鼻・副鼻腔疾患

① お子さんの副鼻腔炎のおはなし

鼻は鼻腔とそれを取り巻く空洞である副鼻腔からなり、鼻腔と副鼻腔は自然孔という小孔で交通しています。

一般に子供の副鼻腔炎は副鼻腔があまり発達していないので成人より治りやすく、治りにくい場合は適切な治療が行われていなかったり、または鼻汁中に抗菌薬が効かないような菌の存在があったり、鼻茸やアデノイド肥大があったり、鼻の粘膜が高度に腫れていたり、鼻中隔が曲がっていたりする場合があります。

副鼻腔炎の治療の基本は鼻の通りをよくして副鼻腔に溜まった汚い鼻汁を自然孔から排出させることです。さらに鼻の通りを妨げる鼻茸や、アデノイド肥大は手術する必要があり、鼻アレルギーや喘息があるお子さんは鼻の粘膜が過敏で腫れやすくすぐに鼻閉が起こるので抗アレルギー薬の投与を行う必要があります。

それに並行して鼻汁中の検出菌に対して有効な抗菌薬を1~2週間投与し、さらに粘膜の繊毛上皮機能を高める酵素剤、去痰剤の同時長期間投与を行います。最近ではマクロライド系抗菌薬を通常の半量という少ない量で1~3か月間長期投与することが非常に有効であることが知られています。

手術的治療は以上の保存的治療で改善が見られなかった場合に検討されますが、顔面骨の発育途上にあるお子さんの場合は年齢を考慮しながら慎重に行う必要があります。最近の副鼻腔手術は以前のように病的な副鼻腔粘膜をすべて取り除くというものではなく、内視鏡を使って副鼻腔の自然孔を開放し排泄をよくしてあげて自然回復を図る方法が主流となっており、比較的低年齢児でも可能とする意見もありますが、やはり13~15歳を目安にするほうが妥当と思います。

お子さんの副鼻腔炎は免疫機能が成人に近づく11~13歳ごろを境に約50%のお子さんが自然治癒する特徴があり、その年齢を目安に根気よく通院することをお勧めします。

中等度の鼻茸です。副鼻腔自然孔の入り口が塞がれており、治療の妨げになる場合があります。

② 最近の子供の蓄膿症(小児副鼻腔炎)について

蓄膿症といえばかぜの延長線上にあります。小児科や内科で早めに風邪の治療を開始することが多い現在では、蓄膿症自体も軽症で早めに治る方が多くなってはいますが、その数は減っているとは言えず、くり返す例や治り難い例も多いと言われています。その原因として、特に子供においてはアレルギー性疾患の増加と関連があると言えます。

乳幼児の耳鼻科的処置は頻回になることが多いのでその受診回数も多く、一日の外来はまるで小児科ではないかと思われるほどです。その受診理由の多くは、長引いた鼻水や鼻づまりで、事前に小児科や内科で風邪の治療を受けています。年々、鼻の症状が長引く例が低年齢化し(保育園の影響もあるのか)、中耳炎の合併も多く見られます。年長児では鼻づまりで集中力に欠けたり、咳が長引いたりすること(鼻水が表には出ず、喉に流れて反射的に痰がらみの咳をする)で蓄膿症が見つかります。

蓄膿症はアレルギー疾患も影響していると言われています。実際、当院で小児科や内科で治療を受けているが2週間以上鼻水が長引いている小児100人を調べたところ、69人にアレルギー性鼻炎がありました。鼻炎という素質を持った子供が鼻水を長引かせ、蓄膿症にも移行しやすいと言えます。しかも小児科・内科での治療で抗生剤を使用しているにも関わらず改善しないということは、抗生剤の効きにくい耐性菌の存在も関与していると言えます。

子供の治療は内服治療、鼻の洗浄・吸引、ネブライザー療法が主体となります。内服では抗生剤の服用も必要ですが、耐性菌が増加している昨今、その種類にも注意が必要です。鼻水が治らないからとあちこちの小児科を渡り歩いてしまうと結局同じ種類の抗生剤を長く飲んでしまい、耐性菌を作ってしまうことになります。どんなお薬をどれくらい内服していたか問診で伝えることが大切です。またお薬だけに頼るのではなく、鼻水を吸引する、かませる、鼻を洗浄することも効果的です。鼻水が粘っこくて膿性であれば重層水を用いたり、水性であれば生理食塩水で洗浄すると症状が改善します。それでもなかなか改善しない場合にはお薬を少量で長期に服用する治療があります。クラリスロマイシンと言うお薬で、抗生剤としてだけでなく、鼻の粘膜の免疫機能を亢進させたり、炎症による粘液の排泄機能を高めたりします。これが蓄膿症の治療の中で使用される大きな理由でもあります。量を減らして処方するため長期に服用しても耐性菌をつくり難いと言われています。

子供の鼻水は日常的によく見られる症状ですが、今、耐性菌の存在やアレルギー体質の増加に伴って治りにくい例も増えています。気をつけなければならないのは、ペニシリン系やセフェム系抗生剤の使用を最小限にすること、そして鼻の洗浄や吸引、クラリスロマイシンや抗アレルギー剤を上手に使っていくことと言えるでしょう。また2歳以下の子供では、鼻水が2週間以上続くと中耳炎を合併する可能性があるので耳鼻科を受診する必要があります。また鼻水が3ヶ月以上も続く子供の場合、鼻炎やその延長にある蓄膿症の治療について耳鼻科できちんと相談することが大切です。