私の専門は植物生理生態学・森林生態学・データサイエンスです。もともと自然好きで、多種多様な生物の巧妙な適応戦略、植物の物質生産の仕組みを明らかにする研究を行ってきました。また技術開発や新規開拓も好きなので、最近は、ドローンやLiDARなどリモートセンシング技術を活用した森林資源量評価や森林構造解析(いわゆるDX)にも力を入れています。
学生時代は、生理生態学を専門として、光合成や栄養塩利用などの視点から植物の環境応答(順化や適応)を研究をしました。その後、植物の形を理解するためには力学が重要だと考え、バイオメカニクスの研究を展開しました。次第にマクロな研究も扱うようになり、多様性評価や、多種共存、植生遷移、競争、進化生態ダイナミクス、マクロ生態学などの研究も行ってきました。生理生態学の強みを生かして、林木育種や森林の生産力の増強など応用的な研究もしています。また、ドローンやLiDARなどリモートセンシング技術を活用した森林資源量評価や森林構造解析、深層学習を活用した広域生物多様性解析などにも力を入れています。ミクロからマクロまで幅広くカバーし、また生化学や物理などの視点も踏まえ、生態学の面白さや意義を発見・伝えていきたいと思っています。守備範囲の広さが一つの売りだと思っておりますので、分野外の専門家とも関わり、基礎科学だけでなく、応用科学にも役立てていきたいと思っています。
学生指導では、個々の自主性を尊重しつつ、科学のフロンティアを意識し、科学を共に前進させるつもりで取り組んでいます。広い視野と深い洞察力、体系的なモノの見方を意識しています。共同研究や、学振DC, PDなどの受け入れも行っていますので、お気軽にご相談ください。
ドローンを活用した森林動態解析
ドローンが普及しはじめた2015年から、いろいろなドローンを使いつつ、森林の評価を行ってきました。最近はレーザー(LiDAR)付きのドローンによって、森林構造がcm単位で正確に評価できます。従来、樹高や樹冠面積の計測は、1日数十本が限界でしたが、今は1時間のデータ取得とデータ解析で、1日で数千本解析することもできます。また複数時期のデータを重ね合わせることにより、従来は定量できなかった森林の変化(ギャップの形成や樹冠の成長)も正確かつ広域で評価できます。このような技術革新を効果的に利用し、森林の資源量評価や森林の動態解明に繋げていきたいと考えています。
左図は2024年5月と2025年5月の東山の森林のオルソ画像と樹冠高モデル、そして樹冠高の差分を表示したものです。ちなみに、東山では2015年から毎年計測ているので、10年分のデータがあります。
両立しない光合成効率と葉寿命。なぜ?
私たちの身の回りには、道脇の雑草から、冬に葉を落とす落葉樹、通年葉をもつ常緑樹など、多種多様な植物がいます。一般的に、長生きの葉ほど厚く、光合成を行う組織もたくさんもっていますが、光合成速度は高くありません。つまり「長生きの葉ほど光合成の効率 が低い」といえます。これは世界共通のルールですが、その原因はよく分かっていません。Onoda et al. (2004)は、イタドリを用いて、長寿命の葉は細胞壁が多く、より多くの窒素(タンパク質量の指標)が光合成系ではなく細胞壁に分配されるため、光合成効率が下がることを世界で初めて示しました。この論文は、光合成における細胞壁の重要性を示した先駆的論文で、その後、複数の研究によって、細胞壁と光合成の間での窒素分配が調べられました。また細胞壁とCO2拡散の関係についても近年多くの研究が行われてきました。これらの知見をまとめ、光合成効率と葉寿命が両立しない原因の一般性を検証するために、Onoda et al. (2017)は、国際研究チームを組織し、世界各地で調査された多種多様な植物に関する研究結果を集約・精査しました。その結果、長い寿命に必要な丈夫な構造や細胞壁により、(1)多くの養分が細胞壁に分配され、光合成を行うのに必要な光合成タンパク質への分配割合が低下すること、(2) 葉緑体への二酸化炭素供給の効率が低下すること、という2つのメカニズムがどちらも重要であり、これらが光合成効率を低下させる原因であることが分かりました。
緯度と葉寿命の不思議な関係:落葉樹の葉の寿命は短くなり、常緑樹の葉の寿命は長くなる。
