インタビュアーの声【1】

妊娠・出産編では記述式アンケートに答えてくださった方のうち、承諾してくださった方に、電話インタビューでさらに深くお話をうかがいました。

電話インタビューを約20件ずつ担当したインタビュアー(登坂有紀子さん&滝川敦子さん)の感想をご紹介します。

ご協力くださったすべての方へ、本当にありがとうございました!

<『ママの声』インタビュアーに5つの質問>

Q1 インタビューをすることになった時の気持ちは?

Q2 ママたちにインタビューしてみて、ママたちの妊娠・出産経験について印象的だったことは何でしたか?

Q3 インタビューで難しかったことはありましたか?例えば、どんなことに気をつけながら行いましたか?うまくいくために具体的なコツってありますか?

Q4 ママとして、助産師として、今回ママたちにインタビューをした経験で、何か役立つことってありましたか?

Q5 このプロジェクトについての感想、アドバイスなど何でもお願いします。

登坂有紀子さん

プロフィール(当時):助産師、36歳、1児の母、産休中、横浜市在住

 

Q1 電話インタビューを担当することになった時の気持ちは?

  研究のためのインタビューという経験は初めてだったので、正直、自分でよいかなぁ、どんなふうにインタビューが使われるのだろう?という戸惑いもありました。でも、自分でも役に立てるのならぜひやってみたいという好奇心が勝った感じでした。あの頃は産休が終わって育休に入って産後1、2か月くらいの頃で、まだ生活のリズムもついていない頃だったと思います。寒い時期でほとんど外出もせず、夫以外と話すことも少なく、家に引きこもって育児をしているのは良くない気がして、人と話したいなという気持ちもあったと思います。自分と同じくらいの時期のお母さんたちに電話インタビューをしたのですが、同じように人と話したいと思っていた方もいらっしゃったように感じました。

 

Q2 ママたちにインタビューしてみて、ママたちの妊娠・出産経験について印象的だったことは何でしたか?

自分もそうだったのですが、自分がお産をした病院やお世話になったスタッフに対してはあまり表だって文句を言いたくないと思います。赤ちゃんの具合が悪いと憤りを出しやすいけれど、赤ちゃんが元気だと文句はいわないで静かに退院する方は絶対多いと思います。なので、インタビューで、第三者の立場で、専門職の自分が、ただ話を聴く人として入ったことで、ネガティブなことも言えたのかなと思います。話したかったのだろうな、良かったなと思う方もいらっしゃったし、思いださせてしまって悪かったかなと思ったこともありました。硬膜外麻酔を受けたかったのに受けられなかった、という声や、スタッフについてもらえなかった、というのが多かったです。病院やスタッフにはそういうことは言いづらいと思います。

自分の経験を生かして改善してほしい、という人はけっこういたと思います。話してくれるからには意図があるわけで。ただ話したいだけというのもあるかもしれないけど。着信拒否の人、データを読ませていただいて気になった方で、電話がつながらなかった方も多くて心残りでした。

自分で選択して病院を選べている人は、言葉は少なくても強い意志を感じました。とてもよく調べている人も多いことがわかりました。自分の出産に納得がいかない人、消化できないと、後でもやもやするかなと思います。出産後すぐではなくて、半年後とか1年後とか、自分が次に出産する時などに思いだしてもやもやしてしまうのかなと思います。普段こういうことを解決する場所がないと思います。

 

Q3 インタビューで難しかったことはありましたか?例えば、どんなことに気をつけながら行いましたか?うまくいくために具体的なコツってありますか?

