果実食性シベットの採食生態

Feeding ecology of frugivorous civets

調査地:ダナンバレー自然保護区 Danum Valley Conservation Area

調査期間:2012-2014

パームシベットをはじめとした果実食性シベットは、イヌやネコと同じ、食肉目に属しています。

食肉目は基本的に、他個体の肉を食べるのに適した形態をしています。特に、肉を切り裂くための裂肉歯や、消化が容易な肉に合わせた、単純な構造の消化器官が食肉目の特徴的な形態です。

果実食性シベットも、典型的な食肉目の形態を保持しています。しかし、文字通り、果実食性シベットは果実を主食としています。果実の消化は肉ほど単純ではありません。果実食性シベットの糞を見ると、水分が多く含まれ、果実がほとんど消化されずに排泄されています(左下図)。

つまり、果実食性シベットは果実を効率よく消化できないのです。

さらに、代表的な果実食性動物(霊長目、翼手目)は、今巷で話題の腸内細菌の助けを借りて腸内発酵を行い、果実に含まれる多糖類からエネルギーを摂取しています。しかし、果実食性シベットの腸では、多糖類の発酵が行われません(Lambert et al. 2014)。

これほど生理的・形態的に果実食に不利な果実食性シベットは、果実の採食に関して何か秘策を持っているに違いありません。

そこで、果実食性シベットの果実の採食行動について調べました。果実食性シベットだけが行う行動なのかどうかは、他の果実食者と比較しなければ分からないので、ボルネオ島に生息する果実食者(霊長目、サイチョウ目)の採食行動も観察しました。

その結果、

1. 果実が成っている木(結実木)に長時間滞在して採食する

2. 食べる果実一粒を選ぶのに長時間かける

3. 果実一粒を選ぶ時間は時間とともに長くなる

ことが分かりました。

結実木に滞在する時間が長いと、その分多くの果実を食べることができ、有利です。ですので、ふつう体が大きい動物ほど長く滞在します(French & Smith 2005)。

左の動画は、先にイチジクの木で採食していたクロサイチョウAnthracoceros malayanusが、後から自分よりも大きなオナガサイチョウRhinoplax vigilが来たため、結実木から飛び去る様子を記録しています。

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果実食性シベットは体重が10倍以上あるオランウータンと変わらないくらい長く結実木に滞在しました。

これは、果実食性シベットが夜行性であることが大きく関与しています。観察した霊長目もサイチョウ目も、昼行性です。ところが果実食性シベットは、観察した結実木には夜間のみ訪問しました。ボルネオ島の夜行性果実食者には、オオコウモリがいます。オオコウモリは最大の種でも体重が果実食性シベットの半分程度です。

つまり、果実食性シベットはボルネオ島の夜行性果実食者では最大です。だから、オランウータンと同じくらい長く結実木で採食して、一回の採食量を多くすることができるのです。

そして、果実食性シベットは時間をかけて、単糖が多く含まれる果実を選んでいたことが分かりました。単糖は多糖と違い、消化に複雑な過程は必要なく、小腸上皮細胞から直接取り込むことができます(Southgate 1995)。

つまり果実食性シベットは、単純な消化管でも効率よくエネルギーを摂取できるように、単糖が多く含まれる果実を選んでいたのです。

果実食性シベットは、果実を超高速で口に入れる等の特別な採食行動はとりませんが、これらの採食行動は果実食に対する生理的・形態的な不利を補足しているのでしょう。

この結果は、2016年出版 Journal of Mammalogy 第97巻798-805ページに掲載されました。論文の摘要を読む