7. 突発性難聴に対するステロイド点滴治療

突発性難聴について

<はじめに>

突然、片方の耳(ごくまれに両耳)が聞こえなくなる病気です。40~50才代をピークとした成人の方に多く、10才以下の子どもさんに発症することはまれです。ある種のウィルスによる内耳や聴神経の障害、内耳の血流障害、免疫異常などが原因として考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。かぜや疲労、ストレスが誘因になることもあるといわれています。

<症状>

特にきっかけもなく突然、片方(ごくまれに両方)の耳が聞こえにくくなります。何時何分と申告できることが多いくらい急な発症です。また、朝起きてみたら聞こえにくくなっていた、というケースも多いです。難聴の程度はさまざまで、非常に軽いものから全く聴こえないものまであります。多くの場合、耳鳴りを伴います。また、耳に膜が張ったような感じ(耳閉感)、周囲の音が不快に響く感じ(聴覚過敏症状)を覚える方も半数以上あり、むしろ難聴の自覚が乏しく、これらの難聴以外の症状を主訴として来院されることもあります。めまいや吐き気を伴う場合も一部にあります。

<検査・診断>

発症したときの状況でおおむね予想がたちますが、鼓膜の観察、鼓膜の振動をみる検査(ティンパノメトリー)、聴力検査などで診断します。耳のレントゲンやCT検査も随時行い、耳の奥や脳に異常がないか(特に聴神経腫瘍など)を念のため調べることもあります。

<治療>

早期治療が重要です。ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)、ビタミン剤、血流改善剤、代謝促進剤などを点滴と飲み薬で投与することが一般的です。特に発症後1週間以内の治療が非常に重要で、可能な限りこの間毎日点滴を受けられるのがよいのですが、どうしても不可能な場合、受診できない日の分は、点滴に代わる内服薬を飲んで頂いたりします。ただし、効果は点滴に比べ劣ります。

一方、軽症(難聴が軽い)の場合、数日間の内服薬のみで治ることもあります。治療の効果は多くは発症後約1カ月までは期待できますが、それ以上経過しますと、効果がほとんど期待できません。

治療で使う薬のうち、ステロイド剤が最も効果的とされています。ステロイド剤には多くの副作用があることはよくご存知のことと思いますが、医師の指示にしたがって治療を受けていればほとんどの副作用(体重増加、顔、手足のむくみ、食欲亢進、にきび、胃腸の不快感、不眠などはもっとも多い副作用)は一時的なものなので特に心配はいりません。しかし、糖尿病、胃潰瘍、緑内障、感染症治療中の方などは十分注意が必要です。これらの方や一部の内科的疾患をお持ちの方は、内科の医師と相談の上、治療法を決める(ステロイド剤を少な目に使用するなど)ことが一般的です。

治療成績は個人差が大きく、元通りに治る人は3人中1人、中程度改善にとどまる人が3人中1人、治療したにもかかわらず全く改善しない人が3人中1人と考えていただければよいと思います。要するにまちまちだということです。年齢や基礎疾患の有無などにも大きく作用されます。たとえば、老人よりも若者のほうが治りやすい。また、糖尿病患者においては神経障害を受けやすく改善程度が一般に低い傾向があります。

難聴や耳鳴り、音に対する過敏症状などが残る場合もあります。とくにめまいを伴う場合、高度の難聴の場合、治療の開始が1週間以上遅れた場合、糖尿病などの基礎疾患のある場合などには治りが悪いことが多いとされています。

聴力検査の結果、低音障害型(低い周波数の音が聴こえにくくなっているもの)のタイプのもの、難聴の程度の軽いものは治りやすいと言えますので(まったく治療しなくても自然に治る場合もあります)、状況に応じてステロイド剤の投与量を少な目にすることもあります。しかし、これらの中には突発性難聴と似て非なる疾患(低音障害型感音難聴、メニエール病など)が含まれていることがあります。これらは他のタイプの場合と異なり再発しやすいこともあり(やっかいなことに初診の段階では突発性難聴との鑑別が困難です)、必ずしも安心とは言い切れません。また、聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)といって脳からでてくる耳の神経に発生する腫瘍や一部の脳腫瘍の場合でも突発性難聴と同様の症状で受診して発見されることがあります。

<特殊な治療方法>

通常の治療方法で治りにくい場合、通常の治療と併用することがあります。主に以下のものがありますが、有効性を疑問視する向きもあり、また、副作用の問題もあって行われている施設は少なく、まだ広く普及しているとは言えません。

○高圧酸素療法(こうあつさんそりょうほう)

純酸素の気圧の高い個室に入り、一定時間安静にします。内耳に酸素を多く供給することにより治癒の促進を図るもので、入院を条件として行われることが多いです。効果が大きいとする報告も最近比較的多くみられますが、福井県内では施設が限られます。

○ステロイド大量療法

入院の上、外来で行うステロイドを数倍投与します。

○星状神経節ブロック(せいじょうしんけいせつぶろっく)

首の横から交感神経の神経節という膨らみに麻酔薬を注射する方法で、内耳の血流改善をねらった治療方法です。

○脱線維素療法(だつせんいそりょうほう)

入院の上、血液中の凝固因子(血を固める成分)の数値を下げて血液の循環をよくする点滴の治療です。

<日常生活上の注意点>

過労、睡眠不足、ストレスをさけて心身ともにリラックスすることが望ましいです。しかし、アルコール・タバコはよくありません。また、乗り物に長時間乗るのもなるべく避けましょう。食べ物はだいたい何でもOKですが、できれば高脂肪のもの、塩分も控えめにしましょう。上述のとおり発症直後の初期治療が治り具合を左右しますので、できるだけ毎日受診することが重要といえます。以上のことが守りにくい場合、入院治療としてもらわれるのも一つの選択でしょう。