Makino & Sakai (2007) の解説

いちどに多くの花を咲かせる株ほど送粉者の訪問が多くなる現象は、私の卒研(Makino, Ohashi & Sakai 2007)だけではなく、多くの研究で報告されています。花数の多い株ほど見た目も大きく、蜜などの報酬をいちどにたくさん得られるため、送粉者が多く誘引されるのは当然のことのように思えます。そのせいか、「見た目」と「中身(報酬)」はこれまでとくに区別されてきませんでした。しかし、花数と訪問数の関係は、どちらか一方だけで説明できるかもしれません。たとえば、見た目さえよければ何回でも訪問してもらえるかもしれません。しかし逆に、いくら見た目がよくても中身がなければ送粉者に避けられてしまうかもしれません。どちらが送粉者を誘引しているのかによって、植物が資源を投資する先が変わってくるでしょう。

そこで本研究では「見た目」と「中身」、どちらが送粉者の誘引に効いているのかを明らかにするため、人工花とクロマルハナバチを用いた室内実験を行いました。実験では、ハチが株をえらぶときの基準として、見た目(花数の多少)と中身(蜜の有無)という2種類の形質を組みあわせた株をケージ内に配置し、マルハナバチを8時間ずつ採餌させました。すると、いずれの個体も最初は中身によらず見た目の大きな 株を好むが、しだいに中身のある株の位置を学習し、数時間後には、 中身の入った株ばかりを訪れるようになりました(図1)。さらに送粉者がたどる道すじも、学習の前後で大きく変化していました(図2)。この結果は、見た目は経験の未熟な個体の誘引に、中身は再訪問の促進に重要であることを示しています。このように、見た目と中身では誘引する送粉者のタイプが異なること、さらにそれぞれのタイプがたどる道すじ(花粉の運搬先)が異なることを考えると、見た目と中身には異なる選択圧がはたらいているかもしれません。

図1 学習による株のえらび方の変化

はじめは「中身」に関係なく、「見た目(花数)」で選ぶが、しだいに「中身」のあり・なしを区別するようになる。

図2 学習による移動経路の変化の例

矢印はハチの移動経路を、太さは通過回数を示す。株間は 50 cm。青丸は中身のある株、赤×は中身のない株、大きさは花数を表す。ハチは、最初はどの株もひと通り訪れるが、株の位置を覚えると中身のない株を避け、中身のある株を巡回するようになる。

人工花から吸蜜するクロマルハナバチ

Makino TT and Sakai S (2007) Experience changes pollinator responses to floral display size: from size-based to reward-based foraging. Functional Ecology, 21:854-863 [link]