たいこめ創作法

岡田マスターの概論

まず、週刊文春1995年1月16日号に掲載された中から、岡田マスターが書いた作り方を紹介しておきます。

題材とするのは、私が昨年末、クリスマスカードに使った、以下のたいこめだ。

「サンタ徹夜できる。やりそないい夜か」

「駆るよ。いいな、橇。やる気でやってたんさ」

まず、クリスマスまわりのキーワードを探すことから始める。てっとり早そうなのが「サンタ」かな。これを逆に読むと、「たんさ」、すなわち「~してたんさ」というくだけた会話調の言い回しが浮かんでくる。そこで、「してたんさ」「みてたんさ」…お、「やってたんさ」だと、「サンタ徹夜」になるぞ! これが第一の発見。

次に返しの文にもクリスマスキーワードを入れたい。サンタといえば「橇」なので、これ何とかならないだろうか…。うんうん考えていると、橇や⇔やりそ(う)が出てきた。これで「サンタが徹夜でがんばる」話ができそうだぞ!これが第二の発見となったわけだ。

そこでプロトタイプたいこめができあがった。

「サンタ徹夜、やりそ」

「橇や。やってたんさ」

さて大切なのは、これをいかに最終形まで詰めてゆくか、つまりどうしたら最も自然に読める文章にふくらませるか、なのだ。ここへ来て、文章構成力というか、多少のセンスが問われることになる。

参考になっただろうか。キーワードさえ探せれば、そんなにむずかしいことではないのですよ。

1.キーワード選び

さて、「キーワードさえ探せれば」というところを細かくみてみましょう。「サンタ」の逆は「たんさ」、まずこれで辞書をひいて(ワープロで変換して)みましょう。「探査」がありますね。つづいて読んでいくと「端座」「ダンサー」など読み替え可能な言葉もでてきます。さらに「短才」「単細胞」「断罪」「探索」「短冊」「炭酸」などがでてきます。辞書になくても思いつく場合もあるでしょう。次に、作例のように前に何かをつけた言葉を捜します。「~たんさ」もあるし、「異端さ」「打たんさ」…のように五十音順につぶやいてみれば結構出てきます。また、辞書ソフトをもっていれば逆引きで「たん」と「だん」を引けば「会談さ」など、もっと長い単語も出てきます。ネット上辞書で検索語をいれて「後方一致」を選べばいいのです。ただし、「ん」には気をつけましょう。「簡単さ」などと言葉は多いのですが、名詞の後では「ん」でつなげないので。

では、どの組合せを選べばよいのでしょうか?ここは個性が出るところですが、私はそのままでは素直に通じないもの、落差が大きいものを優先し、それで話をつくったら面白いかどうか考えます。上の例では「ダンサー」は素直な部類で(踊るサンタの人形などはよく見かけます)、よいイメージのあるサンタに対し「単細胞」や「断罪」は落差が大きいものでしょう。

過去の会員の作品をみると「ダンサー」、「単細胞」そして「破綻さ」が使われています。

最後に練習問題です。

「カウボーイ(。)サンタ」 「単細胞

これで一応成立していますが、もっと肉付けしてみてください。「。」をいれても、に続けて別な単語にしても結構です。

2.材料の抜き出し

さて、マスターの話にあるようにキーワードは複数いれないとふくらみがありません。1つだけでぴりっとしたものができれば一番いいのですが、新しい言葉でなければ、過去に誰かが思いついている可能性が高いのです。でも、組合せなら新しいものができます。上の例ではクリスマス、トナカイ、鈴、ジングルベル…などと挙げていき、それぞれ逆にしていきます。前回の練習問題のように逆にした組合せが飛躍のあるものなら、そちらからも発想できます。カウボーイなら牛、馬、投げ縄、ガンマン、西部など。これらが材料です。抜き出して、メモしておきましょう。それとこれらをうまくくっつける言葉も必要で、私はツールと呼んでいます。単純には「え(へ)、お(を)、か、け、さ、し、せ、そ、た、て、と、な、に、ね、の、は、も、や、よ、わ」の助詞と(メモしておくと意外に役に立ちます)、「夜→~るよ」、「私→したわ」のような汎用性の高い組合せがあります。後のタイプはかなり多いので、整理できていません。が、他の人の作品を数多くみることで自然と覚えていけます。

