ビントロングとは、食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科ビントロング属に属する動物です。生息地はインド北東部からミャンマー北部、中国南部、インドシナ半島、マレー半島、スマトラ島、ジャワ島東部、ボルネオ島、パラワン島と、東南アジアの森林に広く分布しています(下図左)。残念ながら、国際自然保護連合IUCNのレッドリストに、危急(絶滅危惧Ⅱ類)種として登録されており、絶滅の危機に瀕している種です。人為的な生息地の改変や喪失、狩猟、ペットとしての乱獲などが原因で、過去18年間で個体数が30%が減少したと考えられています(Willcox et al. 2016)。
単独性、夜行性、樹上性が強いですが、例外もあります。体重は5-15kgで、ジャコウネコ科に属する37種のうち、アフリカジャコウネコの次に大きな種です。全長は、ボルネオ島の個体に基づくと、140-160㎝です。全長の約半分が尾です。ジャコウネコ科で唯一、枝に巻き付けて体重を支えることができる尾(prehensile tail)を持ちます。
学名のArctictis binturongは、ギリシャ語でarkt-「クマ」とiktis-「キエリテン」、インドネシア語とマレー語でビントロングを指すbinturongから成り立っています。つまり、クマのようなキエリテンのような、現地語でビントロングと呼ばれている訳の分からないやつ、という意味です。私が初めてビントロングを見た時も、筋肉もりもりのクマと思いました。キエリテンはビントロングよりも華奢ですし茶色っぽいので、見間違えることはまずないでしょう。
世界最大のイチジク(Ficus punctata)を採食後に樹上で休憩するビントロング
ビントロングの分布図
飼育個体のビントロングの体毛。どうみても若かりし頃のお父さんの頭髪。
首輪型発信機を装着するために捕獲したビントロングのとてもかわいい足の裏。するどい爪。
ビントロングの最大の特徴は、全身を覆う黒い毛でしょう。一見もふもふしているように見えますが、剛毛です(上図中央)。見た目はサラサラヘアーの個体もいれば、くせ毛の個体もいます。また、若い野生個体は黒と黄がまざった色をしており、歳を取るにつれて黒くなるようですが、飼育個体を見るとそうでもないので、栄養状態によるのかもしれません。マレーシア・サバ州のドゥスン族の友人の話によると、歳を取った個体は尾が2、3回巻いており、若い個体はまっすぐだそうです。
爪も大きな特徴で、木を登るのに適した立派なかぎ爪をもっています(上図右)。この爪で巧妙に木を登ります(右の動画参照)。また、頭を下にして木を下ります。ちなみに、サルは頭を上にして木を下ります。
食性は雑食で、特に果実を頻繁に食べます。詳しくは、食物選択とイチジク食のページをご覧ください。
森の中で果たしている役割については、絞め殺しイチジクの種子散布のページをご覧ください。
下の枠内をクリックして動画を再生