相続問題解決へのQ&A

Q1.相続人

Q2.遺産分割の方法

Q3.相続分

Q4.具体的な遺産の分け方

Q5.死亡保険金の扱い

Q6.遺産である不動産の評価方法

Q7.特別受益

Q8.寄与分

Q9.相続人の残した借金

Q10.遺留分

Q12.遺言の作成

Q1 夫は遺言を残さずに亡くなりました。夫の家族は、母、妻(私)、長女、長男です。また夫には3人の兄弟がいます。夫の相続人は誰になりますか。

A 遺言がない場合、民法で定められた相続人が被相続人の遺産を相続します。被相続人の配偶者は常に相続人となります。

そして、配偶者と同順位で、①子(相続時に子が既に死亡しているときは孫)が相続人となります。

子や孫がいないときは、②直系尊属(被相続人と血のつながった実父母など)、③兄弟姉妹の順に相続人となります。

以上から、本件では、妻、長女、長男が相続人となります。

Q2 夫が亡くなりました。夫には不動産などの遺産があります。この遺産をどのような方法で分けたらいいのでしょうか(相続人は妻、長女、長男)。

A 夫を被相続人(相続される人。つまり亡くなった人)とする遺産分割をする必要があります。

遺産分割には、

① 遺言の指定分割

② 協議による分割

③ 調停による分割

④ 審判による分割

…があります。

① 遺言の指定分割とは、被相続人が遺言で分割の方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託することです。例えば「不動産は妻に、現金は長女と長男に相続させる」という遺言がある場合、相続人はこの遺言どおりに分割することになります。遺産分割に関しては、遺言の指定分割が最も優先されます。

② 協議による分割とは、相続人全員が話し合いで遺産を分けることです。被相続人が遺言で禁じた場合を除き、相続人はいつでも協議で遺産分割をすることができます。

③ 調停による分割とは、協議が調わない場合、相続人の申立てにより、家庭裁判所で話し合いをして遺産を分けることです。

④ 審判による分割とは、調停による分割が調わない場合、家庭裁判所が遺産の分け方を決めることです。

夫の遺産は、①②③④の順番で分けることになります。

Q3 夫の相続人(妻、長女、長男)は、それぞれどれくらいの割合で夫の遺産を相続をするのでしょうか。

同順位の相続人が数人いるときは、以下の割合で相続することになります。

① 配偶者と子が相続人の場合は、それぞれ1/2。

② 配偶者と直系尊属が相続人の場合は、配偶者が2/3、直系尊属が1/3。

③ 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4。

④ 子、直系尊属または兄弟姉妹が数人いる場合、それぞれの相続分は同じとなります。

⑤ 子が相続人である場合、嫡出子(婚姻関係にある男女から生まれた子)でない子の相続分は、嫡出子の1/2。

⑥ 兄弟姉妹が相続人である場合、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(腹違いの兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の1/2。

以上から、本件では、妻が1/2、長女が1/4、長男が1/4の相続分となります。

Q4 夫の遺産は自宅不動産(土地、建物)と現金です。相続人である妻(私)、長女、長男は、この遺産をどのように分けたらいいのでしょうか。

遺産の分割は、遺産たる物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況、その他一切の事情を考慮して行います。

そして、実際に遺産分割する場合は以下の方法によって分割します。

① 現物分割:遺産を現物のまま分割する方法。

② 価額分割:遺産を売却などして金銭に換えてその金銭を分割する方法。

③ 代償分割:遺産の現物を特定の相続人に取得させ、その者に現物を取得しなかった他の相続人に対して金銭等を支払わせる方法

本件について考えてみると、

① 現物分割では、例えば妻が自宅不動産に住んでいるような場合に、自宅不動産を妻が取得し、残った現金を長女と長男が取得するという方法が考えられます。

② また、価額分割では、例えば、自宅不動産に誰も住んでいないような場合、自宅不動産を売却して、売却で得た金銭と元々あった現金を妻、長女、長男で分割する方法が考えられます。

③ 代償分割では、例えば、妻がこの自宅不動産に住んでいる一方で現金が少ない場合は、妻に自宅不動産を取得させて、妻が長女と長男に対して妻固有の金銭(遺産たる現金では足りない金額)を支払うという方法が考えられます。