湿潤熱帯では常緑樹が多いですが、冷温帯では冬に葉を落とす落葉樹が多くなります。しかしさらに亜寒帯まで進むと、針葉樹などの常緑樹が優占するようになります。様々な植物の葉の寿命と気温の関係を見てみると、年平均気温の低下とともに、落葉樹の寿命は短くなり、常緑樹の寿命は長くなるという奇妙な現象が見られます(右図, Wright et al. 2005より)。年平均気温が低いということは、冬が長く、生育可能期間が短いことを意味します(熱帯高地をのぞく)。落葉樹は生育期間しか葉をもちませんから、年平均気温とともに葉の寿命が短くなるのは当然と言えます。一方で、常緑樹は気温低下とともになぜ葉寿命が長くなるのでしょうか?葉を作るコストと元を取る時間(葉寿命)の関係を考えると、生育期間がとても短いところでは、葉は1年では元を取ることができなくなります。よって、生育期間が短い高緯度に生育する常緑樹はより長い寿命をもつ必要があります。この関係を比較的簡単なモデル(炭素獲得を最大化させる最適葉寿命を計算するモデル)で評価すると、実際の世界規模の葉の寿命パターンとよく一致します。つまり葉の寿命の世界的なパターンは、それぞれの環境で葉の生産力を最大化させるようにうまく調節されることによって、生じていると考えられます。葉の寿命に合わせて、他の葉の形質(厚さや栄養塩濃度など)も連動しますので、葉の形質の世界規模の大局的なパターンは、炭素獲得に基づいたモデルである程度説明できると考えています。
植物の高さ競争:光をめぐる熾烈な競争と結末
植物が高さ成長をする一番の理由は、光をめぐる競争です。周りの植物よりも高ければ、光をより多く獲得でき、下層の個体の成長を抑圧できます。一方で、あまり高くなりすぎると、通水や力学、支持器官の比率増大などのコストが伴います。したがって、植物は無限に大きくなれるわけではなく、光獲得というベネフィットと、高さ成長に伴うコストのバランスによって、植物の高さが決まっていると考えられます。
1つの森林にも様々な種が共存しています。ある種は上層を占め、他の種は中層や低層を占めています。光をめぐる熾烈な競争をしている群集内で、これらの高さの異なる種が、どうやって共存できるのかは、よく分かっていません。特に、異なるサイズの個体がどのくらい光を獲得し、どのくらいの効率でバイオマス生産しているのかは、自然の森林では全く分かっていませんでした。Onoda et al. (2014)はLIDARによる葉の3D分布や光の3D分布測定などの技術を使うことにより、樹高とともに個体の光獲得効率は増加するが、光利用効率は低下し、両者の積である相対成長速度は樹高に依存しないことを明らかにしました。この研究は、光獲得効率と光利用効率のトレードオフが、光の一方向競争における多種共存メカニズムに重要であると示唆しています。この研究は、屋久島で行ったものですが、北海道やマレーシアの成熟林で行った研究でも同様の結果を得ています。
LIDARによる葉の分布推定(森林を横から見た図)
光の分布(森林を横から見た図)
樹冠の譲り合い。優しい響きとは裏腹に...
森林内から上を見上げると、個々の樹冠の間には隙間が見えます。英語ではCrown shynessと呼び、日本語では「樹冠の譲り合い」と呼びます。この優しい言葉の響きとは裏腹に、実際には、その隙間は風によって樹冠同士がぶつかりあう軍事境界線と言えます。樹冠の動きは、風速のみならず、樹高、幹太さ、材剛性などのサイズや種特性にも依存します。樹冠の衝突は、弱者の成長を抑制し、強者の樹冠面積増大に繋がると考えられ、よって樹冠の動きや衝突による損傷の程度を決定する特性は、進化的に自然選択を受けるのではないかと考えています。しかしこれまで樹冠の隙間を巡る種間競争を研究した例はありません。樹冠の隙間を巡る攻防というユニーク視点から、樹冠の動きと衝突による損傷程度を決める種の特性を明らかにし、種間競争の新しい一面を明らかにしています(Onoda & Bando 2021)。
樹冠の隙間の定量にはドローンによる空撮画像を使っています。ドローンが手軽に利用できるようになったことで、手の届かない地上20mでも計測できるようになり、森林研究にとって、非常にプラスです。樹冠マッピングや広域の調査なども格段にやりやすくなりました。
LiDARドローンを使った森林資源量や詳細地形の評価
日本各地の森林で、LiDARドローンを使った森林の詳細な三次元構造評価を行なっています。数十haの森林について、高密度点群データを取得し(>500点/m2)、5cm解像度の詳細な地形と樹冠高モデルの構築を、数時間でできるシステムを構築しています。2025年にはデータペーパーをリリースしました。Takeshige et al. (2025)
