シベットって何?

シベットとは、食肉目ジャコウネコ科に属する動物の総称です。シベット(civet)の和名はジャコウネコですが、ネコとは異なる生物なので、あえて英名のシベットと表記します。現在37種が知られていますが、遺伝解析の研究が進展すると、種数は増えるでしょう。シベットはアジア・アフリカに広く分布しています(右図)。日本にもハクビシンが生息していますが、台湾をはじめとした複数の地域から移入された外来種です(Inoue et al. 2012)。

ジャコウネコ科に属する種は、ジャコウネコ亜科、パームシベット亜科、ジェネット亜科、ヘミガルス亜科の4つのグループに分かれます(Patou et al. 2008)。ジャコウネコ亜科に属する種は、アジア・アフリカの両地域に分布しています。パームシベット亜科とヘミガルス亜科はアジアのみ、ジェネット亜科はアフリカのみに分布しています。

ボルネオ島にはジャコウネコ亜科のジャワジャコウネコ(下図左)、パームシベット亜科のパームシベット(下図右)、ミスジパームシベット、ハクビシン、ビントロング、ヘミガルス亜科のタイガーシベット(右下の動画)、クロヘミガルス、オッターシベットの計8種が生息しています。

シベットの分布図

ジャコウネコ亜科のジャワジャコウネコ(左)とパームシベット亜科のパームシベット(右)。ジェネット亜科の種の写真は持っていないので、google先生に聞いてください。ちなみに、この2種は攪乱耐性がとても強く、ボルネオ島のシベットの中で目撃頻度が非常に高いです。残飯をあさったり、キャンプの食糧を狙うこそ泥はたいていこの2種です。

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ヘミガルス亜科のタイガーシベットの親子。写真がなかったのでへたくそな動画で恐縮です。

シベットは全ての種が基本的に、単独性・夜行性・雑食性です。また、パームシベット亜科とジェネット亜科に属する種は巧みに木に登ります。

食肉目の中でもシベットは起源が古く、約4000万年前に地球上に出現したと考えられています(Eizirik & Murphy 2009)。人類が誕生したのがおよそ700万年と考えられているので、地球で生きる私たちの大先輩です。シベットは、形態をほとんど変えずに現在まで生きていると考えられています。つまり、太古の昔から胴長短足の体型を維持し続けているのです。人間社会で胴長短足は馬鹿にされやすいですが、シベットにとっては生きていくうえでとても都合がよい体型なのでしょう。

シベットは和名の由来である麝香(じゃこう)というにおいを持ちます。シベットの麝香は、会陰腺から出るシベトンという化学物質の香気です。世界的に有名なブランドの香水に麝香が使用されたことがありますが、野生のシベットが放つ麝香をほぼ毎日嗅いだ私にとって麝香は、頭痛の原因となるただの甘ったるいにおいです。ビントロングの尿には、ポップコーンの香り成分に似た2-アセチル-1-ピロリンという化合物が含まれています(Greene et al. 2016)。ただし、野生のビントロングが放つポップコーン臭はバター臭が強すぎて、これまた頭痛の原因となり、ポップコーンがしばらく食べられなくなります。

シベット界の胴長短足の代表選手パームシベット