インタビュアーの声【2】

産後・育児・就労編では、アンケート用紙を改善するために、一部の方には、対面インタビューでお話をうかがいました。

助産実習直前の大学院助産師学生さんお2人と、その先生にも、インタビューをおこなっていただきました。

<『ママの声』インタビュアーに5つの質問>

Q1 インタビューをすることになった経緯について教えてください。

Q2 ママたちの妊娠・出産経験について印象的だったことは何でしたか?

Q3 インタビューで難しかったことはありましたか?例えば、どんなことに気をつけながら行いましたか?うまくいくために具体的なコツはありますか?

Q4 女性として、助産師として、今回ママたちにインタビューをした経験で何か役立つことはありましたか?

Q5 このプロジェクトについてのご感想、アドバイスなど何でもお願いします。

佐藤珠美さん

プロフィール(当時):助産師、看護大学教員、福岡県宗像市在住

Q1 インタビューをすることになった経緯について教えてください。

インタビュー担当の大学院生たちが、思ったほど余裕がなく、インタビュー時にお子さんをみるサポートも必要で、託児を探すのにも手間取った感じでしたから、それをカバーしなければという気持ちで協力することにしました。インタビューそのものは、特に意識しませんでした。ただ、自分の考えを挟み込まず、研究者の意図を尊重してという気持ちでした。私と対象の方々とは、もともと面識があったので、知っていることを飛ばしてしまわず、新たなこととして丁寧に聞くようにしました。

Q2 ママたちの妊娠・出産経験について印象的だったことは何でしたか?

インタビューの内容(ボリューム)が多かったので、時間を心配しました。また、対象者の方が疲れるかなと心配していました。しかし実際に行ってみると、最初は淡々とだったけれど、お母様たちがだんだん内容に引き込まれるというか、ご自分の心にひっかかっていたりしたことがあると饒舌になってお話しくださった様子が印象に残りました。後半になっても調子は崩れないし、インタビューが終わっても、「楽しかった」と急ぐ用事が無い方はその後もたわいも無い話を続けていらっしゃいました。ママたちが疲れなかった理由は自分が話したいことを話している、参加している、私の体験を役に立ててほしい、という気持ちがあるからかな、と思いました。「面白かった」という言葉も印象に残りました。

妊娠・出産体験そのものは、特に目新しいことはありませんでしたが、性や家族関係の問題がどんどんでてきて、日ごろ見ている感じと異なっていたのがちょっと驚きでした。結構、赤裸々に話してくださるので途中大丈夫かなとも心配しましたが、話し終わったときにさっぱりしていらっしゃったので、大丈夫そうだなと思いました。ずっと昔、いくつか、悩ましい性の問題について相談を受け、悩みながら対応した経験が私にあったので、どぎまぎせずに話を聴けたのでしょうか。その経験というのは、妊娠中の夫婦関係(個別相談)や更年期の性の悩み(グループディスカッション)などに関するものです。何れも、こちらから誘導したものでなく、相談として持ちかけられたものでした。それらは、介入研究の一貫で得られたものですから、勿論録音をしていました。今回は、こちらから性の質問に答えていただくというもので、私にとっては初めてのことでした。以前の経験とはちょっと違いました。多少、緊張はしていましたが、他と同じような態度で質問したと思います。ママたちは、あまり緊張される様子はなく、自然な感じで、素直な気持ちを話してくださったと思います。アドバイスがほしいとかではなく、「そういうこともあるよね」とあるがまま受けとめてほしいという感じでした。勿論、何もない方もいますが、ないことについてもその意味を説明してくださったと思います。産後の性の問題についてママたちの声を聞いたのは初めてでしたので勉強になりました。 

Q3 インタビューで難しかったことはありましたか?例えば、どんなことに気をつけながら行いましたか?うまくいくために具体的なコツはありますか?

コツというのはないけれど、相手の表情やしぐさ。声の調子などもあわせてみながらインタビューを進めることでしょうか。相手が考える様子に自分を合わせるようにしました。単に、少し考えているときと、これは話すかどうかと迷っているときの間の開け方は違うと思います。目があっていなかったり、手遊びをしたり、言いよどんだり、口ごもったりなどがあれば話したくないと感じます。そのようなときは無理をせず、もし何かあったら後で話してくださいと伝えます。それから、考えている様子のときは、少し待ちます。話を聴く態度として、何でも話してよいと安心感を与えること、姑や夫へのマイナス感情がでても批判せず、受け止めることなどもコツかなと思います。 

Q4 女性として、助産師として、今回ママたちにインタビューをした経験で、何か役立つことはありましたか?

