1. 特発性鼻出血・鼻腔粘膜焼灼術

①原因:

鼻出血は、小児の場合はアレルギー性鼻炎が関係していることが多いようです。 粘膜が充血して腫れている状態で、水様性鼻漏にさらされ、荒れて血管が切れて出血します。 水様性鼻漏があると、血液が固まりにくく、止血しにくくなり、また、一度、止血しても血痂が水様性鼻漏で溶かされるため、繰り返し出血します。出血部位はいわゆるキーゼルバッハ部位がほとんどです。大人の場合は動脈硬化が関係していると言われ、動脈硬化で血管壁がもろくなっているために起こるのではないかと考えられます。その場合の出血部位は一定しておらず、鼻腔深部からの出血もしばしばあり、その際の処置は困難を極める場合があります。

②治療:

○キーゼルバッハ部位(鼻中隔前下方)からの出血の場合

・毛細血管から滲むような出血の場合は、薬液腐食で容易に止血できます。

・比較的太い血管が切れて出血している場合は、鼻腔粘膜焼灼術を行います。助手に鼻鏡で鼻孔を開いてもらい、右手に電極端子を持ち、左手で吸引管を持ち、血液を吸引しながら、出血部位を確認して、ピンポイントで電気焼灼します。 焼きすぎると太い血管が露出してさらに止血しにくくなることがあるので注意します。 2~3回焼灼しても、滲むような出血が続くことがありますが、あまり深追いせずに、薬液腐食するのがよいと思います。

・小児で電気凝固ができない場合は、薬液腐食したあと、テラマイ軟膏ガーゼで1日くらい圧迫止血する場合があります。

○鼻腔深部からの出血

・鼻腔後方からの出血は、その多くが中下鼻甲介周囲の外側壁であると記載されています。

・鼻腔内の血液をよく吸引した後、ファイバースコープを入れ、おおよその出血部位を探ります。 血液が溜まっている部位があれば、そのあたりからの出血と考えます。 電気凝固できればよいのですが、通常は困難ですので、ガーゼタンポンで圧迫止血することがあります。 短冊状に折ったテラマイ軟膏ガーゼを出血部位と思われる部位に重ねていきます。 止血できたら4、5日詰めたままにしておき、血管が固まったと思われるころ、静かに抜去します。 止血できない時はベロックタンポン法という方法がありますが、かなり苦痛を伴います。もし、ベロックタンポンが必要な場合は、入院が必要なので病院に紹介します。

○意識障害と血管確保

処置中に迷走神経反射を起こして血圧低下、徐脈を起こすことがあります。軽度の場合は、臥位にして呼びかけを続けると回復してくるが、時に血圧測定不可となり、痙攣を起こすことがあります。処置としては

・血管確保

・補液は乳酸加リンゲル液あるい生理食塩水1~2リットルを急速投与する。投与量の1/3が血管内に残ると考えられるので、出血量1に対してその3倍の輸液を入れないと喪失循環量は補えないという。維持輸液はカリウム濃度が高すぎるため、急速投与すると、副作用が出る。

・血圧が極端に下がっている場合は、ボスミン注1/2A(=0.5ml)を生理食塩水100mlに入れ、補液回路の側管から点滴し、血圧の状態をみながら、調整しています。

○高血圧症で鼻出血は起こるか:

鼻出血は血管が破れることによって起こるわけで、血圧が高くても血管が正常であれば鼻出血は起こりません。ただし、血圧が高いと止血しにくいのは事実です。鼻出血が止まらないと、緊張して一時的に血圧は上がるものです。降圧剤の持続的な処方の必要性の有無は平常時の血圧をみて始めたほうがよいと思います。

市村恵一氏によると「高血圧症患者のかなりの例で動脈硬化病変がみられるため、易傷害性は高まっているものと推定される。・・・こういった症例では中鼻甲介後端付近の蝶口蓋動脈からの出血が多いといわれるが、中には部位の同定に苦しむ例も少なくない。」(専門医通信 第98号)

○抗凝固療法(ワーファリンなど)中の出血

抗凝固療法中の人が皆、鼻出血を起こすわけではないので、鼻腔粘膜に問題がある場合が多い。止血法は通常と同じで、電気凝固を行うか、ガーゼタンポンを行うが、ガーゼ抜去時に再出血することが多いので、長期のガーゼタンポンが必要です。

○血液検査について:

出血傾向を起こす白血病などを心配される患者さんがいますが、その場合は全身に出血傾向の症状が現れます。全身性、持続性の点状出血、紫斑、筋肉内出血、関節内出血の有無に注意します。通常の鼻出血で血液検査をすることがありますが、ほとんどの場合は正常の値でしたが、止血困難例や再発を繰り返す場合には、一度チェックしておくとよいでしょう。

・オスラー病について:

比較的まれな疾患で、キーゼルバッハ部位を中心に毛細血管拡張が起こり、出血を繰り返します。 市村氏によると、エストロゲン内服は有効率は高いが副作用がある。 レーザーなどによる焼灼は、効果は短いが操作が簡単なので、定期的に反復する。 鼻粘膜皮膚置換術を行うと出血頻度が激減する。(市村恵一:Nikkei Medical 2004年5月号63-64p)とあります。