樹種多様性を考慮した森林デジタル化
大阪公立大植物園には吉良龍夫先生らが、1950~60年代に造成された日本を代表する12の樹林型があります。その現在の様子をドローンLiDARや地上LiDARを用いて、デジタル化を進めています。(小野田ら 2024 日本生態学会誌)
林木育種研究
美味しい野菜や作物が長年の育種によって生まれたように、林木にも育種が重要です。林木育種センターの共同で、スギや広葉樹(クリ)の育種研究を行なっています。林分として生産を高めるためにはどのような樹冠構造が良いのかなど、生理生態学の知見と、ドローンLiDARなどのリモセン技術を組み合わた新しい視点を提案します。
広葉樹の林木育種はあまり進んでいませんが(ゆえにフロンティアが大きい)、樹形の異なるクリの遺伝型を接木で増殖させ、クローン集団を異なる密度で栽培し、樹形と競争能力、生産力の関係を探りました。右写真は、密度試験のために、苗木を配置したところ(2022年3月)。接木苗は2023年2月に上賀茂試験地に移植し、より長期の応答を評価する予定です。
左写真:上賀茂試験地でのクリの苗木の植林の様子
右写真:クリ植林後1年目(2023年5月27日)。用材用のクリなので、残念ながら、大きな実はつきません...
樹冠構造と生産量評価
以前は評価が難しかった樹冠構造を、LiDARなどの先進技術を用いて、定量的な評価しています。樹冠構造は、林木や森林の生産量と密接に関係しており、この新しい測定によって、森林生産を増大する仕組みを提案できると期待されます。
日本の樹木多様性を機能的に評価する
森林動態を継続追跡する永久調査地は全国に多数ありますが、そのうちの何割かが環境省のモニタリング1000森林サイトとして登録されています。これらの森林サイトは全国で50以上あり、1 haに出現する直径5 cm以上の種の数は、寒冷地の数種から、九州南部では約70種と大きく異なります。また出現する種も、寒い地域では針葉樹が多いですが、冷温帯では落葉広葉樹、暖温帯では常緑広葉樹というように、温度勾配に沿って異なります。これらの種の多様性や共存のメカニズムを探るために、2010年度より科研の若手Bをいただき、種の形質データを収集しました。また環境省の研究総合推進費でも同様のプロジェクトが立ち上がり、東北大グループと共同で作業を進めました。時間はかかっていますが、解析を進めています。
屋久島の樹木多様性評価
屋久島では矢原徹一教授らが2004-2005年にかけて、島内238箇所でベルトトランゼクト(4x100m)のフロラ調査を行いました。維管束植物は総計782種が同定されており、これは島内で記録されている植物種数のおよそ半分にあたります。私は、この種リストをもとに、2010-2012年現地で樹木種を網羅的にサンプリングし、形質データベースを構築しました。このデータを使い、屋久島の植物多様性について、系統や機能を考慮した評価を行いました。
100x4mに出現する種数と標高の関係
屋久島被子植物の系統樹
形質データに基づくデンドログラム
薄いけど丈夫な葉 ー 洗練された葉の力学構造 ー
薄く平らな葉は、光を受けるのに都合の良い形です。面積あたりの重さで比較すると、葉は、1円玉の10〜数百倍ほど軽く作られています。そんなに薄いとすぐに壊れそうな気がしませんか?ところが、葉は、多少の風雨などにも耐え、長いものでは10年を超える寿命があります。つまり、葉は「薄くても丈夫」にできているのです。葉の構造を材料工学的に見ると、飛行機の翼など、軽くて曲がりにくい構造物で用いられているサンドイッチ構造によく似ています。我々が独自に開発した手法によって、葉の組織の硬さを評価したところ、葉は非常に巧妙なサンドイッチ構造をもち、それによって薄くて丈夫な構造を達成していることを世界で初めて証明しました(Onoda et al. 2015)。この研究は、新聞各紙やニュース番組にも取り上げていただきました。
ハワイフトモモ:生態進化のモデル植物