看護や医療に女性の意見を反映させることが当たり前だというメッセージでしょうか。参加型医療と言いながら、実際にはそれが十分できているかどうか。女性の意見を取り入れることで、看護の質があがるし、そのことが看護職の地位向上にもつながるのではと感じたことです。以前から、ケアのなかで少しずつ取り組んできたことですが、研究という形で見せていただいたことは勉強になりました。

これまで、私たちはといってよいかどうかわかりませんが顧客満足度を把握してきたかどうか。ケアの受け手はどうしても遠慮をしますので、問題や更なるニードがあってもなかなか表明してくれません。お産の振り返りのケアをするようになりましたが、妊娠~産後までのケアの振り返りも必要だなと思いました。そのようなことを丁寧にしていけば、助産師がママたちの女性の身近な存在として認識され、もっと期待してくれるようになると思います。そのことは、繰り返しになりますが、助産師のケアの質の向上、ひいては必要な存在として社会的に認知されるでしょう。 

Q5 このプロジェクトについての感想、アドバイス、ママたちへのメッセージなど何でもお願いします。

参加者の方たちが、普段言いにくいことも話してくれて、本当に率直な気持ちを寄せてくださったと感じました。助産師外来で継続的に関わっている人はそうでもないかもしれませんが、施設での妊娠・出産のケアの一般的な体制が、ケアの受け手の視点で組まれているとは限りません。かかりつけの”my助産師”がいないこと、断片的な関わりしかないこと、ゆっくりと話す時間がなく、そのような声を聞いてもらえる機会が少なかったことも影響しているのでしょう。今回の調査を通して、ママたちにはたくさん話したいことがあると感じました。ママたちの貴重な声をぜひ生かしてください。楽しみにしています。

研究計画書を読ませていただいたときには、現在の姿までは見えませんでした。量は多いし、欲張りな研究だと思いました。ここまできてわかったのは、質問項目の中には「こんなことはもうわかっているのでは」と思うものもあるのだけど、「わかっている」というのがもしかしたら「わかっているつもり」だったかもしれない。また、ある部分に焦点を当てて調べている研究は多くても、今回のようにトータルには見た研究は少なかった。だから、一回きちんと聴く必要があったということです。 研究というと完成して公表されるものが多いように感じていたのですが、今回のやり方は、研究者と対象者が協力して成果を分かち合いながら進めている様がとても面白く、楽しいと思いました。このようなやり方は、アメリカではふつうのやり方ですか?

(岸)

「参加型研究」というとアクションリサーチなどのプロジェクト型が多く、例えばこのように、サーベイについて参加型を追求する研究、ウェブサイトで経過を発表していく研究は実はアメリカでもあまりみたことがありません。ただ、現在、情報革命が起こっていて、どのように情報をシェアするか、いつ、誰の為に、どのように、など、クリエイティブに新たな方法を探っても良い時期だと思います。「参加型」研究はこのように応用することも可能だと思います。本研究はアメリカでも典型的では決してありませんが、アメリカで学んできたことをもとにしているのは確かです。参加型研究というのは一定のお手前やマニュアルがある研究デザインではなく、研究哲学なのですから、サーベイでも尺度開発でも、すべての研究プロセスで参加型は可能だしそうあるべきだと思います。

この方法によって不利になることもたくさんあります。たとえば、専門家の査読なく発表するため、情報の質の担保の問題があります。既にどこか(ウェブ上であっても)に発表された研究は採択しない学術雑誌も多くあるため、権威ある学術雑誌の業績を増やしたい研究者は、こんな方法をとらないかもしれません。また、こうして一般公開することで、今回の準備研究の内容が後の全国調査の対象者の意識にバイアスになる恐れもあります。でも今回参加した対象者の方たちには、「参加して良かった」とこの準備研究からも最大限得ていただきたい。バランスが難しいです。こんなことを今後、方法論研究の論文にまとめたいと思います。これからもシェアさせてください。アドバイスがおありでしたらぜひお願いします。

そうですね。私も上記の点で、多くの研究者は自分の成果を出す際に慎重になりますから、研究途中からネットで世間に成果を公開していることは驚きでした。論文で発表するのは意味がありますが、それでは限られた人にしか読んでもらえませんね。研究者は、「研究は誰のため?何のため?」ということと、「研究者として認められなければならない」というところで揺れ動くものだと思います。当事者抜きの研究が本当に問題解決に繋がっているのかと疑問に思うこともあります。たくさんの研究が報告されているけれど、それらが実際にどれほど役立っているでしょうか。同じような研究が繰り返され、どうどうめぐりをしていることもないとはいえません。さらに、私たち看護者はケアを提供する職業でもあるので、クールで客観的な研究者の立場との両立にいつも悩みというか葛藤を感じます。この試みは、研究者の葛藤を減らし、お母さん方を研究に引き込むことに役立つと思いました。お母さん方を味方につけた研究は発展すると思います。インターネットを使うのはよいと思います。NGOでも調査研究を発表し、ネットで公開している例をみます。それにはママたちからの多くのアクセスがあるようです。

頑張ってください。私も自分の研究の速報を対象者の方々に迷いながらも返してきたので、これでいいんだと思います。 院生も私にも学ぶことがたくさんありました。ありがとうございました。