3.材料の並べ方

キーワードとその逆にした言葉を、送りの文にいれるのか返しの文にいれるのかは大いに悩むところですが、一般にはインパクトの強い方を返しにした方がよいようです。「サンタ」と「~たんさ」ならあまりかわりませんが、「単細胞」なら返しにすべきです。逆に、プロトタイプができた段階で、送りと返しを入れ替えて読んでみて、印象が変わらないなら、構成を考え直した方がよいでしょう。また、そのまま読んで簡単に回文になっている場合もたいこめとしては注意が必要です。一部または全部を入れ替えて、それで説明がつくように考えた方がよいかもしれません。

回文が得意な方は回文の作り方としてよく紹介されている延伸法(中心となる回文の両側に継ぎ足していく方法)で長めに造り、真ん中を思い切ってはすしてみるというのもおすすめです。継ぎ足すことで苦し紛れに意外な展開になり、それが面白いということがあります。

回文作りになれていると、送りも返しも同じ視点になりやすいので、視点を意識的に変えてみるのもよいでしょう。サンタの話なら子供やトナカイの視点にしてみるのです。サンタが徹夜でがんばる、という話に現代の子供からみれば、というのを加えて作ってみました。

「ただ見慣れ、ファミコンね。もう、いつまでやってたんさ」 「サンタ、徹夜で待つ。言うも寝ん子見、あふれ涙だ」

4.中味の推敲

とりあえず作品ができても完成したと思わないでください。メモしておき、1晩以上寝かせます。どんな創作もそうでしょうが、出来上がったときはうれしくて冷静な判断ができません。あとで、意味が通じるか、面白い(なんらかの感動がある)か、単に回文になっていないか、などチェックしてみる必要があります。

マスターの話でいえば「プロトタイプたいこめができあがった」段階なのです。マスターは詰めとして「最も自然に読める文章にふくらませるか」を挙げていますが、私はそれに加え「面白い」ことをポイントにしています。

最近、某雑誌の「回文塾」で「角煮 たぶん豚肉か」というのが入選していました。どこかで見た気がしたのですが、よくみたら自分のメモにあり、たいこめ作品としてはボツだけど、なにかのタイトルにでも使おうとしてとっておいたものでした。角煮で回文を作ろうとしたらかなりの確率で思いつくように思うし、角煮はたいてい豚肉ですからね。その自然なところがいいのだというのでしょうが、「面白い」わけではないのです。

これをたいこめにするには関連するもう1つの要素を絡めます。たとえば次のように。

「肝心、ライスに豚肉欠くよ」 「よく角煮タブーにす。イラン人か」

5.ことば使いの推敲

次に技術的な見直しも必要です。たいこめでは読み替えを許していますが、やたら多いのは考えものです。作品の面白さを犠牲にする必要はありませんが、工夫すれば問題なく言い換えて、完全な対応ができることもあるのです。

それと、制作途中では必要だと思った言葉(の対)が、出来上がった時には必要がなくなり、冗長になっているだけ、ということもあります。せっかく作ったので愛着があり、しのびないのですが、いさぎよく削除しましょう。とっておいて別の機会に使えばいいのですから。

とはいえ、時事ネタの用語の場合はそうもいかなくて、「旬のたいこめ」コーナーで時々同じ題材が2つ以上続いているのは、1つ作るつもりが、キーワードを使い切れなくて、2つになってしまったものなのです。

さらに、ツール(2.材料の抜き出し参照)の選択も見直すべきです。「よい~」「~いよ」など、便利でよく使いますが、なんでも「よい~」にすると飽きられます。「赤い~」「~いかあ」、「浅い~」「~いさあ」など、題材にふさわしい具体性のある言葉のほうが説得力があります。

他に「たいこめの特徴」も参考になると思いますので見ておいて下さい。

05/10/9更新


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