果実食性シベットの共存機構
Coexistence mechanism of frugivorous civet species
調査地:タビン野生動物保護区 Tabin Wildlife Reserve
ダナンバレー自然保護区 Danum Valley Conservation Area
マリアウベイスン自然保護区 Maliau Basin Conservation Area
調査期間:2010-2018
調査地:タビン野生動物保護区 Tabin Wildlife Reserve
ダナンバレー自然保護区 Danum Valley Conservation Area
マリアウベイスン自然保護区 Maliau Basin Conservation Area
調査期間:2010-2018
ボルネオ島には、8種のシベットが生息しています(シベットって何?のページ参照)。そのうち、パームシベット亜科に属する、果実を主食とする果実食性シベットが4種います(右の写真)。一般に、近縁種が同じ場所に生息している場合は、何かしら異なった生態を持ちます。しかし、果実食性シベット4種は、夜行性、樹上性、果実食性と、とても似通った生態を持ちます。一体彼らがどうやってボルネオ島の森で共存しているのかを探りました。
体重の違い
パームシベット:約2㎏
ミスジパームシベット:約2㎏
ハクビシン:約3㎏
ビントロング:約10㎏
首輪型発信機を装着するために捕獲した果実食性シベット4種。左上:パームシベット、右上:ミスジパームシベット、左下:ビントロング、右下:ハクビシン。パームシベットだけ抱いている写真がなかったが、私の手の大きさを基準として大体の大きさの違いが分かる。
最初に着目したのは、生活する場所の違いです。ボルネオ島の熱帯雨林は樹高が他の熱帯雨林よりも高く、森林の階層構造が発達しています。森林の階層構造とは、草本層、低木層、亜高木層、高木層、超出木層(ボルネオ島の低地熱帯雨林の場合)などから成る、森林を構成する植物の高さのことです。最近、世界の熱帯雨林で一番高いフタバガキの仲間の木(96.9 m)がボルネオ島マレーシア領のサバ州で発見されました。いろいろな高さの木にいろいろな果実が成ります。もし、果実食性シベット4種が異なる高さに生息してすみ分けていれば、必然的に異なる種の果実を食べることになり、食べ分けもできているのではないかと考えました。
これを確かめるためには、果実食性シベット4種が何をどこで食べているのかを確認する必要があります。しかし、果実食性シベット4種は夜行性、樹上性です。樹高が高い夜の熱帯雨林で闇雲に探し回っても見つかるものではありません。
そこで、ボルネオ島の果実食性シベットに首輪型のラジオテレメトリー発信機を装着して、行動パターンを追跡しました。
ラジオテレメトリー法とは、行動パターンを知りたい動物に発信機を装着し、その発信機から出ている電波をアンテナと受信機を用いて受信し、動物の居場所を推定する方法です。1m強あるアンテナを担ぎ、森の中を移動しながら電波が一番強く受信できる方角を少なくとも3地点で記録し、動物の居場所を推定します(右の動画参照)。近年はGPSを使って、室内でパソコンの前に座りながら動物の居場所を衛星を通して把握できるテレメトリー追跡法が主流になりつつあります。しかし、GPSテレメトリー発信機は一台数十万円するので、貧乏な私は一台数万円のラジオテレメトリー発信機しか購入できませんでした…
夜の熱帯雨林を走り回って捕獲した果実食性シベットたちを追いかけた結果、以下のことが分かりました。
下の枠内をクリックして動画を再生
ラジオテレメトリー法で追跡した結果、パームシベット3個体(♂2♀1)、ミスジパームシベット2個体(♂2)、ビントロング1個体(♀)の行動圏が完全に重なっていました。つまり、少なくともこの3種は全く同じ場所で生息していました(右図)。
パームシベットの未舗装道路の利用のページでもお伝えしたように、未舗装道路沿いの環境は林冠が開けており、森林内部とは植生が異なります。川沿いの森林も林冠が開けているので、道路沿いと環境が似ています。そこで、未舗装道路と川の端から30m以内を林冠が開けた環境、30m以上を林冠が閉じた環境、と定義しました。
追跡した果実食性シベットの各個体ごとに、行動圏内の林冠が開けた環境と林冠が閉じた環境の面積を算出しました。そして、それぞれの環境に含まれる推定位置数を数えました。次に、行動圏内をまんべんなく使っていると仮定した場合の、それぞれの環境に含まれる位置数を推定しました。活動中と非活動中の実際の位置数と仮定した位置数を適合度のχ2検定を用いて比較したところ、次のような結果になりました。
パームシベットとミスジパームシベットは、林冠が開けた環境を活動中に好んで利用していました。非活動中はその傾向はありませんでした。一方、ビントロングは活動中も非活動中も、林冠が開けた環境と閉じた環境のどちらに対しても、選好していませんでした。
首輪型ラジオテレメトリーを装着したパームシベット3個体(♂2♀1)、ミスジパームシベット2個体(♂2)、ビントロング1個体(♀)の行動圏と推定位置
この結果は、2017年出版European Journal of Wildlife Research 第63巻に掲載されました。論文の摘要を読む
この結果に関する論文を現在執筆中なので詳しい内容は書けませんが、平面だけでなく立体、つまり高さによっても、パームシベット、ミスジパームシベット、ビントロングはすみ分けているようです。パームシベットは頻繁に地面を利用して、地上の果実や樹高1-2mの低い木の果実などの食物を食べます。一方で、ミスジパームシベットとビントロングは、地面に降りることはありますが、パームシベットと比べると稀です。また、地面近くの食物を利用することもめったにありません。合計4年間罠をいろいろな高さに設置しましたが、地面の罠に入ったのはパームシベットだけでした。
このことから、果実食性シベット3種は地面の利用頻度が異なることが分かりました。論文が受理されたら、詳細を書きます。
現段階の結果からは、パームシベット、ミスジパームシベット、ビントロングの3種について、一部しかご紹介できません。パームシベットとミスジパームシベットは林冠が開けた環境を好みますが、ビントロングにはそうした選好性がないこと、パームシベットのみが地面を頻繁に利用すること、がボルネオ島に生息している果実食性シベットの共存機構の一部です。
論文が受理されたら、結果を更新します。