Q5 夫には2000万円の死亡保険金がかけてありました。契約者・被保険者は夫、受取人は妻(私)です。遺産分割にあたって、この死亡保険金はどのように扱ったら良いのでしょうか。

死亡保険金は相続の対象となる遺産ではありません。相続とは関係なく保険契約上の受取人が保険金を取得することになります(大審院昭和6年2月20日判決)。

したがって本件では、妻が単独で死亡保険金を取得することになります。

もっとも、保険受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が、到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合には、死亡保険金を遺産の総額に算入する取り扱いをする場合もあります。

なお、相続税との関係では死亡保険金も遺産の一部とみなされますので(「みなし相続財産」と言われます)ご注意ください。

Q6 夫の遺産である自宅不動産は30年前に5000万円で買ったものですが、現在の時価は3000万円だそうです。遺産分割にあたって自宅不動産の価値をどのように算定すればいいのでしょうか。

A 遺産の評価は、実際に遺産分割をする時点での価額を基準とするのが実務の運用です。

そして、不動産の評価方法としては、固定資産評価額、地価公示価格、路線価、不動産業者の見積もりなどを参考にして算定する方法があります。

評価額について当事者間に争いがあるような場合、最終的には不動産鑑定を行うことになります。

Q7 夫は1500万円の預金を残して亡くなりました(相続人は妻、長女、長男)。もっとも、夫は生前、長男に住宅購入資金として300万円を渡していました。遺産分割にあたってこの300万円はどのように扱ったら良いのでしょうか。

A 共同相続人の中で、被相続人から遺贈(遺言で財産を譲渡すること)を受け、または婚姻や養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた人がいるときは(これらの贈与を「特別受益」といいます)、被相続人が相続開始のときに持っていた財産の額に、その贈与の額を加えたものを相続財産とみなします。この額を基礎として、(問3)のとおりに各相続人の一応の相続分を算定します。そして、特別受益を受けた者については、一応の相続分から特別受益分を差し引き、その残額が特別受益者が現実に受けるべき相続分となります。

本件では、長男が贈与された300万円は特別受益と考えられます。

したがって、この300万円は遺産の額に加えられ、遺産の総額は1800万円とみなされます。

そして、妻、長女、長男の相続分はそれぞれ1/2、1/4、1/4なので、一応の相続分はそれぞれ900万円、450万円、450万円となります。

そして、長男は特別受益を受けていたので一応の相続分である450万円から特別受益の300万円を差し引きます。

以上から、夫の遺産である1500万円は、妻が900万円、長女が450万円、長男が150万円を取得することになります。

Q8 父は生前、自営業で電気店を経営していました。私(長男)は父の生前、この電気店で働いて父の財産を増加させました。遺産分割にあたって私の働きは考慮されないでしょうか(相続人は、妻、長女、長男(私)。遺産の額は1500万円)。

A 共同相続人の中で、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいるときは、「寄与分」として評価します。

被相続人が相続開始のときに持っていた財産の額から、共同相続人の協議で定めた寄与分を差し引き、これを相続財産とみなします。

この額を基礎として、(Q3)のとおりに各相続人の一応の相続分を算定します。

そして、寄与分がある者については、この一応の相続分に寄与分を加えた額が現実に受けるべき相続分となります。

寄与分について、共同相続人の間で協議が調わないときは、家庭裁判所が決めることになります。

本件では、長男に寄与分があると考えられますので、遺産分割協議にあたってこの寄与分の額を決める必要があり、協議が調わないときは家庭裁判所が決めることになります。

仮に、長男の寄与分が300万円と評価されたとすると、遺産の1500万円から寄与分300万円を差し引いた1200万円が遺産の総額とみなされます。妻、長女、長男の相続分はそれぞれ1/2、1/4、1/4なので、一応の相続分はそれぞれ600万円、300万円、300万円となります。