ハワイ島は、大陸から遠く離れた島で、島内には劇的な環境変異が存在します(年平均気温5-25度、年降水量300-7,000mm、土地年代0-数十万年)。そのため、移入できた限られた数の種が、大きな環境傾度に沿って適応放散しています。ハワイフトモモは沿岸から樹木限界まで分布するハワイ島随一の優占樹木で、その形質は生育場所によって非常に多様です。例えば、葉面積あたり葉重(専門家にはLMAと言ったほうがわかりやすいかも)の変異は、世界の常緑樹の95%分位点の幅に匹敵します。また同所集団内にも大きな多様性が見られます。ハワイフトモモの集団間及び集団内の多様性がどのように決まっているかは、適応、移入分散、棲み分けなどの生態学的プロセスによって、定量的に評価が可能です。我々は、ハワイ島内の環境を広くカバーするように調査地を設定し(現在52地点)、多くのサンプルを採取し、様々な形質を測定しています。
ハワイフトモモの葉の多様性
ハワイフトモモのいろいろ。左から、海岸沿いのハワイフトモモ、樹木限界のハワイフトモモ(標高2400m)、湿原のハワイフトモモ、湿潤地の巨木のハワイフトモモ。
地球規模で葉の特性を評価する
2000年前後から、植物の機能形質を世界規模で収集・データベース化が進み、地球規模で植物の多様性をより機能的に解析できるようになってきました。葉の強度は、葉の寿命とも密接に関わり、被食防衛や落ち葉の分解速度にも関係するため、葉の強度をグローバルで評価する必要があると考えました。国内外の28人の研究者と連携し、世界90カ所から2819種の植物の葉の強度のデータを収集、解析しました。その結果、葉の強度は種によって500-800倍もの違いがあることが分かりました。この違いは、葉の厚さや光合成速度の種による違い(それぞれ60倍、140倍)よりも大きいものです。つまり、種による葉の形質の違いを特徴付ける要因の一つとして、強度は重要と言えます。本研究では、気候の違いが葉の形質に及ぼす影響についても検討しました。特に、「熱帯では温帯に比べ、植物を食べる生物が多いため、葉がより頑強である」という20年来の有名な仮説を検証した結果、そのような傾向はないことが分かりました。一方で、乾燥地では葉が厚くなる傾向があり、強度もそれに伴って増加する傾向が見られました。ただし、葉の形質におけるこのような気候の影響は限定的であり、同じ環境で共存する植物種の間でも葉の形質は大きく異なることが分かりました。
パンチ試験
引っぱり試験
剪断試験
曲げ試験
一言に葉の強度と言っても、いろいろな力学特性や測定方法があります。
大気CO2濃度上昇によって植物は進化する?
現在の大気中のCO2濃度は約400ppm(0.04%)ですが、18世紀には約280ppmだったと言われています。1990年からの20年間だけを考えても、大気 CO2濃度は約40ppm増加しました。CO2は光合成の基質ですので、CO2濃度の増加は光合成に大きな影響を及ぼします。短期的にはCO2濃度増加によって光合成速度は増加します。しかし高濃度CO2条件で植物を育てると、初期に見せたような光合成速度の促進は見られなくなることが多いです(CO2順化)。このような高CO2応答研究は、制御環境条件のもと、対象植物を一世代だけ育てて、測定することがほとんどです。しかし、何世代にも渡る長期的な高CO2環境では、CO2応答性の違いが自然選択され、高CO2環境に適応した植物が進化する可能性があります。このような「高CO2進化」の可能性を検証するために、私はNatural CO2 spring(天然のCO2噴出地)周辺の植生に着目しました。各地のCO2噴出地を巡り、植物研究に有用なサイトを青森県や山形県にて見つけ、その周辺の植生(Onoda et al. 2005)や生理生態学的特性(Onoda et al. 2007)を記載しました。CO2噴出地の研究をまとめたものとして和文総説も書きました(小野田 2007)。また、移植実験によって、高CO2に適応した植物がいるかどうかを(Onoda et al. 2009, Nakamura et al. 2011)検証しました。CO2噴出地付近に生育していた植物は、遺伝的に気孔コンダクタンスが低い、デンプン蓄積が少ない傾向を示すものがいました。ただし、私の研究では、調査した全てのサイトで一貫した傾向は見られませんでした。CO2噴出地のような限られた範囲での進化は、自然選択圧と遺伝流動のバランスによって決まるため、サイトの大きさなども影響した可能性があります。
お問い合わせ:小野田雄介 yusuke.onoda*gmail.com (*を@に替えてください)