投稿日: Jun 09, 2015 7:42:5 AM
2015年菌学若手の研究集会
日本菌学会第59回大会の開催に合わせ、菌学を専門に研究する若手研究者の交流を目的として、菌学若手の小集会を実施しました。集会には16名の学部生・大学院生が参加し、6名が研究紹介を行いました。発表内容は、分類学から生態学、遺伝学など多岐にわたりました。分野の共通項が少なかったにもかかわらず、個々の発表後には熱く密な議論が展開されました。集会後には懇親会(ちゅらちゅら那覇国際通り店)も開催されました。
日時:5/15 15:30~17:30
場所:てんぶす那覇3F IT研修室
発表者からのコメント
飯塚 朋代(総合研究大学院大学 生命科学研究科)
ハラタケ綱の菌糸は、隔壁孔キャップと呼ばれる”ふた”を用いて細胞質の移動を調節しています。私は、この隔壁孔キャップの形態形質がどのように進化してきたのかを知るために研究を行っています。今回の集会では、比較ゲノム解析による「形態の変化に関与する候補遺伝子の推定」と、「得られた候補遺伝子の妥当性」について紹介しました。まだまだ始まったばかりの研究ですが、今後は生きた菌株による実験と併せてこの進化の謎を解明してゆきたいと考えています。
小泉敬彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
たった一種の樹木にも、実に多様な菌根菌が地下では共生しています。私は、高山植生の代表「ハイマツ」に共生する菌根菌を対象に、生態学的アプローチで研究を行っています。この集会では、ハイマツに共生する菌根菌の多様性、実生更新に伴う菌根菌の群集構造パターンについて紹介しました。また、翌日の発表への導入も兼ねて、ショウロ属菌の生態的特徴や系統に関しても話題として取り上げました。今後は、スケールを広げてよりグローバルなテーマに発展させていきたいと考えています。
瀬戸健介(筑波大学大学院 生命環境科学研究科)
私は、ツボカビ類の分類学的研究を行っています。ツボカビとは、後方一本鞭毛を有す遊走子を生じることが特徴の真菌類の仲間です(つまり泳ぐカビ)。今回の集会では、私が今進めている藻類寄生性ツボカビに関する研究の成果について紹介しました。培養の容易な腐生性ツボカビと比べ、寄生性ツボカビは研究が非常に遅れています。現時点で複数の藻類寄生性ツボカビの培養に成功しており、これらがツボカビ門内の新規系統に属すことを明らかにしました。今後、各培養株の観察・解析を進め、新規分類群の記載を目指します。ただでさえマイナーなツボカビの中でもさらにマイナーな寄生性ツボカビの研究の話でしたが、少しでもツボカビのことを知ってもらえたようであれば幸いです。
内藤将志(名古屋大学 生命農学研究科)
菌類の中には発光性があるものがいくつも存在しますが、その生態学的意義は未だ明らかではありません。私はヤコウタケを用いて、その発光の意義について研究を行ってきました。その結果、発光にはいくつかの菌食性生物を誘引する作用があり、それらが子実体を摂食することで胞子分散に寄与し得るということを実験的に明らかにしました。しかし、発光の意義はこれだけとは限りません。例えば、発光という現象は菌糸でもよく起こっていますが、その意義は本研究結果から読み解くことはできません。今後は、本研究テーマからは少し離れますが、機会があれば再び取り組みたいと考えています。
山田宗樹(筑波大学大院 生命環境科学研究科)
この集会では、まず私が研究対象として扱っているシロキクラゲ目について、無性世代の「酵母」と有性世代の「菌糸」という二つの姿をもつ二形性菌類としての生活環と、二つの姿をもつために異なる手法によって研究されてきた歴史をご紹介しました。そしてその歴史に由来する問題を踏まえた上で、大会での発表内容であるSirotrema 属菌の分類や生態についても軽く触れさせていただきました。集会をきっかけに、分類や生態に関してよい議論ができたように感じており、今後の研究に活かしてゆきたいです。
集会での発表風景 集会後の懇親会