  相手があることだから、気持ちを害さないように、インタビューをしたことで不快な気持ちにさせてしまわないようには気を使いました。電話をする時間は、朝は10時以降11時半くらい、午後は1時~4時までくらいにしました。電話は相手が見えないから、話し方や言葉遣いは押し付けがましい感じにならないように気を遣いました。例えて言うなら、近所のママ友みたいな感じで、あまり冷たい感じにならないように、かといって親しすぎない感じで、相手の距離感に合わせました。初めに「お産はどうでしたか?」と質問して、その反応で距離感をはかったりしました。

インタビューをしている間は、赤ちゃんが寝ていたら抱っこしながらかけたり、夫に連れ出してもらったりしました。本当はもっとインタビューしたかったんだけど時間的な制約があり、妊娠中だったらもっと暇があったので残念でした。

 

Q4 ママとして、助産師として、今回ママたちにインタビューをした経験で、何か役立つことってありましたか?

  たくさんあります。人によって要望がすごく違うということはとても体感した。例えば、助産師はナチュラルバースで母乳育児がベストって思っている助産師が多いけど、乳房ケアにも流行があるし、いろんなやり方があるから、一つに固執するのは良くないなと思いました。お母様たちは意外と無痛分娩の希望が多かったし、なるべく楽に、スマートに育児をすませたいという方もいたし、母乳も出なければいい、母乳・母乳って言われたら発狂しそうで言われるのがいやだった、という方もいました。そういう方にも柔軟に対応できるようになりたい、と、今までも分かっていたつもりだったけれど、今回改めて体感できた感じでした。子どもができても生活感をだしたくないとか、おばさん化したくないとか、自分も理解できる部分はあるのでわかります。無痛分娩についても、少し勉強した方がいいかな、今後スタンダードになるのかなという気がしました。ミルクも、難しい人はいるし、本人が幸せなら使ってもいいんじゃないかな、むりくりやるのは良くないな、母が納得できて幸せじゃないと子どもは幸せにならないって思います。

また、いろんな病院のことを知ることができました。病院ごとの違いや地域性による違いもすごく感じました。若ければ幸せとか不幸とかではなく、とても若くてもサポートがある環境なら問題ない。年を重ねて知恵があっても幸せとは限らない。地域差では、都市部はガードが堅いのかな、自分の理想の分娩に対する思いが強いのかなと思いました。硬膜外麻酔でぴったりくっついてもらって全然痛くなくて元気な赤ちゃんが生まれるとか。同じ都市部でも別の病院の地域は下町で落ち着いた感じでした。普段、職場で、ここの病院に来られる方たちは、とよく話すけれど、実はきちんと比べたことはないから本当はよく知らないかも、と思いました。

 

Q5 このプロジェクトについての感想、アドバイスなど何でもお願いします。

 どんなふうに結果をまとめるのか、とても興味があります。こんな膨大な量で大変だと思いますが、生の声を今後に生かせれば貴重ですよね。

 

滝川敦子さん

プロフィール(当時):助産師、34歳、3児の母、神戸市在住

 

Q1 電話インタビューを担当することになった時の気持ちは?

もともと在米中から岸さんの研究に興味があったので、インタビューのお手伝いもやってみたい!って直感でした。臨床現場で働いていると、退院後の産後ママの声を聞くチャンスはほとんどないので、助産師としても、同じママとしても興味がありました。

いざインタビューをする段階になって回答アンケートを受け取った時、「私で務まる!?」って思いました。貴重な時間を割いて丁寧に答えていただいたアンケートに重みを感じました。インタビュー前は相手はどんな方だろう?話してくれるかな?相手に嫌な思いをさせたくない、など不安で、本当に緊張しました。

アンケートを読んでいた時には多分助産師の視点で読んでいたと思うのですが、インタビューを続けていくうちに自分はママの立場だな、と思いました。ママの心境も医療者側の心境もどっちもわかるというか…。助産師としてインタビューするよりも、ママとしての方が本音を話してくれるような気がしました。特に、経産婦さんが上の子について話してくださる時など、「今大変な時期だろうな」と共感しました。

 

Q2 ママたちにインタビューしてみて、ママたちの妊娠・出産経験について印象的だったことは何でしたか?

