名古屋哲学研究会のみなさま
運営委員長の別所です。2025年度7月例会は、岩佐宣明事務局長がお亡くなりになったために中止せざるを得ませんでした。告別式は7月12日に家族葬として執り行われました。あらためて岩佐さんのご冥福をお祈りします。
この間、運営委員会を開いて今後の研究会運営について相談しています。多くの課題を解決しなければなりませんが、例会開催と会場についてはめどが立ちました。日本福祉大学の名古屋キャンパス(南館)で10月25日(土)に開催します。10月例会の内容は岩佐さんが準備していただいていたプログラムを実施します。案内文も岩佐さんのものを基本にしています。日時場所が変更になりますが、報告者とタイトルはそのままです。なお、オンライン例会の開催は今の体制では不可能ですので対面例会のみです。
14:30からの例会に先立ち、13:30から拡大運営委員会を開催しますので、運営委員および編集委員の方は同会場にお集まりください。
名古屋哲学究会10月例会案内
研究会2025年度10月例会を以下の要領で開催いたします。今回は、環境正義と環境への権利をめぐる国際的な視座と、環境思想を地域文化の再生と結びつける視座とをクロスさせながら、今一度「環境」というテーマを再考します。皆さま奮ってご参加ください。
・月日 2025年10月25日(土)
・時間 拡大運営委員会 13:30~14:10
例会 14:30~18:00
・場所 愛知県名古屋市中区千代田 5-22-35
日本福祉大学・名古屋キャンパス 南館501
(名鉄・地下鉄の鶴舞駅から北へ5分ほど)
【報告者】
・報告1:太田和彦(南山大学)
「環境正義は今?:文献・出来事・人物から見る展開」
・報告2:丹羽一晃(会員)
「環境思想家としての鶴見和子:社会思想と環境思想の交差点」
【報告1概要】
本報告は、「環境正義(Environmental Justice)」概念の国際的な展開と潮流を、鍵となる文献や象徴的な出来事・人物を追い、素描することを目的とする。環境正義運動は 1982 年のウォーレン郡 PCB 埋立て反対運動を嚆矢とする、環境被害が集中するコミュニティの権利要求が行われてきた。2022 年に第76回国連総会決議では「清潔で健康で持続可能な環境への権利」が公式に認められ、世界の気候・環境訴訟も2,600件超に達した。「未来のための金曜日」運動を代表とする若年層の「健康な環境の憲法上の権利」を求める活動が広がり、日本でも若者気候訴訟(名古屋地裁、2024 年)が提起され、国内初の民間電力10社を提訴している。一方で、米国ではトランプ政権(第2期)が環境保護庁の環境正義部局を事実上閉鎖し、30 年以上続いた専任組織を解体、職員を解雇あるいは他部署に転属させたうえ、 400 件超・17 億ドルの助成金を一括取消すなど、バックラッシュも強い。オランダでは政府の家畜削減計画に農家が激しく抵抗し、ロンドンでは気候変動政策が生活コスト上昇と結び付けられ陰謀論の拡散を伴う抗議運動として拡大した。これらの事例は、不平等是正を目的とした環境正義政策が、費用負担・職業喪失への不安と結びつくことで、エリートによる地方切り捨てとして反発を生むことを示唆している。本報告では、環境正義の経緯を概観することで、錯綜する状況を整理し、あらためて検討を始めるための状況を準備することを目指す。
【報告2概要】
鶴見和子は、戦後日本の社会変動論と内発的発展論の先駆者であり、晩年にかけて環境倫理の新地平を拓いた思想家である。アメリカでの学術経験を生かし、ヴァッサー大学で哲学修士、プリンストン大学で社会学博士号を取得。帰国後は地域社会の再生や公共哲学の涵養に取り組み、柳田国男・南方熊楠らの思想に触発され、理論構築と社会運動・調査研究を通じた実践を両立させた。西洋哲学・社会学理論と日本の民俗学や地域文化への深い関心を融合し、近代化論や公害批判を超える新たな視座を確立した。晩年に脳卒中で半身不随となる経験を経て、人間中心主義を超える「共育」を提唱。人間と自然が相互に育み合う動的プロセスを強調し、環境破壊や社会問題に対して共生の視点を提示した。彼女の学際的アプローチは社会思想のみならず環境思想としても再注目されるポテンシャルをもち、地域再生や持続可能な自然環境と社会に寄与する実践的示唆を与えている。またキーパーソン論の観点から、コミュニティ希薄化への対抗策も示した。アメリカの学問と日本文化を融合したその思想は、持続可能な未来への具体的指針となり、2026年の没後20周年を控え、再評価が求められている。
--
名古屋哲学研究会
運営委員長 別所良美