鼓膜穿孔閉鎖術について

鼓膜穿孔閉鎖術について

慢性中耳炎や鼓膜の外傷など鼓膜に穴が開いてしまう病気があります。自然に閉じる場合もありますが、感染の状況により鼓膜に穴が開いたままになる場合があります。すると,ここから細菌が中耳へと侵入して耳漏が出やすくなったり、穿孔が大きくなると聞こえが悪くなったりします。

鼓膜の穴を閉じる方法として鼓室形成術や鼓膜形成術が以前から行われていたのですが、数週間の入院が必要であり、耳の周りの側頭骨を削ったり、鼓膜を張り直す材料として筋膜を採取したりと必要性は分かっていながらも、なかなか手術に踏み切れない患者さんも多くみられました。また、数年前から耳内接着法という鼓膜形成術が普及してきました。この方法では、少し皮膚を切開するだけで済み、入院期間も大幅に短縮あるいは日帰り手術も可能とあって、かなり敷居が低くなりました。

しかしながら手術であることには変わりなく、手術適応ありということで勧めても、皆が皆、希望するというものではありませんでした。

そして、耳内接着法よりもさらに簡便な方法として登場したのが、鼓膜穿孔閉鎖術です。これは鼓膜の再生を促すために、鼓膜穿孔の辺縁を機械的にあるいは化学的に少し傷を付けて、そこから再生鼓膜組織が伸びるように橋渡しをする材料を当てる方法です。外来で行え、患者さんへの負担が、肉体的にもコスト的にも非常に少ないというのが、何と言っても利点です。成功する確率は従来の方法に比べて低かったのですが、最近では改良が加えられて、成功する割合が増えてきました。

当院では、キチン膜を使用した鼓膜穿孔閉鎖術を行っています。

この治療法の実際を、簡単に説明します。

    1. 穿孔の辺縁をトリミングし、新鮮面を露出します。

    2. ベスキチンという、カニの甲羅から抽出した創傷被覆材を、穿孔の大きさよりも一回り大きめにカットして、穿孔を覆うように鼓膜の上に置きます。これが、組織が伸びるための足場となります。

    3. 1週間後に再診していただき、ベスキチンがずれていないか確認します。ずれていたら一旦外して、もう一度1・2を行います。

    4. これを繰り返すことにより、穿孔が縮小、やがては閉じます。

外傷や急性中耳炎後の新鮮例では高頻度で閉鎖しますが、鼓膜の再生力の弱い慢性例では1~2割程度の成功率です。しかし簡便かつ安全な方法なので、当院では希望する方には積極的に行っていきたいと思います。

最近、急性中耳炎後にかなり大きな穿孔が残った症例に対して鼓膜穿孔閉鎖術を行い見事に閉鎖した症例に出くわしましたのでここに紹介します。

    1. 初診時、急性化膿性中耳炎で自壊しておりました。

    1. 感染が落ち着いてもかなりの穿孔が残りました。

    1. 穿孔辺縁の硬化部をトリミング

    1. キチン膜を張りました。

    1. 一度脱落しかけたので貼り替えました。その時の穿孔の様子です。

    1. 同様に辺縁をトリミングして再度キチン膜を貼りました。

    1. 処置を開始して5回目、約2か月弱で完全閉鎖しました。

かなり大きな穿孔だったにもかかわらず閉鎖し得たのは、急性中耳炎直後だったという事と、患者年齢が23歳と若く基礎疾患が無かった事も関係しているとは思います。