千差万別、みんな同じじゃないっていうことです。例えば、働いている時にも、自分の中で、こういう時はこう、っていう先入観があったのですが、決してそうではなくて、背景も違えば、精神面でも身体面でも、みんな違う!ということが良くわかりました。例えば、このインタビューを経験する前は、『2人目、3人目のお産は楽なものだ』とか、『近所に親が住んでいたら楽だろう』とか、『夫の立ち会いをしてもらいたいと思うのが普通』とか、型にあてはめていたと思います。でも実際は経産婦の方でもお産は大変だったり、育児も上の子がいて大変な人もいれば、楽だと思える人もいたり、近所に親が住んでいても頼れなかったり、などなど。インタビューしながら自分の思い込みで相槌をうってたところもあるかもしれません。あれ?そう思わないんだ!?って意外に思った事が多々ありました。

私自身も母親なのでいろんなママ友はいますが、ママ友って性格や考え方が合う人同志が集まりやすいので、今回のインタビューでは本当に様々な人と話す貴重な機会になりました。

他にも、自分の家族の事なども、例えばお姑さんの対応がいやだったとか、姉妹にいやなことを言われてしまったなど、愚痴を話してくれたり、そういうことも出産や育児にも多少なりとも影響するんだなあと思ったりしました。

 

Q3 インタビューで難しかったことはありましたか?例えば、どんなことに気をつけながら行いましたか?うまくいくために具体的なコツってありますか?

  話を聴く時には、あなたが言っている事を理解していますよ、ということが伝わるように聴く事をとても意識しました。でも実際は、話をしやすいように相槌をうつつもりが、無意識に答えを誘導していたなあと反省しました。聴くのって本当に難しいと実感しました。あと、早口になってしまって・・・。岸さんにも途中で言われたけど、「待つ」って大切ですね。自分の質問に不安で、「私の質問がおかしかったかな」、とか、「あ、今の質問いやだったかも!?」と思っても、相手は実はそう思っていなくて、真面目に答えようとしてじっくり考えていてくださっていることが多かったです。でもついつい余計な相槌いれたりして待てない私。普段の生活でもよくあるなあ~、と反省しました。

電話をするタイミングも授乳中だったり、赤ちゃんのお世話中だったりして、電話インタビューのせいで中断させてしまっているかもしれない、と思うととても申し訳なかったのですが、みなさん難しい時には「今ちょうど授乳するところで」とか「またあとで」と気さくにおっしゃってくださったので、電話をかけ直しやすかったです。

自分自身は、インタビューをする時には、夫にこどもたちを連れだしてもらったり、みていてもらって別室にこもって電話をかけたりしました。子どもたちが保育園や幼稚園週に2回行った時や、私の新生児訪問の仕事が早く終わった時の午後などにおこないました。

 

Q4 ママとして、助産師として、今回ママたちにインタビューをした経験で、何か役立つことってありましたか?

  学ぶことばかり!でした。みんな一生懸命で、いろんな背景をかかえていて、それでも前向きにがんばっている様子がうかがえて、元気をもらっていました。

医療者に対してこういうふうに感じていたんだ(いいことも悪い事も)、って客観的に知ることが出来て、わが身を振り返ることがしばしばありました。例えば、悪い事では、陣痛中に助産師がちょっと席をはずすだけで、すごくほっとかれた気持ちだった・・・とか、母乳のあげ方を2人目(3人目)だからほとんど介助してもらえなかったとか。その逆はありました。2人目(3人目)だったけれど、初めての人と同じように説明してもらえてすごく助かったとか。もう知っていてわかっているのにと思いつつがまんして聞いていた、という方もいたし、経産婦でも丁寧にしてほしかったという方もいて、本当にいろいろでした。