そして、長男には寄与分があるので、一応の相続分である300万円に、寄与分の300万円を加えた600万円を長男は取得することになります。

Q9 夫が亡くなりましたが、夫には財産はなく、多額の借金がありました。私にはこの借金を払う余裕がないのですが、どうしたらよいでしょうか。

A 相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます。

したがって、相続人は被相続人の財産だけではなく借金も引き継ぐことになります。

もっとも、相続人は相続を放棄することができます。相続を放棄すれば被相続人の残した借金を支払う必要はありません。

相続放棄をする場合はその旨を家庭裁判所に申し出なければなりません。相続放棄は相続開始があったことを知ったときから3か月以内にする必要がありますので注意してください。

なお、相続財産(借金も含む)が全くないと信じることについて相当な理由があるときは、相続財産の存在を認識したとき、または通常これを認識できるときから3か月以内に相続放棄することができる場合もあります。

Q10 夫が亡くなったのですが、夫は全ての遺産を甥に贈与するという内容の遺言を書いていました。私達家族には何も残されないのでしょうか(相続人は妻、長女、長男。遺産は1000万円の預金)。

A 遺言によって第三者に遺産が贈与される場合でも、兄弟姉妹以外の相続人には、相続財産の一定割合が確保されます。これを「遺留分」といいます(相続開始前に生前贈与がなされた場合も遺留分が生じる場合があります)。

遺留分の割合は次のとおりです。

① 直系尊属のみが相続人である場合、被相続人の財産の1/3。

② それ以外の場合、被相続人の財産の1/2。

もっとも、被相続人の死亡によって当然に発生する相続とは異なり、遺留分は、遺留分を主張する者が遺贈や生前贈与を受けた者に対して遺留分の権利を行使する旨の意思表示をする必要があります(これを「遺留分減殺請求」といいます)。

本件では、妻、長女、長男に遺留分が認められます。妻、長女、長男が遺留分減殺請求をした場合、夫の遺産は1000万円の預金なので、その1/2である500万円が遺留分となります。妻、長女、長男の相続分は、それぞれ1/2、1/4、1/4なので、妻が250万円、長女が125万円、長男が125万円の遺留分減殺請求をすることができます。

なお、遺留分減殺請求は、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年以内にする必要がありますので注意してください。

Q11 これから遺言を書こうと思うのですが、遺言の書き方にはどのような方法があるのでしょうか。

A 遺言には、

① 普通方式遺言と、

② 特別方式遺言

があります。

① 普通方式遺言には、

(a) 自筆証書遺言

(b) 公正証書遺言

(c) 秘密証書遺言

があります。

② 特別方式遺言には

(d)危急時遺言

(e)隔絶地遺言

があります。これは普通方式遺言が不可能な場合(例えば、疾病や負傷で死亡の危急が迫った場合や、船舶や飛行機に乗っていて死亡の危急が迫った場合)の遺言方式で、普通方式遺言が可能になってから6か月間生存した場合は、遺言は無効となります。

普通方式遺言ですが、

(a) 自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し(代筆やワープロ打ちは不可)、押印する必要があります(実印である必要はありません)。そして、遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、検認という手続をする必要があります。自筆証書遺言は簡便な方法ですが、偽造・変造・紛失などのおそれがあり、相続人の争いの原因となることもあります。

(b) 公正証書遺言は、証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で述べ(これを「口授」といいます)、公証人が遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲読させる方法によって作成します。公正証書遺言は、証人や公証人が介在するため遺言の内容を完全に秘密にすることはできず一定の費用もかかりますが、偽造・変造・紛失等のおそれがなく確実性の高い遺言の作成方法といえます。

(c) 秘密証書遺言は、遺言者が、遺言となるべき証書に署名・押印し、その押印と同じ印章で証書を封印をします。遺言者が、公証人1名と証人2名以上の前にこの封書を提出して、自己の遺言である旨ならびにその筆者の氏名及び住所を申し出ます。公証人がその証書を提出した日付および遺言者の申出の内容を封紙に記載し、遺言者および証人とともに署名・押印します。遺言書の保管者は、自筆証書遺言と同様、検認の手続をする必要があります。

秘密証書遺言は、遺言内容の秘密を確保しつつ公証人の関与を経ることができるというメリットがありますが、紛失の危険は回避できません。

弁護士 山田晶久