意見をいただきましたので、今後の研究に反映させてゆきたいと思っております。
阿部 寛史 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
樹木の実生定着・成長には菌根菌が必要不可欠です。私は、菌根菌が絶滅危惧種の保全に活かせないかというアプローチで研究を行っています。この集会では、絶滅危惧種トガサワラに共生する菌根菌が宿主の生息地分断化の影響を受けて、遺伝的に分化することについて発表させていただきました。今回の結果で菌根菌の保全も、宿主樹木の保全に重要であることを明らかにできたと思います。今回の小集会でいただきました貴重な意見を参考に、今後研究をまとめていきたいと思います。この度は貴重な機会をいただきまして本当にありがとうございました。
升本 宙 (筑波大学菅平高原実験センター)
私は地衣類を研究対象としています。といっても地衣類そのものではなく、地衣類に
内生する第三者の菌類「地衣内生菌」の生態を研究しています。今回の集会では「地衣類からどのような分類群の菌類が地衣内生菌として頻繁に分離されるのか」、そして「分離時の表面殺菌に用いる薬剤の種類が分離される菌類相に大きな影響を与える」ことについて紹介しました。発表後の質疑応答では、分離培養時の条件検討について有益な助言を頂きました。今後は、地衣内生菌の生態的な核心に迫れるように精進していきたいと考えています。
橋本 陽 (弘前大学大学院農学生命科学部)
子のう菌類はその生活環の中に減数分裂をする有性世代とクローンをつくる無性世代の2つの顔をもちます。自然界で両方が同時に見つかることはまれで、むしろどちらか一方の世代しか見つからないことの方が多いです。それゆえ子嚢菌類は、歴史的に有性世代と無性世代のそれぞれで異なる分類体系が構築されてきました。今回の集会では、私が研究している分類群を事例に、科レベルの特徴付けにおいて有性世代+無性世代の両方-つまり全生活環-の形質を加味することの重要さについて発表しました。今後は、子のう菌門の別の分類群を事例に全生活環による分類体系構築の事例を積み重ねていこうと考えています。一般的に子のう菌類の無性世代の分類は「取っつきにくい」と言われますが、今回の研究紹介を通してその取っつきにくさから垣間見える面白さを感じていただければうれしいです。