要旨
世界90カ所から2819種のデータを収集し、植物の葉の力学的性質(丈夫さ)を地球規模で評価しました。主な知見は以下の通りです。
(1) 構造的強度(*1)は種間で500-800倍の違いがあることが分かりました。この変異の大きさは葉の厚さなどの変異(50倍程度)よりも一桁大きく、葉の性質の違いを特徴づける重要な形質の一つと言えます。
(2) 構造的強度が種によって大きく異なる原因は、従来考えられてきた葉の厚さや密度の違いよりも、むしろ葉を構成している繊維等の質的な違いが重要であることが分かりました。
(3) 「熱帯では温帯に比べ、植物を食べる生物が多いため、葉がより丈夫である」という仮説がありましたが(e.g. Coley & Aide)、検証した結果、そのような傾向はないことが分かりました。(参考:熱帯の葉は丈夫か?)
(4) 乾燥地では葉が厚くなる傾向があり、構造的強度もそれに伴って増加する傾向が見られました。
(5) 葉の構造的強度の変異の5-7割は、同じ環境で共存する植物種の間に見られました。つまり、同所的に共存する種の間にも様々な戦略があることを定量的に示しています。
(6) 暗い環境では葉が薄くなり、構造的強度も低下するにも関わらず、葉の寿命は長いというパラドックスが知られていますが、今回の解析から、暗い環境の葉は薄いわりに強く、それが長寿命に繋がっていることが分かりました。
*1 構造的強度とは、葉を破壊するのに要する力を破壊長さあたりで評価したもの。主に3つの測定法がある。詳しくは以下のイラストと説明を参照。
剪断試験:破壊エネルギー/剪断長さ
パンチ試験:最大荷重/パンチの周囲長
引っ張り試験:最大荷重/サンプルの幅
私が把握しているこの研究に関する報道情報
今回、大学の広報室を通じて、プレスリリースを流しました。研究者にもアウトリーチが求められるようになっており、こういう発表を通じて、一般の方にも少しでも研究のことを知ってもらえればと思っています。新聞記事等では直感的な面白さや分かりやすさが重要視されるため、必ずしも研究論文を要約しているわけではありません。しかしそれでも少しでも一般の方の興味を引けば、アウトリーチの価値はあるのだろうと思います。さらに詳しい内容を知りたい方は原著をご覧いただくか、小野田までお問い合わせください。
朝日新聞 2006年1月26日夕刊9面(九州版?)
日本経済新聞 2006年1月26日夕刊14面(全国版)
日刊工業新聞 2006年1月27日22面(全国版)
共同通信(電子版)2010.1.26
ここで取り上げていない報道情報がありましたら、ご連絡いただけると幸いです。
報道に使われているかもしれない写真のクレジットのご紹介。
田中陽介さん(九大・生態科学)ご提供
Lora Richardsさんご提供
畑田彩さん(京都外大)ご提供
ARC-NZ Reseach Network for Vegetation Functionからサポートを受けて、葉の力学ワーキンググループを主催し、世界各地から葉の強度データをもつ研究者を招聘し、データを集約し、統合解析を行いました。
ワーキンググループ参加者の皆さん
原著
Onoda Y, Westoby M, Adler P, Choong A, Clissold F, Cornelissen J, Diaz S, Dominy N, Elgart A, Enrico L, Fine P, Howard J, Jalili A, Kitajima K, Kurokawa H, McArthur C, Lucas P, Markesteijn L, Perez Harguindeguy N, Poorter L, Richards L, Santiago L, Sosinski Jr, E, Van Bael S, Warton D, Wright I, Wright SJ, Yamashita N. (2011) Global patterns of leaf mechanical properties. Ecology Letters (in press) pdf