他にもいいこともたくさんあったはずなのに、それはあんまり思い出せないです。例えば、「旦那さんがいてくれるより助産師にいてほしかった」とか。私自身はお産の時に助産師よりも夫にそばにいてほしいタイプだったので、仕事でも「ご主人にさすってもらえるように」と気をきかせて離れたりしていたのですが、今回のインタビューで「だんなさんがいるからといって助産師さんに出ていかれるのがいやだった」とおっしゃった方もいて、そこまで助産師は必要とされていたんだとびっくりしました。

いつか助産師の仕事に戻るとしたら、ルーチンワーク(日常の業務)に追われそうですが、今回のインタビューの方たちの声を思い出すと思います。今回の経験で学んだことを忘れないように、教訓にしていくと思います。例えば、型にはめないということ、何をしてほしいか一人一人に聞く事、言いたくても言えない人もいるということ、など。医療者に対してはなかなかその場で言いたい事も言えない人が多いと思うので、聞きたい事や言いたい事を聴ける人になりたいです。お産の後って感情の起伏が激しくて自分の意見をわかってもらえないと傷つきやすい。でも、入院中って、迷惑かけたらだめとか、変なことを言って嫌な患者と思われたくないとか、気を使ってしまいがちなので、言えないことが多いです。自分が働いていた職場でも、こういうふうに思っていた人がきっといっぱいいたんだろうな、と思いました。退院してしばらくたってから、友だちとか、母乳外来や新生児訪問などではお産についてふり返ってたくさん話す事があるけれど、産婦人科で働く医療者の耳には直接入ることがないですよね。今回のママたちは、医療者に伝えたいという思いもあったのかもしれません。

また、私たち医療者にとっては、正直、「たくさんある事例のひとつ」って思いがちだったことでも、妊産婦さんにしてみれば人生の一大イベントなのだから、もっとその重みを知らなければいけない、と感じました。

ママの立場としても、今回のインタビューを経験したので、みんな同じじゃなくていいし、育児しているとどうしても隣が気になるところがあるので、考え方ややり方なんてひとそれぞれだから、焦らなくていいよ~と思えるようになったかもしれません。

産科医療施設については、産後の育児サークルや産後のイベント(ヨガ、産後のエアロビクスなど)は、やはり行きやすくて、友達も作りやすくて良さそう!と思いました。同じ病院で出産したというだけで親近感がわくので効果が高いと思います。もちろん妊娠中からのつきあいがあれば一番ですが、実際には、赤ちゃんがいない時って照れくさかったり、友だちってなかなか改めて作れない気がします。赤ちゃんが生まれてからでも、健診などでも歯がゆいというか、友だちづくりの仲介をしてあげたくなるような場面をよく見かけます。人件費や業務拡大が社会問題になっているので難しいかもしれませんが、産科施設で産後のクラスがもっと充実するといいなと思いました。

 

Q5 このプロジェクトについての感想、アドバイスなど何でもお願いします。

  こうやって本音を聞くアンケートもなかなかないので、社会が動いてくれるといいなと思います。本音だろうと思えた理由は、アンケートの内容で、今回のお産のケアにどのくらい満足していますか?とか、出産中の医師、助産師など医療者の対応はどうでしたか?などの質問で、アンケートの5段階で答える質問や自由記述のところでも満足してない人が意外と多くて、お産って一生のイベントなのに満足していないって・・・!?と驚きました。ネガティブなことをたくさん書かれていても電話ではあまり詳しく話したくなさそうだった方もいました。良いことは湧き出るように話してくださるというか、アンケートで書いてくださった内容を、そのまま電話でも話してくださったことも多くて、よく覚えているな、本当にそうだったんだろうな、と思いました。こういう形のアンケートだからここまで答えてくれるんだろうなと思いました。

マスコミや社会の人達へ…って項目も、法律作る人たちには普段わからないし、届かない、生の声だと思いました。特にお金の事に関しては生の声がたくさん聞けた気がします。子ども手当のこと、出産育児一時金のことなど、友だちともあまりお金の話は詳しく話さないかもしれません。